ぶき☆シス!!~ある日当然できた異母兄妹から「私と姉(妹)どっちと結婚したい?」と迫られて心臓が持ちません~
龍威ユウ
第1話:クソ親父が連れてきたのは、新しい家族でした(白目)
龍彦の現在の心境を語るならば、それは恐らく驚愕の二文字がもっとも相応しかろう。
数年間、ずっと音信不通だった父親からいきなり連絡があった。
母が病死してから、ある日突然ふらりと「ちょっと出かけてくるわ」の一言を最後に忽然と姿を消した。
ちょっと、というものだったからてっきりと数時間程度で帰ってくるかと思いきや、よもや数年の歳月が経過しようとは果たして誰が想像しよう。
一応、捜索願も出したものの成果はなし。
まぁ、あのクソ親父のことなら大丈夫だろ多分――かく言う龍彦自身も差して父の身は案じておらず。
寧ろ家事もしない、一日中テレビを見てるかそれか外でふらりと適当に過ごしてくるか。
父――
とりあえず、父が生きていることはわかった。
今までどこをほっつき歩いていたかは後でしっかり問い質すとして、龍彦は
「――、よりにもよってなんでここなんだよ……」
もっと喫茶店とか、色々とあるだろ! 鬱蒼とした森の中、まだ日が高くあると言うのに薄暗くて静寂が返って不気味さを見事に演出する。
ここは地元の人間でも早々に近寄らない、曰く付きの森だ。
古くから神隠しが多発して、現在でも忽然といなくなったなんて話がちらほらと上がっているが、真偽のほどは定かではない。
――まさか、あのクソ親父が忽然と姿を消したのも、ここに来たからか?
――神隠しに遭った……いや、まさかそんなことあるはずがない。
――親父の奴、俺に適当な嘘吐いてやがるな……。
とにもかくにも、今は目的地に急ぐのみ。
森には行ってから一時間ぐらいが経過してついに、ここでどうやら間違いないらしい。
指定された場所に到着した龍彦は、周囲を
こうもきれいな円形状の空間を形成しているのは、人ではなく自然が織りなした芸当なのはまず違いあるまい。
広さ的には丁度、学校のグラウンド程。
運動するには十分な敷地内に、それは静かに龍彦を出迎える。
「こんなところに湖なんてあったのか……あ、でも――」
そう言えば、と龍彦は思考を巡らせた。
神隠しが多発するこの森には、古くから竜が住む湖がある。
この話は地元民ならば誰しもが知ってこそいるが、やはり曰くつきとあるだけに確認しに行った者は誰もいない。
何故なら一度この森に足を踏み入れたが最後、二度と生きて出ることは叶わないのだから――もし、本当だったとしたら俺ももう帰れないってことか……!? 一抹の不安を胸に龍彦が生唾をごくりと飲んで、何気なく湖の方へと近付いた。
さっきから周囲を見渡しているが、件の待ち人の姿も気配もどこにもない。
自分から呼び出しておいて不在とは、認めたくないが実にあの父親らしい。
それとも最初から今回のことがすべて嘘だったのか? その仮説について議論を重ねるよりも先に回答の方から龍彦の下へと訪れる。
ゆらゆらと微かに揺れる水面を覗く、その間さえも警戒心は決して緩めない。
それが幸と成したのは、ほんの数秒後のこと。真横にふっと映り込んだ不穏な影に、龍彦は全力の後ろ回し蹴りを放った。
手応えは、なし。
確かに直撃こそしたが、影はしっかりと龍彦の蹴りをブロックしてダメージの軽減を図っている。
どうやら素人ではないらしい、と舌打ちをもらすと共に改めて龍彦は影と対峙した。
「――、なかなかいい蹴りしてるじゃねーか。俺がいなくなってからもちゃんと稽古だけはしっかりとやってたみたいだな龍彦」
「……よくもまぁ、ノコノコと帰ってこれたもんだなクソ親父」
「まぁ、そう言うなって。俺にも俺で色々と、それはもう深い事情があるってもんだ」
と、突然の失踪についてまったく悪びれる様子もなく
中年の男性に、龍彦は静かに拳を構えた。無精髭に栗毛の髪を一本にまとめたスタイルは、最後に見た時と同じ。
あえて決定的な違いを一つ上げるとすれば。
「それで? あのクソ親父にうまく化けてるつもりなんだろうけど、アンタ誰だ?」
「おいおい、確かに数年間逢ってないとは言っても、実の親を忘れるのは薄情ってやつじゃないか?」
「じゃあ俺からも――あのクソ親父ならガードなんかせずに即座に俺の足を壊しに掛かってたよ。実の息子だろうと喧嘩の時は一切容赦しない。それが俺が知ってるクソ親父だ。いい加減正体みせた方がいいんじゃないか、偽物さん」
「……なるほど。さすがは
べりっとマスクを外したその男に龍彦は、当然見覚えがない。
ニット帽に半袖シャツとジーパンと、出で立ちについては至って普通。
あえて厳しい評価をするならおしゃれがまったくなっていない。
安くでコーディネートされた格好はハッキリ言ってダサいにも程がある。
ただ如何せん、ダサさを覆いつくすほどの闘気がひしひしと伝わってくる。
「……アンタ、誰だ?」
「俺の名前は――いや、これは別にいいだろう。どうせお前は今から俺のために死ぬんだからな」
「……は? 何? アンタ暗殺者かなんかなのか?」
「いいや、そんな大層なもんじゃないさ。ただ俺はなァ、てめぇの親父にボコボコにされた借りを返さなきゃ気がすまねーんだよ!」
――なるほど、だいたい理解した。
――すべてはクソ親父を誘い出すためってことか。
俺は餌ということらしい……向かってくる男の顔面に龍彦は拳打を叩き込んだ。
今度はばっちりと手応えあり。
わっと舞う鮮血に、鼻の骨が砕けた触感に不敵な笑みを浮かべて――あらぬ方向へと吹っ飛んでいく男に唖然とした。
「……え?」と、素っ頓狂な声をもらす龍彦。
龍彦はまだ、顔面にしか攻撃していない。
ここから更に畳みかける算段だったのに、予期せぬ乱入者がそれを妨害した。
またしてもクソ親父を狙う新手か? そう身構えたのも束の間。大変見知った顔に龍彦は小さく溜息を吐く共に拳をゆっくりと解いた。
ようやく本人のお出ましらしい。
どこか他人を見下すような、憎たらしい笑みは数年前のまんま。
同様に一撃で敵を鎮める圧倒的すぎる
龍彦はそんな気さえした。
何はともあれ、待ち人との再会を素直に喜べるはずもなく。
未だニヤニヤとしたその顔面に向けて、龍彦は飛び蹴りを放った。
「おっと! おいおい、いきなり父親に向かって飛び蹴りをするなんて、悪い息子だな!!」
「さっき、クソ親父の偽物が現れたばっかりだったからな!」
――こいつは、本物だ。あんまし認めたくないけど。
証拠となるのは、さっきの飛び蹴りを放った後のこと。
きっちりと躱すと同時に反撃をされた。実の息子だろうと一切容赦しない、それが父――
「だからっていきなり飛び蹴りをするか?」
「きっちりガードもして反撃もしてるくせによく言うよ、このクソ親父」
「お前ならあの程度の攻撃避けられるだろ? なんて言ったって俺の息子なんだからな」
「俺はさっきの飛び蹴りで死んでほしかったって思ってるよ」
「本当に冷たい息子だなお前は!」
冗談はさておき。
「――、本当に今までどこをほっつき歩いてたんだ?」
問うべき本題を龍彦は早速切り出した。
数年間と言うあまりに長い時間は、お世辞にもちょっととは言い難い。
どこで何をしていたのか。それを知る権利は当然息子の龍彦にはある。
もし、亡き母を蔑ろにしたのならばその時は――顔面を思いっきり殴り飛ばしてやる! 再び拳を作り、如何に返答するか。
父からの言葉を静かに待った。
「――、そうだな。お前には色々と話しておかなきゃいけないだろうし……だがその前にだ、お前に紹介しておきたい奴がいるんだよ」
「紹介しておきたい奴?」
「お~い! もう出てきていいぞ~!」
と、父が茂みに向かって声を掛ければ、二人の美少女がゆっくりと龍彦の前に姿を晒した。
――な、なんだあの娘達は!?
――めっちゃかわいいんだけど!?
片や上下共に黒でコーディネートした衣装は大人としての魅力を最大限にまで高め、さらりと流れる銀髪は月のように冷たくてどこか神々しい。
紫と言う極めて稀有な瞳色も妖艶でどこか魔的だ。
一方もう一人は端正な顔にわずかに幼さが残るも、十中八九誰しもがきれいだと口を揃えよう。
燃え盛る炎のような色鮮やかな赤の着物を着こなし、
どうしてこんなにもかわいくてきれいな女子が二人もいるのか。
当然ながら皆目見当もつかない龍彦はただ小首をひねるしか他なく。
まさか、と最悪の予想が脳裏にふとよぎったものだから、父に対して批難を浴びせた。
「見損なったぞクソ親父! 母さんが死んで新しい女を作って来たかと思ったら、自分よりも年下の子を、しかも二人も重婚とか最悪じゃねーか!」
「いや違うから。めっちゃ勘違いしてるぞお前。この娘達は俺の妻なんかじゃねぇっての」
「じゃあ、誰なんだよ」
「俺の新しい娘達だ。つまりお前のお姉ちゃんと妹ってことだな」
「……はぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああっ!?」
父の口から語られた爆弾発言に、龍彦は驚愕の声をあげた。
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