異世界のB級魔法使い、現代に転生する ~クラスメイトに多分魔術師が居るが、俺は知らない振りをする~
水色の山葵/ズイ
第1話 凡才の限界
――俺は、英雄に憧れた。
世界は常に残酷だ。
才能は不平等に与えられる。
けれど、時間は誰もが平等に与えられる。
焦りと募りは積もっていく。
物語に出て来る勇者の様な。
勇者に力を与える賢者の様な。
そんな存在に焦がれ、至る方法を模索した。
自分に才能が全くないという事を自覚したのは15才の時だ。
「君の魔力量は常人の十分の一程度しかないね」
魔法とは、この世界で英雄と呼ばれるために必要不可欠な力だ。
「諦めなさい。
魔法使いだけが人生ではない」
魔法学校の教師にそう言われた。
今でも鮮明に思い出せる。
あの時の俺の喪失感は、人生で一番大きかった。
俺は諦めなかった。
教師の言葉に逆らい、独学で魔法の腕を磨いた。
「凄いわ。
貴方の魔力量でここまで上り詰めた人は歴史上一人もいないもの」
俺はB級魔法使いとして認められた。
魔力操作、並列術式、魔力隠匿、魔力循環。
出来る事は何でもやった。
効率的な術を開発し、自分用にチューニングした。
――そうして、そこまでやって。
俺にはB級が限界だった。
先は見えなかった。
A級魔法使い。
それを越える賢者達。
生まれながらに圧倒的な魔力量を保有する本物の英傑。
彼等の戦果を、俺は指を咥えて見ている事しかできなかった。
俺には天を裂けない。
俺には海を割れない。
俺には大地を揺らせない。
俺には、彼等の真似はどう足掻てもできはしない。
――それが現実だった。
「魔王との決戦に志願してくれる冒険者を募集します」
どうしても英雄になりたかった。
煌びやかな世界で生きたかった。
「俺も参加させて下さい」
俺は、英雄が何人も出陣する魔王との最終決戦に参加した。
何かできる事があるのではないか。
俺にしかできない事があるのではないか。
俺が認められるチャンスじゃないのか。
そう思った。
魔力量以外で、英雄に負ける気はしなかったからだ。
そうして、俺は英雄に付き従い魔王の元へ辿り着く。
英雄と共に俺は魔王へ走った。
魔法を叩き込んだ。
俺と同じように決戦に参加した同士が蹴散らされていく。
その惨劇に涙を浮かべながら、それでも武勇を収めんと魔力を練り上げた。
異形の姿へ豹変した魔王が勇者へ問いかける。
「何故、我を討たんとする?
金の為か、権力の為か、力の証明か?」
黒髪の美しい女勇者が牙を尖らせて答えた。
「馬鹿言わないで。
僕はいつでも人の存続を欲している。
僕が戦うのはいつも、子供たちの笑顔の為。
――それには
――どうしてだ。
どうして君は、そこまで英雄に成り切れる。
莫大な魔力。
それだけだと思っていた。
思いたかった。
けれど、英雄はそれだけでは無かった。
英雄は確かに英雄だった。
俺は、俺の実力を認めて欲しかっただけだ。
俺は、所詮幸福な人生を歩みたかっただけだ。
俺は、いつも自分の事を考えて魔法を研鑚していただけだ。
お前は違うのか。
お前は、人類全てを背負っているのか。
それが英雄の在り方なのだと気が付いた時、魔王が嗤った。
「……そうか、良い答えだ。
我は王として民草の繁栄のため他国を侵略し、手中に収める事とした。
敗北を認めざるを得ないな。
お前の夢の方が我の夢より強大だ。
英雄、屍として共に夢を語り告ごうぞ。
――まだ、我等の勝利は世界には早すぎる」
その場で、俺1人だけが気が付いた。
魔王の体内で練られる魔力の形状。
術式の分析は人より得意だ。
魔法使いと戦うなら、相手の魔法を発射前に見切るのは、
「逃げろォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
既に、俺は英雄に魅せられていた。
子供の頃に読んだあの物語の主人公のように、俺は彼女に憧れていた。
だから、彼女には死んで欲しくなかった。
「極大自爆魔法――
魔王の言霊が響く。
瞬間、世界が真っ白に輝いた。
勇者が俺に振り返る。
音は聞こえなかった。
けれど、口の動きで察する。
『守れなくて、ごめんね』
最期のその瞬間まで、彼女は勇者だった。
俺が憧れた英雄だった。
俺は人生終了の間際、敗北を認めた。
俺は英雄にはなれない。
俺は、彼女たちの栄光を語り継ぐただの読者だった。
天才には努力では勝れない。
天才は、努力に対する意識が俺とは全く違うのだから。
◆
――16年後。
俺は異世界の日本という国に転生し、高校生をやっている。
「あの、これ宿題のプリント白紙なんだけど……」
「うっさいわよアンタ。
ていうか、アンタやっといてよ」
俺は今、金髪の生意気なガキの扱いに困っていた。
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