夜道の影と思い出めぐり③
ひまりと会ったのは、彼女に外出禁止令が出てから3日目のことだった。
今日はのんびりしていようかと、そろそろ読み終わりそうな本を読んでいた時、ひまりが家までやって来た。
「ようやく宿題の終わりが見えてきたから、解放されたよ〜」
どうやら、外出禁止令は解かれたらしい。
かげやは一緒じゃないのかと尋ねると。まだ寝ているようで、置いてきたのだと言う。
たった3日の間だけだが、志保はひまりたちがいないと静かすぎて寂しいものなんだなと、彼女と話しながら実感した。
そして、ひまりたちがいなかった間のことを話した。
例のノートをひまりに見せると、「志保ちゃんのお父さん、絵下手だね」と率直な感想をもらった。否定できないのが悲しい。
ひとしきり話をし終えると、間を見計らったように緑が声をかけてきた。
「志保ちゃん、玄関前に置いてある浴衣、返しに行かなくて大丈夫?」
「あ、忘れてた」
夏祭りの日にひなたから借りた浴衣をクリーニングに出していた。受け取りに行ったのが昨日で、時間を見て返しに行こうと思ったまますっかり忘れていた。
ひまりにひなたのところへ行くと告げると、
「じゃあさ、かげやも一緒に浅草に遊びに行こうよ!」
と何とも素敵な返事が帰ってきた。
この夏休み、思い返せばこの街中からほとんど出ていない。近くに観光名所があるのに、まったく行っていない。
「行ってきたらどうかしら。昌勝(まさかつ)さんには、私から言っておくから」
緑もこう言うことなので、急遽お昼を食べたあと、かげやも誘って3人で浅草に繰り出すこととなった。
* * * * *
各々の昼食後、志保たちはかかしの前で落ち合った。
お祭りが終わったあとのかかしは、迷彩柄のシャツにサングラスをかけている。……誰のセンスで選んでいるのか、実に気になるところだ。
「よーし! ひなたちゃんのお家寄ってから、浅草で遊ぶぞー!」
勉強詰めからの開放感からか、ひまりは今日もとても元気だ。隣のかげやは、ぎりぎりまで寝ていたと言うので、まだ少しぼうっとしている感じがする。
志保もひまりほどではないけれど、内心すごくわくわくしている。テレビでよく見る観光地に行こうとしているのだから、当然なのかもしれない。
「ひまりは、浅草の辺りに詳しいの?」
「一応地元だからね。何かしたいことあったら言ってよ、案内するから!」
その前に、ひなたから借りていた浴衣を返すという目的もあるので、ひとまずひなたの家へと向かう。
ひなたの家までなら、たまに行くことがあったので、ひまりの案内がなくても迷わず行けるようになった。
「こんにちはー」
玄関口で声をかけると、奥から「はーい」という声と、ばたばたという音が聞こえてきた。
数分待って、玄関のドアが開く。
「あれ、みんな揃ってどうしたの?」
もしかすると寝起きなのだろうか。寝癖だらけのひなたが志保たちを見て首をかしげる。
「あの、借りてた浴衣を返しにきました」
浴衣の入った紙袋を日向に差し出す。
「わざわざありがとう。でもこの浴衣、着ないから志保ちゃんにあげようかなって思ってたけど」
「な、なんか悪いかなって思って……」
「別に気にしなくていいよ。せっかく持ってきてもらったか一旦受け取るけど、もし欲しくなったら遠慮せず言ってね」
「はい。ありがとうございます」
ひなたに改めてお礼を言う。
「それはそうと、浴衣返すだけなのに双子も着いてきたの?」
ひなたがひまりとかげやを見ながら言う。
「ふふん、これから外で遊ぶからね! 志保ちゃんにいっぱいいいところ教えてあげるんだ〜!」
「へぇー、そうなんだ。あ、でも今日は夕方から私たち留守にするし、そろそろミチも変わる可能性あるから、早めに戻るんだよ」
「はーい、分かってるって」
少し気になる言葉だったけど、ひまりが元気よく返しているので、おそらく彼女なら理解しているのだろう。
その後ひなたも特に何も言わず、「気をつけて行ってらっしゃい」と手を振り見送ってくれた。
志保もそれより目先の楽しみしか見えていなかった。
楽しい楽しい浅草巡りの後に、まさか、あんなことが起こるなんて……。
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