25
目が覚めて、見慣れない場所に、そう言えば国を超えたんだったな、ということを思い出す。徐々に意識が覚醒してくると、昨晩の記憶が蘇ってきた。
やっぱり、どう考えてもおかしくない? 百歩譲って、イタリさんの行動が、イタリさんにとって合理的で正しいことだったとしても、彼になんのメリットもないように思う。わたしばかりが得をしている。
それとも、彼は損得勘定で行動しないタイプの人間なんだろうか。仮にそうだったとしても、後先考えなさすぎである。
メリットデメリットを考えないで行動されると、返す恩がどんどん増えて行ってしまう。なにをどれだけすれば、わたしは彼に恩返しができるというのか……。
見当がつかなすぎて、溜息を吐くと、扉がノックされた。返事をすると、シノさんだった。――メノさんの姿はない。
「おはようございます、アルシャ様。洗顔のお湯を用意ができました」
洗顔のお湯、メイドが運んでくるんだ。わたしの家では、直接洗面所で顔を洗っていたから不思議
な感じ。
顔を洗い、手伝われるままに着替える。……わたしのドレスじゃない。しかも、昨日着たものとも違う。これも用意してくれたのか……。
貴族のドレスって、一着いくらなんだろう。パーティー用とは違って、普段着用のものはかなり落ち着いているが、それだって庶民のものと比べてしまえば質が全然違う。買ってもらった分、お金払えるかな……。
最終的にとんでもない金額になっていたらどうしよう、と内心で頭を抱えていると『朝食の準備、できたって』と言いながらメノさんが現れた。
『アタシはここ片付けるから。お姉ちゃんはご案内よろしく』
『メノ! もう少し言葉づかいを直しなさい! 二人きりのときならまだしも、アルシャ様の前なのよ!』
『お姉ちゃんこそ、客人の前で説教始めないでよ』
……なんだかまた喧嘩をしている……? この二人、仲が悪いんだろうか。二人とも、言い合っているときはかなり早口になるから、聞き取ることが難しい。
何を言っているかさっぱりだが、表情を見るに、シノさんが毎回劣勢っぽい。口喧嘩、苦手なのかな。
「――失礼しました。朝食の準備が出来たようですので、ご案内します」
シノさんが頭を下げて、わたしに声をかけてくれる。仲良く、とか、言わない方がいいのかな。事情をなにも知らないし、わたしはこの屋敷の女主人ではなく客人なので、使用人に口を出す権利もないし。
それでも、これからも、こう喧嘩ばかりになるのかも、と思うと、意思疎通が上手くいかなくて怒られたときのことを思い出してしまうので、なんとかならないものかな、と思ってしまうのだった。
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