-14 万能女子、鳥栖ちゃん
講義が終わり、俺たちはそろって俺のマンションへと向かっていた。比較的にぎやかな通りを二人並んで歩く。
その間も止まない鳥栖への視線。こんな可愛い子はなかなかいるもんでもないから、余計に目を惹くのだろう。
「っておい、なぜに腕を組む」
「ぶーぶーっ、旭っち細かい。そんなんじゃ時代の流れについてけませんぞ~?」
「なんの流れだよ。むしろ逆らわないで生きてる方だわ」
ん、待てよ? 俺のそのスタイルが、昨日の一件を引き起こしてしまったのでは?
須藤の勢いに気圧され、そのままずるずるいってしまった。お酒が入っていたとはいえ、抵抗しようと思えばできたはず。
なのに行動に移そうとしなかったのは、俺が流されやすい性格だからだろう。ゆとりの弊害がまさかこんなとこに。
「うへははははっ! やめろっ、くすぐんな!」
「ほれほれ~っ、人の話ガン無視してくれたお礼参りじゃ」
「悪かった! 悪かったから脇腹はやめろ!」
頬をむくれさせてる鳥栖に頭を下げると、くすぐりは収まった。おっぱいむにむに攻撃はなおも続いているが、ここは流されておこう。
それからしばらくして、マンションにたどり着いた。鳥栖が足取りかろやかに部屋の前に立ち、持っていたカギで中へと入っていく。
いま鳥栖が使ったのは、合鍵だ。もともとは俺が作ったスペア用のやつなんだが、ウチにもちょうだい! とかなんとかごねられたので、渡したものだった。
「ん~、なんだかひっさびさな気がする」
「数日前に来ただろ。で、片付けとかやってくれて……ほんと、ありがとな」
「にひひっ、気にすんなって~。お、愛しのフライパンちゃーん」
ウチのキッチンにあるフライパンをなでなでしながら、鳥栖が頬を緩めている。
デレデレな様子に思わず笑いがこぼれてしまう。
俺の部屋がきれいに片付いているのは、なにを隠そう鳥栖のおかげだ。
コイツが頻繁にウチに来ては、ありとあらゆる家事をやってくれていたからなのだ。
さすがに洗濯だけは自分でしてるが、料理や掃除とかはほぼ任せきりになってしまっている。
鳥栖はデキる。一家にひとり欲しいと思えてしまうぐらいの、万能女子なのだ。
「さってと、なんかないかなー」
「ためらいなく冷蔵庫開けてるな。自分ちかよ」
「あれ、旭っちそういうの気にするタイプだったん?」
「いやべつに気にしないけど。冷蔵庫はもう鳥栖に一任してるみたいなとこある」
「にひひっ、そんじゃ今日も腕によりをかけちゃうぜ~!」
はにかみながら腕まくりをする鳥栖。これから夕飯でも作ってくれるのだろう。
鳥栖の持ってきた新作映画はあとのお楽しみということで、俺はソファに腰かけながら、彼女の手料理を待つことにした。
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