第20Q 試合形式
第20Q 試合形式
バスケにおいてポジションは5つに分けられる。
その中でも、ゲーム全体の指揮を執る役目を持つ
とまあ、こうは言ったが必ず5つのポジションが埋まっていないといけない、なんて制約はないのも事実だ。
プロでは|出場選手登録ロスター》は12人だが、学生バスケは15人。そんな中、うちの水咲高校は正直なところ強豪校でもないし中堅校でもない。そんなバスケ部の部員全員を入れても15人に満たない。だが、ユニフォームは貰えるのは確実。とはいえ、どのチームでも結果を出さなければ試合に出ることは叶わない。中学時代もユニフォームは貰えていたけど、試合にほとんど出ることができなかった己の過去が頭を過る。
――高校でもベンチの温め役になるつもりはない。
俺の決意を具現化しているかのように、俺の右手は皮膚に爪が食い込むぐらい強い跡が残るぐらい握り締めていた。
「はい。じゃあこれからチーム分け発表するけど、どのチームになってもいつも通りにな」
そして桐谷先生によって、1人ずつ名前が呼ばれていく。
前回の地区予選時は元々メンバーが少ないのに加え、仮入部期間等が重なり、俺たち1年を含めて試合形式でゲームを行う際にはもうすでに暫定スタメンは決まっていたも同然だったのもあり、こうやって練習とはいえ試合形式の5vs5が一番楽しい。
そんなこんなで、チームはこんな風になった。
―☆―☆―☆―☆―☆―☆―☆―
水咲高校
チームA スターティングファイブ
・
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・
・
・
チームB スターティングファイブ
・
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・
・
―☆―☆―☆―☆―☆―☆―☆―
「チームAとチームBってアイドルじゃん」
「俺たちはアイドルだった……?」
「言うな、というかそれ聞いてからそうとしか思えなくなったんだけど!?」
「何言ってんだお前」
「ほら、うちの白橋が今から見本見せてくれるらしい」
「しょーもな」と言いながら朝比奈は体育館の外に出ようとする。少しわちゃわちゃ(?)しているとはいえ、もう少しで5vs5のゲームが始まる。そんな中、外に行こうとするのを見て俺は思わず声をかけた。
「朝比奈、もう少しで試合始まるけど何処行くん」
「便所」
「あ、そう……」
1人遠ざかる背を見て、何とも言えない気持ちになった。まあ連れションするつもりねえし。なんというかムカつく奴だけど、最初の(とはいっても数時間で跡形もなく消えたが)明るく元気にを体現したようなあの第一印象と大きく違っていて、あの1年前にあった試合の後の数か月間に何かあったのだろうか。
「夜野ー、どしたん?」
「須田さん」
「おう、俺だよ」
「いや朝比奈がトイレでついさっき出て行ったんですけど……」
「ふーん……」
ひょっこりと後ろから須田さんが顔を出してきて、俺の言葉を聞いたとたん何か考える素振りを見せた。
「そろそろ
「ああいや別にトイレぐらいいいよ。なんか俺もトイレ行きたくなってきたし」
「じゃ!」と一目散に走り去る後ろ姿を見て、1か月一緒にいるけどこの人も謎だよなぁ……なんて。
気が付けば「しゃあねえですね……」と白橋さんが言っていて、白橋さん自身の首をコキッと鳴らす音のみとなった室内。空白な時間が生まれたが、白橋さんが動き始めたのを見て近くにいた部員のほとんどが何故か白橋さんから視線を動かせずにいた。
そして動き出す。
「……チームB所属のシュンスケです☆ きゃっぴるーん」
ウィンクをしながら舌を出し、両手でハートを出す姿に見ていた人達のほとんどは誰も言葉を発することができなかった。ただ1人を除いて。
「きしょいわ、さぶいぼ立ったわ」
「なんでよ! このおれがかわい子ぶってるだけじゃない!」
「185㎝のガタイに加えてチャラ男が突然『きゃっぴるーん』って両手でハートを作るのを傍から見てみ? 恐怖でしかねえよ」
2年の安藤さんである。流石、『2年の
「あと小澤が表情変わらないとはいえ、恐らくドン引きしてるからな?」
小澤さんを指差しながらそういう安藤さんに、その言葉を聞いた白橋さんは突然電源が切れたロボットのようにスン……と静かになる。
「――試合やるんでしょ?」
それを諸共せず、我が部1人しかいない女子マネージャーの小澤さんが真顔で放った一言に「ハァイ!!」とまるで軍隊の掛け声のような声を上げるのは2年男子達である。それに「うるっさ……」と耳を押さえるのは内山さん、ずっとニコニコしているのは路川さんの3年生。
「流石小澤さんや……、白橋の痴態を諸共せず通常運転な無関心さ。俺でなきゃ見逃しちゃうね……」
「明らかに呆れているだけでは……?」
「おのれあれを痴態と呼ぶのは、お前らか江端藤戸コンビィ!」
白橋さんが江端さんと藤戸さんの2人の頭を勢い良く前後に振る。
「えっこの空気……」
「知らないです」
「朝比奈くんさぁ、冷たくない? 俺一応キャプテンぞ?」
「……」
「無視ぃ!?」
気が付けば、須田さんと朝比奈さんが同じタイミングで戻ってきていた。須田さんが「まあいっか。Aチーム集合ー!」と声をかける。それと同時に自然とチームBのメンバーも内山さんの近くに集まっていた。
「チームB、集まったな」
「アイド」
「アイドルみたいだなって言うなよ江端、言ったらお前……分かってるよな?」
「ウィッス」
きょ、教育された犬みたいに静かになった……。内山さんと江端さんの関係がブリーダーと犬の図のように見えたのは気のせいだろうか……?
「ディフェンスのマークなんだが、とりあえず同ポジの奴に付く方向でやってみよう」
「うぃっす」と他4人が声を出す。そうすると、俺は相手チームにいる同ポジションのあの人とポジション争いをやりあうことになるはずだ。想定される暫定スタメンは地区予選時のメンバーの1人でもある。
「夜野ちゃん、気負うなよ」
「突然なんだよ石橋」
「いやーー? 別になんでも。同チームだしよろしくな」
よく分かんない奴だな……。気負うったって練習内の5vs5だ。
何度か見た安藤さんのプレーを考えて、あの人はどちらかといったらドライブをして得点というより、ディフェンスを剥がし、隙を狙ってアウトサイドシュートを狙うピュアシューターと言われるようなスタイルだ。対して俺は、スリーを打てるとはいえ得意なのはゴール近くのインサイドまでドライブで切り込むようなスタイル。同じポジションと言えど、プレースタイルは結構違う。
今の俺の実力を試す機会にもなる。それに――。
「あいつにも負けない」
俺の視線の先には、朝比奈の姿があった。
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