21

 ご飯を食べ終わり、わたしは用意してもらった部屋に戻る。風呂は入ったばかりなので、今日はもう、後、寝るだけだ。

 ふわふわの布団の上に横になれば、どっと疲れが蘇ってきて、一気に眠たくなる。よくよく考えてみれば、ミステラなんとかへ行くために、ずっと馬車に揺られていて、こんなにふわふわなベッドに寝たのは久しぶりだ。


 衣食住に関して、外面を気にしているのか、一応、十分なものを与えられてはいたから、家のベッドはしっかりしたものだったけど、道中の宿は質が悪かった。わたしが質を選べるような立場じゃないのは理解しているけど、あの家にあったベッドと比べてしまうと、どうしても劣っているように感じる。あの、ミステラなんとかの少し手前の森で、わたしが殺されることが決まっていたのなら、最期くらい、お金を使わなくていいと思われていたのかも。


 本当なら、ずっと、わたしにお金を使いたくない、とすら思っていたかもしれない。


 とりあえずごろり、と部屋に入ってすぐ、ベッドの上に横たわったが、もうすることもないし寝てしまおうか、と灯りを消す為に起き上がると――。


 ――トントン。


「起きているだろうか」


 イタリさんの声が聞こえてきた。もうメイドはいないので、わたしは自分で扉を開けに行く。

 扉を開けると、いくらかラフな格好をしたイタリさんがいた。

 部屋に入れるよう、わたしが入口から少しずれると、「このままで構わない」と静止された。


「もう遅い時間だからな。僕も君も、今は未婚の身。下手に部屋で二人きりになるのは良くない」


 そう言われてしまえば、彼の言葉に従うしかない。廊下にはイタリさん以外誰も居なくて、視線がないが――だからこそ、入るわけにはいかないんだろう。万が一、夜の部屋で二人きりであったことを誰かに知られたら、弁明できない。何もなかったと証言してくれる人がいないのだ。


「一つ、報告に来ただけだ。すぐに戻る」


「報告……ですか?」


「ああ。ソルテラ侯爵家に確認が取れた。確かにミステラヴィスに娘を向かわせ、その娘の名前はアルシャであった、と」


 ……もう確認が取れたんだ。早いな。どの時点で確認をしたんだろう。一度、門で別れたときかな。

 この世界、電話に近しい通信機器は存在するけれど、国をまたいで対話することは出来ないから、わざわざ誰かを使いに出したんだろうか。


「……両親は、なんと?」


 帰ってこい、とでも言われたんだろうか。


「好きにしたらいい、と」


 ……。本当に、わたし、あの人たちにとって、どうでもいい存在だったんだ。まあ、言葉の通じない、貴族の娘として政略結婚の道具にも使えないような女だ。その反応も当然か。

 もしわたしが本当に貴族の娘なら、隣国に連れ去られたら、結構な騒ぎになると、思うのに。


 わたしが勝手に落ち込んでいると、イタリさんはかなりの爆弾発言を落とした。


「そんなわけで、後程、順を追って説明するが――君を我がウィンスキー家の客人ではなく、僕の婚約者として迎え入れることになった」


 え――……えっ?

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