来訪
昨日の爆買いというか、絶望からなんとか立ち直った俺は、貴人の邸宅で朝食を取っていた。
するとかなり恰幅のいい男が話しかけてきた。俺が着ているような貴人用の高価な革服。様式からして貴族ではないだろう、恐らく商人だろうか。
「お初にお目にかかります、私フレデリックという者です。噂に聞くアキラカナアキラ様でしょうか」
舌に油を塗ったかのような滑らかな口調が特徴的な男は、終始笑みを崩さずこちらの目を見つめていた。
「そちらは商人様か?察するにこの公都ではさぞかし有名な商人なのかもしれないが、生憎私はこの都市、というか国に来てまだ短い。今聞いた名前のほかに、貴殿のことは何一つ知らないのだ」
「ええ、えぇ、そうでしょうとも。私は公都クラクフで小麦の卸売をしているしがない商人でございますから」
「私にまだ店はないが召喚獣の軍馬を貸し与えて生計をたてている流れの商人だ。私になにか用か?」
俺が偉そうに話しても男はピクリとも笑みを崩さなかった。俺の噂を聞いてのことだろうが、もしかしたらなんか、本当は凄いデキるタイプの人なのかも知れない。まあ俺に人を見る目なんてないんだけどね。
「その馬、貸していただけ――」
「いいぞ」
俺は男の言葉が鼓膜にたどりつた瞬間、コンマ一秒もかからずに承諾した。その際におれはこれまでの基本的な契約内容を見直すことにした。
最初は俺が貸し出した軍馬を管理しきれなくなるかもしれないと言う懸念があった。それにこれで稼げるのかと、試験的な意味合いもかねていたから、貸し出す軍馬は借主一人につき一頭だけであった。しかしこれはカネを稼ぐにはあまりにも非効率だった。それに軍馬と俺は魔力で繋がっているため、頭の中で念じれば居場所が分かる。おかげでこれまでは特に窃盗のような事件は起きていないし、起きたとしても契約不履行で貸した軍馬は強制的に消すこともできる。
公爵殿下との取引の結果を振り返れば、ちまちま貸すよりも金持ちには多めに貸した方がいい。まぁあれだ、ようするに金がないのだ。
なので俺は基本方針として、個人につき最大10頭、そして団体では100頭までとした。そして団体契約の場合は一頭につき、毎月100ペニーとした。
これでも借りる側はものすごいお得なのが、軍馬の凄い所だ。
それに毎月100ペニーという絶妙なバランスがミソなわけよ。
農耕馬でも普通に最低でも買うのなら500ペニーは必要になってくる。それが実質的に毎月の馬の食費代を払うだけで手に入る。逆に言えば、購入金額を除けば普通の馬に掛かる費用と大差ない。だがこの軍馬は普通の馬の5倍以上の馬力がだせる。
つまり荷馬車を引くのに必要だった馬の数が単純で5分の一になるわけだ。
ということは簡単に言えば、沢山モノを運んでいる商会、経済規模がデカイ商会ほど利益が出る。というよりこの軍馬を使って利益を出すのなら、普通の馬と固定費が変わらない分、沢山の軍馬を使って、これまで以上により多くの物を運んだ方が良い。
特にこの国、とういうかこの時代のどこの国でも主要産業である農作物のような、重たくてかさばる必需品を運んでいる商人であればあるほどに。
それにこの国では国内はともかく、農作物を諸外国に売るには北側の帝国騎士団が支配する港を利用するほかない。当然、そこでは高額な倉庫代や運送代が取られる。仮に帝国騎士団に穀物を売り払うとしても、それで最大利益を得るのは公国の商人ではなく、その安く買いたたいた穀物を人口の多い西方諸国に転売できる帝国騎士団であるのが現状だ。つまりこの一手は、帝国騎士団を中心とした穀物利権を公国商人の手に奪取することに繋がるのである。
そしてそれは将来的な仮想敵国である帝国騎士団、ひいてはそのバックである帝国の経済――せいかくには帝国騎士団の船の中継地点として、利益関係を構築しているバルト海沿岸部の帝国都市の弱体化に成功するのだ!!
なんて公爵殿下が喜びそうな話だろう!!俺の金のためというか、政治生命の為にも、次に会った時は俺のこの国に対する献身的な姿勢を見てもらわなくては!!
「まいどあり~」
俺は1万ペニー分の約束手形を片手に、にんまりと笑みを浮かべながらフレデリックの背中を見送った。
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