遺構について話し合う

 話がしたいと申し出たところ、ブラスコは快諾してくれた。

 彼のテントの中で椅子に座った状態で向かい合っている。


「婿殿、遺構はどうだったかな?」


「とても興味深いです。ランス王国の歴史はそこまで詳しくないですが、近代のものではないのかと。もう少し調査が進んだら、国内の歴史家を呼んだ方がいいかもしれません」


「ふむふむ、それは真っ当な意見だね。ここがランスの領内であることは重々承知しているから、わしらだけでここを独占するつもりはないよん。ただ、今の時点で希少価値のある鉱石を見せてしまうと、揉めごとになりかねないから、歴史家を呼ぶとなればもうちょい先になるかな」


 ブラスコは言葉を選びながら話している様子だった。

 俺がランス王国の出自であることも関係しているだろう。

 ともすれば、彼は権謀術数を巡らせる側面を持ち合わせているはずだが、こちらにそういった態度を取らないようにしていると理解しているため、無闇に疑わないようにしている。


「ところで現金な話になりますけど、遺構はどれぐらいの価値をもたらしますか?」 


 ブラスコのように商人ではないため、自分の価値基準では測れないことだった。

 彼の意見を聞いてみたいと思った。


「おおう、ズバッとくるね」


 ブラスコは驚いたような様子を見せた後、楽しそうに笑った。

 そんな彼に合わせて、こちらも笑って返す。


「具体的な金額はこれから算出するけど、まだまだ入り口だから正確な価値は分からない感じだねえ。協力してもらうから婿殿にも報酬を支払うんだけど、お金を稼ぎたい感じなのん?」


「いやいや、ブラスコさんもズバッときますね。自分の店が順調なんですけど、もう少し規模を大きくするか、従業員を増やせたらと思いまして。フレヤとシリルは頑張ってくれていても、負担をかけすぎるのはよくないかなと」


 ブラックな働き方はよくない。

 そんな考えに至るのは転生前にカフェを経営したことの影響だろう。

 同じ背景からブラスコに経営者としての話を聞きたい気持ちもある。


「婿殿も分かると思うけども、バラムの町の大きさからして店の規模はあれで十分じゃないかなー。できるとすれば座席を少し増やすのと、従業員を増やすとか」


「ありがとうございます。やっぱりそうですよね。まずは従業員を増やそうと思います。あとは肉の質を上げたり、食器を新調したり……。考え始めると止まりません」


 話が盛り上がったところでブラスコは水差しを手に取り、グラスに水を注いだ。 


「よかったらどうぞ。わしものどが渇いた」


「これはどうも。いただきます」


 ブラスコは自分のグラスを手にして、お互いに水を口にする。

 適度に冷えた水でのどに潤いが戻るのを感じた。

 洞窟内はさほど暑くはなかったが、探索に夢中だったことでのどの渇きに無自覚だったと気づく。


「わしと商会の者たちは時間をかけてここの調査を続けるから、婿殿も自分のペースで同行したらいいんじゃない。店を空けすぎたら気になるだろうし」


「そうですね。こんなところは冒険者時代に見たことはないので、できるだけご一緒したいと思います」


 二人の話がまとまったところで、テントに誰かが入ってきた。


「社長、エンリと買い出しに行きやすが、なんかいるもんあります?」


「備蓄食料が足りてるなら、特にいいかな」


「承知しやした。それと先月の中間報告がリブラから届きやしたんで」


 ルカは封筒を手にしており、それをブラスコに手渡した。

 重要な書類のようで大事に扱われている。 

 おそらく、売上などがまとめられた資料なのだろう。


「マルクさん、よかったら買い出しに来やすか? 一人用のテントは用意してあるんで、そこで休むのもありなんすが」


「この辺りの町はほとんど行ったことがないので、ご一緒させてください」


「もちろん、大歓迎っすわ。馬車の空きはあるんで」


 俺は席を立ち、ブラスコに会釈をした。

 お互いにとって有意義な時間になった実感がある。

 

「ではまた。今後ともよろしくお願いします」


「ははっ、こちらこそ」


 ブラスコに見送られながら、ルカと二人でテントを出た。

 キャンプの端の方にエンリケの姿があり、これから出発するところだった。

 オーソドックスな馬車で引き馬が一頭、幌のついた荷車を牽引するかたちだ。

 彼は御者台に座った状態で待機している。


「馬車の準備は済みました。いつでも出れます」


「よっ、お疲れさん。マルクさんも一緒に行くんでな」


「分かりました。適当に座ってください」


 エンリケに促されて、荷車の上がって座席部分に腰を下ろした。

 ブラスコ商会の経済力を表すように、一般的なものよりも座り心地が優れている。

 これなら長時間の移動でも負担を減らせるだろう。

 

「お二人とも乗りましたね。では出発します」


 キャンプを離れるように馬車が動き出した。

 地竜ほどの推進力はないため、足場が悪くなると進みが遅くなる。

 とはいえ、標準的な馬よりも馬力があるようでペースが極端に落ちない。

 

「ルカさん、買い出しの目的地はどこです?」


「セルラっつう田舎町っすわ。小規模な町ではあるんですが、食料から消耗品までだいたい揃いやす」


「そこなら近くを通りがかった程度だと思います。どんなところか気になります」


 ルカとは上手くやっていけそうで安心した。

 本格的な探索の前にセルラに足を運んでみよう。

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