23rd アキレテアングリー

 ポーン、とエレベーターが到着を告げる。ターゲットたちは先陣を切るかの如く真っ先にエレベーターに乗車する。オレは入口付近でその様子を観察し、どこの階に行くかの見当をつける。エレベーターが止まった階は……二階、四階、五階、七階……それ以上に上がることは無かった。


 ここまでの会話の流れから、行く可能性が高い場所を推測してみよう。まずは「食事」について。この百貨店デパートには七階と八階に飲食店がある。しかし、八階にあるのは屋上であり、飲食店メインではない。それに、先程のエレベーターも止まらなかった。つまり、食事に行くとしたら七階だろう。


 そして、「ブランド物のバッグ」。これも的を絞りやすい。この百貨店のブランドショップ、それも婦人用のバッグに限れば一階に固まっている。すなわち、エレベーターに乗った時点でこの線は薄いということ。


 ――なら、七階と考えるのが妥当だろう。よし、なら善は急げだ。早速オレが一人で行ってしまおうか――いやダメだ。一応篦河たちアイツらを待とう。


 はぁ、一人で行動した方がいいのではないかとすら思う。いやしかし……もし見つかった時に対応できるようにする観点では人数が多い方がいいのだろか。万一オレが捕まった時にあの二人を関係の無い人だと思わせて逃がす……とか?そういうことが出来るかもしれない。


 オレが色々思考を巡らせていると、いきなり肩を二回ポンポンと叩かれた。


「――誰!?」


 バレたか――!?と思ったが、そこには一年生の制服を着た謎の女子生徒が居た。


「……誰?」


 いや、何となく察しはつく。おそらくこれは篦河と常磐さん。いやしかし……こんな格好するか?


 二人は、黒いマスクに白いキャップとサングラスという出で立ち。しかもおそろいだ。怪しさはまさに最高潮!――ん?というかこいつらが手に持ってるもの……まさか?


「それ、アイスか?」


 二人は少し威圧するかのようなオレの言葉にビクッと体を震わせる。常磐さんはすぐに理由付けを始めた。


「い、いやぁ?美味しそうだったから、つい……ね?」


 「つい」じゃない。というか、「美味しそうだったから」ってなんだ?二人の持つカップに書かれたアイスブランドはビルの中にしかないはず。ビルの外から購入することは絶対にできない。


「なぁ、そのファッションといいアイスといい……お前ら何してたんだ?」


「ひへへ、これとかは百円ショップで買ったやつで……アイスその近くにアイス屋さんがあったから買っちゃった……ひへへ」


「『ひへへ』じゃねぇって!いやいや、まさかこれで遅れたのか!?緊張感無さすぎだろ!」


「い、いやぁ?裏見くんにも買ってあるよ」


 ――ふーん、買ってあるのか。確かに、オレも少し熱くなりすぎたかもしれない。頭を冷やすという面でも、アイスは最適だろう。時間が経って少し溶けているかもしれないが、それでも甘いものに免じて許してやるか。


「クズくん、はいどーぞ」


 篦河がオレになにかを手渡す。しかし、それは大して冷たくない。甘そうでもない。――そもそもアイスでもない。帽子とマスクとサングラスだ……


「こっちかよ!いらんわ!こんなん着たら悪目立ちしてバレるかもしれねぇじゃねぇか!!お揃いの変装グッズを使って顔を隠す男女三人組高校生とか聞いたことないぞ!?」


 あーもう!!熱くなっても仕方ないというのは分かるが、これは怒っても良いだろう!散々待たされた挙句、待たせた相手はアイスを食べていて、しかもアイスを買っていると期待させて出てきたのは百均の安っぽいファッション!!ふざけているのか!?


「とりあえず銀河さん探しに行くぞ!」


◇ ◇ ◇


 怒りながらも篦河と常磐さんに七階が怪しいことを伝えたオレは、サングラスと帽子とマスクを着けて七階まで来ていた。もちろん二人を連れて。


 周りから見たら異常だろうな。お高めの飲食店が立ち並ぶレストラン街に雑な変装をした高校生男女がコソコソと動いているのは。空き巣か何かと勘違いされそうだ。


「君たち、何してんの?」


 ――勘違いされた。オレたちは警備員さんらしき人に呼び止められ、険しい顔をされた。


「す、すいません!違うんですよ!」


「違う?何が違うの。僕は何も言ってないけど」


「あーいや、その……オレたちは普通に客です」


「客?君たちが?ならコソコソとせず堂々と入店しなよ」


「い、いえ……このフロアに用がある訳じゃないんですけど」


「じゃあ何しに来たの」


「尾行……みたいな?」


 その一言を聞いた警備員さんは先ほど以上の剣幕で距離を詰める。


「尾行だぁ?聞き捨てならないな。誰を追っているによっては通報するよ?」


 失言したぁ……やっちまった。なんでオレはこうも正直に言ってしまうんだ。どうしよう……ここは正直さを貫くか?それとも誤魔化しの方向へ舵を切ろうか?


「友達……」


「友達?」


「あ、うーん……友達の彼女……です!」


「友達の彼女……?ほんとに?」


 不審者そのものな男子高校生が警備員さんに詰められる。傍から見れば滑稽だろうな……オレも傍から見たかった。


「理由は?」


「――正直に言った方がいいですか?」


「もちろん」


「えっと、パパ活……みたいな?感じです」


「――パパ活?そうか、友達の彼女さんがパパ活をしているかもしれない……ってこと?」


「そうです。オレらは証拠を得るために尾行をしてるんです」


 警備員さんは少し悩んだ素振りを見せてから、オレたちに話を始める。


「いいかい?君たち。君たちが心配する気持ちも分かるから、とりあえず通報はしないでおこうと思う。警察沙汰にもしたくないし、逮捕できる可能性も薄い。だけど、尾行はここでやめなさい。これを彼女さんに知られて通報されれば、君たちは間違いなく逮捕だ。まあ、それ以前に彼女さんやお金を払う男が警察の世話になるかもしれないけどね」


 なるほど、そうか……バレて通報されるのは嫌だな……じゃあ、いっその事ここでやめてしまった方が賢明なのかな……

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