初心者は奮闘する2
「わあ、ここがダンジョン」
初めて入ったダンジョンは講習を受けたビルの隣の入り口から階段を下りて入ったところにあるのに、中に入ってみるとゴツゴツした岩をくりぬいて作った大きな洞穴みたいに見えたから驚いた。
驚いた理由は建物の地下じゃないの? ってとこだけじゃなく、明るいってところだ。
ダンジョンの中は、真っ暗闇じゃないけどライトが必要な場所も多いと言われて、研修の間はライトを借りた。
魔石を燃料にした照明は入り口に設置されているけれど中にはそういう設備は無いらしく、首元につけた魔石を燃料にするライトを持っただけ、これはまだスイッチ入れていないからダンジョンの中は今のところ謎の灯りだけなんだけど、なんで明るいのか分からないらしい。
ダンジョンが発見されてだいぶ経つのにそういう基本的な事もまだ分かっていないというのは、さっきの座学で教えて貰った。
ちなみにダンジョンの中は何か設置しても数日でダンジョンに吸収されてしまうので、照明の設置は出来ないそうだ。
初心者講習は初めに座学を三十分程受けて、それから適性検査と体力検査を受けた。
適性検査で僕には魔力の器と呼ばれるものがあると分かった。
どれくらいの大きさの器なのかは、何度か魔物を狩ってからじゃないと判断出来ないらしいけれど、これがあるということはなんと僕は魔法が使える可能性があるということらしい。
全く魔力の器が無い人も多いそうで、つまり僕は魔法使いになれる可能性がある人ということらしい。
もう、それだけで神様ありがとうと祈ってしまった。
まだ、本当に魔法が使えるとは限らないのにね。
「五花君は剣道の経験があるって言ってたね」
「はい、といっても四年くらいですけど」
「持久力はかなりありそうだし、検査の数値を見る限り筋肉量はそれなりにあると。じゃあまずこの剣を持って振ってみて」
ダンジョンの入り口から右手に折れたところで、短い剣を渡されて両手で握って振ってみる。結構軽いし刃の部分は短いみたいだけど、これが剣なのかな。
「ああ、確かに竹刀の振り方だね。うんうん、剣道経験ありって感じする。ところで、どうかな重くて振るのキツイ感じがする?」
「いえ、この程度であれば軽いです」
「そうか、これは片手剣だから利き手の方で持ってみて、右かな? そしたら左手にはこれを持って」
右手で剣を持ち、左手には渡された小さなお鍋の蓋位の大きさの盾を持つ。
「これはラウンドシールドっていう物だけど、重さは大丈夫かな」
「ええと、はい今のところは大丈夫です」
「これは手で持つか、腕にベルトで固定して使うんだよ。これより軽いものもあるけれど強度があまりないから持てるならこっちの方がいいんだけど、剣と盾持って歩くのは大丈夫?」
「今のところは。僕、これでやってみます」
適性検査の時に剣、弓、槍の希望を聞かれてまずは剣と答えた。
ちなみに初心者講習、今日は僕だけらしくてマンツーマンだ。
ゴールデンウィーク中は結構混んでいたらしいから、ラッキーだねと言われて顔が引きつったのは内緒だ。
マンツーマンで好きなだけ質問できるのは有難いって分かるんだけど、ずっと二人だけで会話し続けるのは、僕には難易度がかなり高い気がする。
ずっと緊張しっぱなしで、喉が乾いてきちゃった。
「一応名前を教えておくと、これはバゼラードっていう物でくさび形の剣身が特徴の短剣、もうちょっと全長が短いくて軽いものだとダガーっていうのがあるけれど、そっちは投擲武器とか防具として持っている人が多いかな」
「投擲武器ですか」
「うん。メインの武器としてはあんまり人気無い感じだね。五花君はどうか分からないけれど、探索者に興味持つ人は何故か派手な武器を好む傾向にあるんだよ。ただ、ダンジョンの中って何故か銃器類が使えなくなっちうんだよ。ピストルとか全く駄目なの、だから弓とかこういう投擲武器が遠距離向けの攻撃になる。後はやっぱり魔法は人気だけど魔力の器があっても魔法メインに使える人は百人に一人程度だね。後は剣とか弓と併用してるね。あと、かなり難易度が高いダンジョンのドロップ品で魔剣っていうものがあるけど、あれはお目にかかるのも難しいものだから、まあそういうのがあるってだけ今は覚えておいて」
魔法、僕魔法の器があるんだよね。
どんな魔法が使えるのかまだ分からないけど、ちょっと楽しみなんだ。
「五花君は魔力の器があったから、もしかすると剣より魔法がメインになるかもしれないけれど、残念ながら魔力を回復するのは今のところ睡眠と食事だけだから、よっぽど魔力の器が大きくならないと魔法攻撃をメインには出来ないんだよ」
「そうなんですか」
「うん。ここのダンジョンをクリアした人って次に行くのは群馬の方にあるダンジョンか京都の方のダンジョンが多いんだ。都内にもあるけど難易度が高いからね。で、その辺りをソロ攻略出来る魔法使いの人でも剣や弓と魔法を半々に使うって人が多いらしいよ」
「大変なんですね」
「そうだね、魔法使いの場合はソロで活動するというより、パーティーを組む人の方が多いかもしれない」
パーティー、僕が誰かと一緒にダンジョン。
そんなの想像つかない。
「とりあえず今日は初めてのダンジョンだし、様子見でこの武器を使ってみてね。剣の種類とか盾の種類とか色々用意しているし、弓や槍もあるから他のを使ってみたければいつでも言って、すぐに出すから」
「え、すぐに出すって」
講習を担当してくれているのは鈴木さんって言う二十代後半っぽい見た目の男性だけど、彼は自分の武器しか持っていない。
ダンジョンの中に僕用の短剣と盾の他腰のベルトに付けた小さなウエストポーチしか持ち物が無いんだ。
「これね、マジックバッグってものなんだよ。こんなに小さいのにドーム球場位の大きさの建物だって入っちゃう程の容量があるんだよ」
「え、それ凄くないですか」
目が丸くなるってこういう事をいうんだろうか。
マジックバッグって本当に存在するんだ。
「買おうと思っても、凄いお金が必要になるしなかなか買うチャンスは巡り合わない。だからダンジョンで見つけられたら超ラッキーだね。まあこの辺りのダンジョンに落ちてるのはそんなに容量ないけどね。小さいものだと軽自動車位の大きさ程度しか入れられないね」
軽自動車でも十分凄い。
でもそんな夢アイテム、犯罪に使われないんだろうか。
「ちなみにこれは空港とかにあるセンサーに反応するから海外には持って出られません。探索者は持ち出し申請して中身を全部空港の検査所で出して申請に嘘がないか確認されるよ。それは出入国両方だからね」
「そうですか」
「マジックバッグは自分の手で触れないとアイテムを収納出来ないし、コンビニ程度でも持っている人は入り口のセンサーで分かる。そうなるとお店に入ってからずっと見られていると思っておいた方がいい。それが嫌な時はデパートとか大きなお店はダンジョン出張所が管理する預け所があるから、そこに預けるといいよ」
「凄い管理されてるんですね」
「管理されているし、探索者がマジックバッグを使って万引きとかしたら探索者資格を取り上げられて、通常よりも重い罰を受けることになる。それは暴力とかも同じだから十分気を付けてね。ちなみに剣とか槍はダンジョンの外に持ち出せるし家に持ち帰ることも出来るけれど、ダンジョンを出る時に保管ケースに入れないと没収されるから」
「え、でもマジックバッグに入れてたら分からないんじゃ」
センサーでマジックバッグを持っているかどうか分かるなら、そういうのも分かるのかな?
「それがね、何故か理由は解明されていないんだけど、マジックバッグに仕舞った武器はダンジョンの外でマジックバッグから出せないんだよ。勿論ここで出せば外には武器を持って出られるし、外で武器を仕舞う事は出来るんだけどね」
「不思議です」
「だよね。ちなみに探索者はマジックバッグを持っていても申請も登録も海外に出ない限りは不要だけど、探索者以外は購入や譲渡の段階で申請が必要です。申請していないのに持っていると判明したら、銃刀法違反で逮捕されます」
「え、マジックバッグって武器みたいな扱いなんですか、どうして?」
武器を持っていてもダンジョンの中でなければ取り出せないのなら、危なく無いんじゃないのかな。何が悪いんだろう。
「探索者ってね、自由な様で自由じゃないんだ。結構ガチガチに色んなことが管理されてるし見られている。防犯カメラなんて今の世の中どこにでもあるし、そういうので記録を取られているというのは覚えていた方がいいよ。他の国では軍隊に所属している人以外は暫くダンジョンに入れなかったし、マジックバッグの所有も認められてはいなかったんだ。日本はなぜかそういうところが緩くてね、結構最初のころから一般人も入れたしマジックバッグというものが発見されても個人所有を最初から許されてたんだけどね、今は国際法で決まっちゃったからね」
「国際法」
「そう、国際法。一番恐ろしい罰はなんだかもう五花君は知ってるよね。最初の講習で習ったでしょ」
ごくりと唾を飲み込む。
この日本で、いいや世界で、一番恐ろしい罰。
探索者が犯した犯罪に対する一番重い刑罰、単純に言えば死刑なんだけど、一般的なそれとは方法が違う。探索者の死刑、それは拘束された状態でダンジョンに連れていかれて、生きたまま魔物に食われるんだ。
それは世界共通の罰、一般人に死刑を行わない国はあっても、その国でも探索者に死刑は行うらしい。探索者は軍隊とか警察とかそういう人達よりもある意味恐ろしい戦い方が出来る様になるから、今はそんな強い人間が身近にゴロゴロいる世界だからこそ探索者への罰は厳しいし、その厳しい罰あるからこそ探索者の犯罪抑制につながると考えられている。
その死刑にも段階があって、一番重い罪は力がそんなに強くない魔物に食われるそうだ。
力がそんなに強くない魔物、つまり死ぬまで時間が掛かるってこと。
何度も何度もダンジョンに入れば、きっと魔物の怖さは身に染みる。
だからこそ、この罰が効果的なんだって。
それが刑罰を決める会議で満場一致で決まったっていうんだから、なんだか色んな意味で怖いよね。
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