第2話 変わる街並み
翌日ミーヤたちは冒険者組合へと出掛けて行った。が、イライザは治療院の仕事があると言い、昼ごろに帰っていった。本当は仕事なんてなく、マルバスと一緒にいたいだけなのではなかろうか。なんと羨ましい、と勝手に考えながら東通りを歩いて行った。
「あれ? ここって……」
レナージュがふと立ち止まった。その工事現場? にミーヤもなにか違和感を感じる。
「もう武具屋閉めちゃったの!?
弦の替えが欲しかったのになあ」
「そっか、ここが武具屋だったところだったね。
チカマの短剣もボロボロだし困ったなあ」
きっと店主はもう王都へ行ってしまったのだろう。その元武具屋だが、建物はそのままだったがなにやら中で工事をしているらしい。確か賃貸だと言っていたし、別の店が入るのだろうか。
するとそこへ年配のおじさん方が数名やってきた。その中には見覚えのある人もいる。確かあれば細工屋の店主だ。シャワーとドライヤーの使い心地と改良点を報告して新しいものを作ってもらいたい。そう考えて声をかけてみた。
「ああ、神人様かい。久しぶりだね。
例のアレ? いい感じだったのか、そりゃ良かったよ。
改良して作り直すのは構わないんだが、今はちょっと別の仕事が入っててね」
どうやらこの店の備品を作るために足を運んだらしい。その他の人たちも木工師や道具屋、それに農工組合の人だったような気がする。
「ここの武具屋さんはもう辞めてしまったんですか?
欲しいものがあるのに困ってしまった……」
「詳しくは知らないが、どうやらそうみたいだな。
ここは新しく料理屋になるらしいよ。
だから調理器具の注文を取りに来たってわけさ」
「他の方々も同じように注文を受けにいらしたんですか?
農工組合の方がいるのは意外ですけど」
そういうと、その農工組合の事務員が答えた。
「私は看板を頼まれたんですよ。
店の名前と一緒に絵を描くように言われてね」
「まあ、あなた、絵が描けるんですか!?
それはすごいですね」
この異世界では地図以上の絵はほぼ見たことがない。マーケットで簡単な果物の絵を見たことがあるくらいだし、きっと珍しいものなのだろう。
「そんなことありませんよ。
ジスコには作図が出来る人が少ないだけなのでね」
なんと絵を描くのは作図スキルだったのか。と言うことは、頑張ればチカマもイラストが描けるようになるのかもしれない。それを聞いたミーヤがチカマに目をやると、ちゃんと聞いていたようで嬉しそうにしていた。
「しかし店主は遅いですなあ。
約束の時間はもう過ぎているのに……」
「野外食堂にも店があるから忙しいんでしょうな。
それでなくちゃ移転なんてしやしませんって」
おじさんたちが話しているのを聞く限り、フードコートの人気店がちゃんとした店に移転してくると言うことのようだ。どの店だろうか。ラーメンか? それともミーヤお気に入りのトルティーヤだろうか。
「ちょっとミーヤ、武具屋が無くなったならここには用はないわ。
早くいきましょうよ」
「そうだったわね、つい何が食べられるのか気になっちゃって。
二人だって食べるの好きだし気になるでしょ?」
「ミーヤさまより上はない。
ボクお腹空いてきた」
「私も減ってきちゃったわ。
はやく報酬受け取って、野外食堂へ行きましょうよ」
こうしてまた冒険者組合へ向かって歩き出す。元武具屋から組合は近くなのですぐに到着し、中へ入るとモーチアが出迎えてくれた。
「レナージュ! 神人様! 今回はありがとうございました。
そちらの魔人さんも同じパーティーよね?
えっと、チカマさんね」
「背は小さいけどいいセンスしてるのよ?
もう武芸技も使えるんだから」
「それはすごいわね。
レナージュ待望の女性冒険者仲間が増えてよかったわね」
レナージュはジスコ拠点でもないのにモーチアったら良く知っている。いや、レナージュが当てがないか聞いていた可能性もあるし、ただ単にレナージュがおしゃべりなだけな気もする。
「二人が持ってる魔鉱も出しておいてね。
全部合算してから四等分よ?」
「もちろんそれで構わないわ。
チカマも持ってるかしら?」
事前に渡していた袋を取り出したチカマが袋ごとレナージュへ手渡した。ミーヤも面倒なので同じように渡す。するとモーチアは驚いた顔をしてレナージュへ話しかけた。
「ちょっとまって、何この量!?
随分稼いできたと思ったら二人もまだ持ってたの?
さすがに確認しておかないと……」
モーチアはどこかへ連絡しているようだ。多分換金所だろう。途中で一日休んだが、全部で十二日間だったか? 大分稼げたようで何よりだ。
「秤も一度では無理だわ……
こんなに持ち込まれたのは久しぶりね
えっと大景品が―― 」
レナージュはこちらへ向き直って親指を立てた。どうやら、今回はいい旅になったと言いたげだ。それはもちろんミーヤも同じことで、レベルは4まで上がったしチカマも4になっている。
熟練度も順調に伸びているが、一番上りがいいのが料理酒造なのは少し微妙な気分になる。それに昨晩さま場を手伝ったおかげでまた上がってしまっていた。
しばらくするとモーチアが景品をすべて数え終わりカウンターへ並べてくれた。その量でいくらになるのかはわからないが、救援依頼の分も合わせるとかなりの額になるとレナージュは言っている。
それならテレポートの巻物がどんなに高くても買えるかもしれない。いやもしかしたら家だって買えるかも!? とつぶやいたら、いくらなんでもそれは無いと諌められてしまった。
「そう言えばモーチア? 武具屋が無くなってたんだけど、どこかに弓の弦は売ってないかしら?
できれば剣や鎧も見たいけど、それはさすがに無理よねえ?」
「あーあのお店、突然閉めてしまったわね。
他の冒険者からも聞かれているのだけど、いい返事は出来ていないの。
でも弦だけなら細工屋さんへ頼んだらいいんじゃないかしら?」
「なんで細工屋なの?」
「一般的な弦って植物の繊維で作られているんですって。
細工屋なら繊維製品の取り扱いあるでしょ?
もしかしたら手に入るかもしれないわ」
「なるほどね、助かったわ。
じゃあ次は何か食べてから細工屋へ、ってまだそこにいるかしらね」
こうして報酬の受け取りが終わったミーヤたちは、モーチアへ手を振ってから冒険者組合を後にした。
「野外食堂へ行く前にさっきの武具屋跡地へ行ってみましょ。
取り扱いがあるならまたあとで買いに行けばいいからね。
なかったらどうしよう……」
「カナイ村ではみんな弓使ってたけど、どうやって手に入れていたんだろう?
村の誰かが作ってたのかな?」
「カノ村にいた時はそんなの気にしたことなかったわ。
どこで作ってるのかしらね?」
「商人長なら何かわかるかしら?
きいてみ……」
「ミーヤ? どうしたの?」
すっかり忘れていた! フルルはどうしているのだろうか。帰ってきたらすぐに連絡するべきだったのに、色々と慌ただしくてうっかりしていた。
「ジスコへ戻ってきたこと、フルルへ連絡してなかったわ!
早くメッセージ送らないと怒られちゃうわ」
「それは大変! きっと昨日も一緒に飲みたかったと思うわよお?」
「ちょっと脅かさないでよ……」
大急ぎでフルルへメッセージを送り、ついでに商人長へも送っておいた。すると返信が帰ってきたのは意外にも商人長だけで、しかも不在のらしい。キャラバンでコラク村へ向かっているとのことなので、弓の弦について聞いてみた。
『弓の弦ならコラク村で作っておりますので仕入れてまいりますよ。
それと卵料理屋の件は少々立て込んでますのでメッセージでのお話が難しい。
ぜひフルルより直接聞いてくださいませ』
「だってさ、帰ってくるのは一週間くらい先になるのかな?
それまではどこかへ行く予定もないし大丈夫だよね?」
「そうね、助かったわ。
でもコラク村で作っているようなものを、ジスコでは誰も作ってないのかしら?」
「うーん、そんなこと私にはわからないわ。
それよりもフルルに聞けって言われてもねえ。
返事が返ってこないことには始まらないし、まずはご飯食べに行こうか」
そう言った瞬間、チカマはもう限界と言いたげにミーヤの袖を引っ張っていた。
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