第16話ヴァージニアディーン

 あれは。朝早くのこと。ゆっくりと、道を歩き、少し肌寒い季節の移り変わる気配を感じ、透明なハートで、追想に浸る乙女が、一人。

流れゆくのは、サラ・ヴォーン。アフターアワーズ。

酔いしれる美貌のディーンは、ジャズを聴く。

煙草は控えめに、シダーウッドで、いきましょう。

歌姫うたう。青春の歌を思い出す。

きっと。流れる、アヴェ・マリア。

頬を伝う涙。

きっと、思い出すリルケの歌の一節を。

それから、手をつなぎ、すっと鼻先を撫で、気取ったそぶりで、酔いしれるディーン。

深酒ご無用。マリアとディーン。

キスキスキス。

乙女なあなたは薔薇園に行く。

ディーンが薔薇をぽきりと折って、棘を払い、そっと、口にくわえる。そしてうっとりアヴェ・マリア、片膝をつくディーン。美しい透き通るようなその御手をとる。手の甲に、口づけをして、薔薇を捧げる。マリアは、うっとりとした目で、涙ぐみ、薔薇の花を空に掲げる。ゆっくりと、ゆっくりと、ダンス。スローなフロー。魂の鮮烈な色をした太陽果実。

歌えよ、乙女。

闘え、戦士。

乙女の愛を受けるに値する者は守る者だけ。

傷つける者から、棘を払うように戦え、戦士よ。乙女のために。

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