今後の方針

 アデルとエステルを交えてのラーニャとの話し合いは長時間に及んだ。

 途中で気を利かせたシリルから差し入れをもらいつつ、夜になってからも続いた。

 最終的に王都へ行って、助力を頼めるかを確認するという方針に決まった。

 バラムのギルドで冒険者に依頼する線でも検討してみたが、最高でもCランクまでしかおらず、状況を考慮して巻きこむべきではないと判断した。

 不透明な要素が多い以上、できる限り戦力を揃えたいと思った。


 翌日からはやることが山積みだった。

 まずは朝から馬車でキャンプに戻り、ブラスコに状況を説明した。

 今はキャンプ地の一角で俺とラーニャ、ブラスコの三人で立ち話の最中だ。

 社長として忙しいはずなのだが、力を貸してくれることがありがたい。


「さすが婿殿! 手助けしてあげるんだね」


「はい。そのままにするのは寝覚めが悪いので」


「こっちの探索は任せておいて。もちろん、婿殿にも利益を分けるからさ」


「ありがとうございます」


 ブラスコの気前のよさに感心する。

 チーク材、ダマスカス鋼、それにルミナイト。

 見こまれる利益は相当なものだろう。


「ラーニャさんは洞窟内に詳しいと思うけども、特に脅威はなかった?」


 ブラスコから質問を振られると、ラーニャは驚いたように顔を上げた。


「最下層までは足を踏み入れてないが、地下四階部分までは問題ない。初めの頃に見かけたモンスターは全て倒しておいた」


「それはありがたい。ただまあ、従業員たちの安全を考えて、ルカはここに残ってもらうよん」


「未知の遺構ですから、当然のことです」


 俺が理解を示すとブラスコはしっかりと頷いた。


「王都に行くなら、馬じゃ時間がかかるでしょ? よければ地竜を使ってよ。だいぶ時間の短縮になると思うからさ」


「ありがとうございます。ぜひ使わせてください」


 話が終わるとブラスコが地竜のところに案内してくれた。

 地竜は犬のように丸まって、寝そべって休んでいるところだった。


「二人で荷物も少ないから、客車は小さめでもいけそうだね」


「その辺りはそちらにお任せします」


 ブラスコはキャンプにいる人たちに指示を出して、地竜に客車を接続した。

 今回もそうだが、彼は決断力があり何かを決める時は早い印象がある。


 すぐに俺とラーニャは竜車に乗りこんだ。

 今回も御者は俺の役目だが、地竜は初めてで分からないことが多い。


「馬よりも簡単だよ。緊急停止以外はお任せで大丈夫。速さがあるから方向転換は早めに教えてあげて」


「分かりました。それでは出発します」


 ブラスコに見送られながら、キャンプを出発した。

 街道に出る前の悪路をものともせずに突き進む。

 ベナード商会仕様の客車のおかげなのか、通常の馬車に乗る時ほどは揺れが伝わってこない。

 やがて街道に出ると段階的に加速して走り始めた。


 とりあえず、御者台に座っているわけだが、馬ほど手綱に意識を向けなくてもいいというのは本当だった。

 馬が決してバカというわけではないし、速さの調整だって自然にできる面もある。

 だが、地竜は走りにくい時には控えめになり、直線で周りに人や障害物がなければ加速を強める。

 この調子なら今日中に王都に着きそうなペースだった。


 キャンプを出たのが昼頃で夕暮れに王都に到着した。

 どんな馬を用いてもここまで短い時間で踏破できないだろう。

 改めて地竜のすさまじい走りを実感した。


 王都の城壁の外には馬を預けられる厩舎があるのだが、地竜がいると他の馬を驚かせてしまいそうで気がかりだった。

 そこで多めに料金を支払い、気兼ねなく預けられるように広めのスペースを用意してもらった。


 地竜を預けた後、城壁沿いに歩いて通用門を見つけた。

 前に来た時と同じように衛兵が門番をしている。

 ラーニャの存在は目立ちそうだが、変装していると逆に怪しまれてしまう。

 それに長い耳や白銀の髪を完全に隠すことは難しい。

 結局、そのままの服装で行ってもらうことにした。


 ドキドキしながら通用門を通過する。

 衛兵の視線をわずかに感じたが、呼び止められることはない。

 これでいけるかと思ったところで、数人いる衛兵のうちの一人が近づいてきた。


「こんばんは。そちらの女性、王都へはどんなご用件で?」


 衛兵は丁寧な口調だったが、表情からは警戒心が窺えた。

 ダークエルフを見慣れないことで、素通りさせるわけにはいかないと判断したのだろう。


「すみません。彼女は俺の連れです」


「あれ、マルクさんじゃないですか?」


「すみません、どこかで会ったことが……?」


 相手には失礼なのだが、質問に質問で返してしまった。

 衛兵に気を悪くした素振りはなく、そのまま会話が続く。


「カタリナ様をお守りされた時のこと。兵士で知らない者はいませんよ」

 

「それは光栄です。これからカタリナ大臣に会うつもりで城に行けば会えますか?」


「この時間は執務を終えられているので、明朝に行かれた方がよいかと思います」


 衛兵は丁寧に教えてくれた。

 できれば今日中に話を進めたかったが、急な来訪でカタリナに負担をかけるわけにはいかない。


「ありがとうございます。王都の宿に泊まって、朝になってから出向こうと思います」


「ちょうど交代の時間ですので、よかったら宿へご案内します」


 同じ格好をした兵士が近くに歩いてきて、門番の役割を替わろうとしている。

 俺が話していた衛兵は見張り台から下りて、こちらに歩いてきた。


「久しぶりの王都なので助かります」


「それではこちらへ」


 衛兵が先導するかたちで王都の路地を歩き始めた。

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