第五章

第28話:ポーションと形成スキル

 錬金術ギルドに登録した翌日。私はクレイン様の工房でポーションを作っていた。


 本来なら形成スキルを練習する予定だったので、クレイン様が不審な目で見てくるのも無理はない。


「なんで朝からポーションを作っているんだ?」

「ヴァネッサさんに嵌められたと言うか、頼まれたと言うか。最終的に断りにくい状況になって、依頼を受けることになりました」


 ちょっぴりムスッとして答える私は、自分でもわかるほど不貞腐れていた。


 百本ものポーションを作るとなれば、工房内の薬草では足りなくなってしまう。そのため、出勤前にオババ様の店に立ち寄り、薬草を再購入してきたのだ。


 オババ様に「また買いに来たのかい?」と呆れられたが、私も同じことを思っている。いくら錬金術が好きとはいえ、限度というものがあるだろう。


 自分で承諾したこととはいえ、見習い錬金術師にCランク依頼の契約をさせるなんて、ヴァネッサさんは何を考えているんだか。錬金術ギルドはともかく、相手側に怒られないのかな。


 そんなことを考えていると、クレイン様も状況を理解してくれたみたいで、苦笑いを浮かべている。


「ああ……。彼女はとぼけているが、かなりのやり手だからな」

「何度も面識がありましたし、そういう方だとは思っていたんですけど……うぐっ。完全に油断していました」

「ポーション作りは、簡単に見えて奥が深い。しっかりしたポーションを作れる錬金術師に、早く実績を残してもらいたかったんだろう」

「そんなことを言われても困ります。来週末までに、ポーションを百本も作らなきゃいけなくなったんですよ」


 まあ、ポーションなら簡単に作れるし……と、軽い気持ちで引き受けたのだが、やっぱり私はまだまだ見習い錬金術師だ。今日は魔力コントロールが難しく、ポーション作りに苦戦している。


 昨日までうまくできていたのに、今日は調合領域の展開が安定しない。かなり時間をかけて作業しているのに、まだ一本もポーションを作れていなかった。


 このペースだと、来週末までに納品するのは難しい。何とかコツをつかみ直して、ポーションを作り上げないと。


「一応、依頼はしばらく受けさせないようにと、推薦状に書いておいたんだがな」

「ヴァネッサさんは自由な方ですからね。言うことを聞いてくれるつもりはないんでしょう」

「それもそうだな。彼女ほど自由な人間は存在しないし、反論するだけ無駄だ」


 クレイン様のことを、クレインちゃん、と呼ぶくらいですもんね。本当にヴァネッサさんはつかめない人ですよ。


 こうなった以上、早くポーションを作って納品したい……のに。今日は本当にポーション作りが難しく、うまくいかない。


「初めて依頼を受けるにしては、大きな契約なんですよね。そのプレッシャーからか、経験不足の影響か、なんかこう……ポーション作りがうまくいかなくて」

「だろうな。形成の魔法陣の上でやれば、魔力が干渉してやりにくくなるぞ」


 真顔のクレイン様にそう言われ、ふと目線を机の上に移す。すると、魔鉱石で形成スキルの練習ばかりしていたせいで、魔法陣を敷いたままやっていることが発覚した。


 素人丸出しの、完全な凡ミスである。


「本当ですね。魔法陣を敷いて錬金術をすることが、癖になっていたみたいです。……って、気づいているのなら、早く教えてくださいよ」

「普通は自分で気づくところだぞ。その状態でよくポーションが作れるなと、感心していたところだ」

「どうりでおかしいと思いましたよ。すごい難しいんですから。ここまで来たのなら、意地でもこれだけポーションに変換しますけどね……っと。ふぅ~、ようやく一本できました」


 慣れない調合スキルの違和感を、自分の技術不足だと誤解するとは。まだまだ自分は見習い錬金術師なんだと自覚する。


 うっかりしていたなーと思いながら、作り終えたポーションを片づけようとした瞬間、クレイン様にガシッと腕をつかまれた。


「待て。なんだそれは」

「えっ? いや、普通のポーショ……ン?」


 クレイン様に言われて、長い時間をかけて作ったポーションを確認してみると、明らかに普通ではなかった。


 ポーションが形成スキルの影響を受けたみたいで、成分が変化している。


「なんでしょう、これ」

「自分で作ったものだろ」

「普通にポーションを作っただけですよ。すごいやりにくいなとは思いましたけど」

「改めて言うが、途中で気づいてくれ」

「こっちは見習い錬金術師ですよ。初歩的な間違いくらいはやりますから」


 そんな細やかな言い合いをしていても、やはり気になるのは、このポーションだ。


 冒険者ギルドで働いていた時も、こんなポーションは見たことがない。クレイン様も知らないのなら、かなり珍しいものだろう。


 まさかとは思うが、新種ポーションでも誕生してしまったのかな。いや、まさかね……。

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