第76話:魔装具作成6
ヴァネッサさんに破邪のネックレスの情報をもらった私は、急いでクレイン様の工房に戻ってきた。
すると、リオンくんはどこかに出掛けたみたいで、姿が見えない。クレイン様が一人で何かの作業をしていた。
難しそうな本を片手に持っているから、おそらく普段しないような作業だろう。
魔装具のことで何かわかったのかもしれない。
「何をされているんですか?」
「特殊な素材の下処理をしている。なかなか厄介なもので、かなり時間がかかりそうだ。特別なアイテムでも作らない限り、錬金術で使用することはないかもしれない」
「じゃあ、これが破魔の矢の素材に使われている可能性が高いんですね」
「詳しいことはわからない。しかし、素材の目星はついた。完全に推測の域だが、間違いないだろう」
机の上に並べられた数々の素材は、普段の仕事で目にするようなものではない。
かなり高価なものまで含まれているけど、こんな短期間のうちに、いったいどこで調達してきたのかな。
「あれ? これって、リオンくんがオババ様におまけしてもらった素材じゃないですか?」
「そうだ。オババが出来もしない難題を押し付けるとは考えにくくてな。すでに素材が揃っていると仮定したら、破魔の矢に必要な素材が見えてきたんだ」
確かにオババ様は、面白おかしいことが好きな方だ。困らせたり、迷惑をかけたりすることが好きなわけではない。
人の反応を見て楽しむことが多く、からかうことが大好きだった。
「オババの性格を考慮すると、作れるようなヒントが近くにあるにもかかわらず、悩んでいる姿を見て楽しむはずだ。滑稽な姿を想像しながら、甘いものをつまみたがるだろう」
うぐっ。それを言われると、さっき店を訪ねて追い出されたのは、最高に面白いネタを提供しただけな気がしてきた。
栗饅頭まで持ち込んだから、今頃それを頬張りながら……、
『イーッヒッヒッヒ。まだ初歩的なところで躓いてるよ』
と、笑い転げているかもしれない。
「改めて聞くと、オババ様って性格が悪いですね」
「今さら言うことではない。誰もが知っていることだ」
ちょっと言い過ぎな気もするけど、ぼったくりまでしているんだから、何を言われても仕方ないと思う。
国王様に対する態度を思い出しても、貴族の私には考えられないことだった。
「でも、この素材をもらったのは、私たちが調査に行く前ですよね。クレイン様の推測が正しければ、オババ様はこうなるとわかっていたんでしょうか」
「少なくとも、オババほどの錬金術師なら、魔物の繁殖が古代錬金術の影響だと見抜いていたはずだ。そして、その対策をミーアに作らせるのも計画の一つだと思うぞ」
「……すべてオババ様の手の上で踊っていたかと思うと、急にやる気がなくなりますね。変に対抗したくなります」
「そう言ってやるな。ミーアが思っている以上に、オババは苦労してきた人間だ。国王陛下に反抗できるほどの権力を持った人間でもあるからな」
「つまり、国王様と同等の権力者ということですか……! 不思議ですね。急にやる気が出てきました!」
「権力に反応するな。相変わらず現金なやつだな」
錬金術師として生きる道が見えてきた私がやる気をみなぎらせていると、工房の扉が開き、両手で抱えられないほどの大きな荷物を持ったリオンくんが帰ってきた。
机にドサッと置かれた荷物を見てみると、少し色褪せた古い本がビッシリと入っている。
「ヴァネッサ様が破邪のネックレスを作った時の資料を持ってきました。魔法効果を打ち消すのなら、性質としては似ているものができるのかと思いまして」
こ、これは助かる……! 形成と付与の二重展開について、もっと詳しいことがわかれば、魔装具の完成に近づくはずだ!
「ちょうど調べてもらいたいことがあったんですよ。EXポーションの時と感覚が違って、領域の二重展開がうまくいっていなかったので」
「スキルが違いますし、干渉の仕方が変わるのかもしれませんね。もう少し基礎的な部分を見直しましょうか」
「お願いします。魔装具の土台作りを意識して調べてみてください」
「わかりました。任せてください」
すぐに本で調べ始めるリオンくんと、難解な素材の下処理をしてくれるクレイン様を見て、私は二人が信頼してくれていることを実感した。
だからこそ、絶対に魔装具を作り上げなければならない。
自分自身のためにも、国のためにも、二人の期待に応えるためにも。そして、ヴァネッサさんに託された未練を晴らすためにも。
その答えを導き出せるのかは、もう私の手の中にある。
「私は本当に魔装具が作れるのか、今から確認してみます」
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