12

 さらにしばらく馬車に揺られ、わたしは王都にようやくつくことが出来た。今は検問所である。とはいえ、騎士団を名乗った彼らは一般人とは別枠らしく、あっさりと通過していた――と、思ったのだが。


「アルシャ嬢、君はここにいろ」


 わたし一人、置いて行かれることになってしまった。えっ、さっきと話が違う……いや、でも、催促するのはずうずうしいのかな。


 なんて言葉を返したらいいのか分からなくて、わたしは固まってしまった。


 わたし、ここに残されるしかないの? もしかして門前払いなの? 一般客の列に戻れば中に入れる? いや、でも、パスポートみたいなものとか、お金とか、何も持ってない。何か要求されても出せるものはなにもない。


「……な、泣くな。別にずっとここに置いておくわけではない」


 どこか動揺するような、イタリさんの声。言われてから、頬に涙が伝っていることに気がついた。


「君がソルテラ侯爵家の娘だという言葉を信じていないわけではないが、ソルテラ侯爵家に確認が取れていない現状で、僕の仕事場でもある王城に入れるわけにはいかない」


 ……言われてみればそうだ。わたしがかなり上等なドレスを着ていること、それからソルテラ侯爵家の家族構成を言えたから、多少は信じて貰えたかもしれない。あとは、馬車も侯爵家のものだったし、イタリさんはそれもあって嘘だとは言わなかったのかもしれない。

 でも、事実確認もしないで王城に入れるには、確かに危険、だと思う。


「それに、ヴェスティエ共用語が使われる王都では、待っている間、気も休まらないだろう。ここならば安心して君を預けておくことが出来る」


「――……!」


 わたしのこと、心配してくれての発言だったんだ。……早とちりして、自分のことばかり考えていた自分が恥ずかしい。


「仕事が終わったら、またここに来る。すぐに、とは約束出来ないが、必ず戻ってくる。……これで、安心できたか」


「……すみません、早とちりしてしまって」


 わたしは涙を拭こうとして、ハンカチがないことに気が付いた。手荷物はみんな、あの馬車の中に置いてきてしまった。

 手でぬぐおうとしたら、さっと、イタリさんがハンカチを差し出してくれた。


「……あんなことがあった後だ。気持ちが不安定になっていてもおかしくはない。僕はよく、言葉が足りないと言われるんだ。こちらこそ、不安にさせてすまない」


 ……イタリさん、いい人過ぎる……。わたしはハンカチを素直に受け取り、また一つ、この人に借りができてしまったな、と思うのだった。

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