第3話 人生で最も愚かな選択

 教室へカバンを取りに行った俺は、幼馴染みの美崎カレンと彼氏の三浦亮に出会った。

 俺が姫川菜乃と帰ると言うと、なんと好きだったカレンから、釣り合わないとさんざん馬鹿にされる。

 だがそこへ、菜乃が教室に入って来たのだった。


「あ、美崎カレンさん、こんにちは。そう、この人があなたの彼氏なんだ?」


 菜乃に話しかけられて、カレンと三浦が目をパチクリさせた。


「え!? 何で姫川さんが健太と? なんで??」

「えっと……あ! 分かった! 罰ゲームだ! 姫川さんが中村と一緒に帰る罰ゲームをしてる⁉」


 三浦の野郎!

 でも俺も、その可能性がまだあるかもと思ってる。

 学校一の美人が俺に告白してくるなんて、いまだに信じられないから。

 ……。

 ……いや、菜乃はさっき違うと言ってくれた。

 俺は彼女の言葉を信じたい。


「だから本当だって言っただろ」

「美崎さん、あなたバカね。近すぎて健太の良さが分からなくなったのかしら」

「し、信じられない! うそでしょ!? みんなが憧れる姫川さんが、健太なんか相手にするはずが……」


 仰天するカレンを見た菜乃は、満足そうに小さく頷くと俺の目を見て優しく微笑んだ。


 か、可愛いっっ!!


 輝くような彼女の笑顔は俺の心を一瞬で捕らえた。

 きっとハートを撃ち抜かれるってこれなんだ!


 菜乃の笑顔に心惹かれない男などいないのだろう。

 あきらかに俺に向けられた微笑みなのに、三浦の奴まで菜乃に見とれている。


「ひ、姫川さん。やっぱり綺麗だ……」


 おい、三浦。

 俺からカレンを奪っといて、何言ってやがる!

 文句を言ってやろうしたところで、菜乃が俺だけに分かるようにウインクした後、三浦をのぞき込んだ。


「三浦さんよね、こんにちは!」

「ひ、姫川さん!」


「美崎さんと付き合うのね。残念だわ。私に告白してくれたときは、とっても嬉しかったのに」

「ざ、残念!? あ、いや、まだ初日だし姫川さんと付き合えるなら、全然なし! 美崎との関係なんてすぐなしにするよ!」


「ん? 付き合うって? 私はただ、告白が嬉しかったって言ったのよ。私が付き合いたいのは健太だけ」

「そ、そんな、嬉しかっただけって……」


「私ね、今日、健太に告白して返事待ちなんだ。だから、あなたと付き合うなんてそんな乗り換えありえないよ?」

「まさか、本当に姫川さんから告白するなんて……」


 菜乃が俺へ告白したのをふたりに話してしまった。

 彼女は想いを隠すどころか、オープンにしたのだ。


 横にいるカレンの顔が引きつって、頬がピクピクしている。


「ちょっと、亮!? 全然なし? 美崎との関係なんてすぐなしにする!? 最悪ー。こいつ超最悪だよー。何こいつー!」

「うるせーよ! 姫川さんに比べたら、おまえの魅力なんかねえも同然なんだよッ!」


 カレンと三浦がもめだした。

 俺、ここにいない方がいいな。


「じゃあ、カレン。俺、もう行くから」

「あ、健太、お願い待って……」


 引き留めるカレンの言葉を菜乃がさえぎる。


「あのね、美崎さん。どう考えても健太の方が素敵なのに、あなた、人生で最も愚かな選択をしたわ。でもね、私は手を抜かない主義なの。健太を確実に手に入れるために、徹底的にいかせてもらうわね!」


 カレンに敵対宣言をした菜乃は俺だけに微笑むと、「帰ろっ」と言って俺の手を優しく引っ張った。


 え? ええ! 手、手を握られた!

 こんな綺麗な女子から手を握られたっ!!

 カレンが手を握ってくれたのなんか、幼稚園までだったのに……。


「健太ぁ! 本当は私を好きなんでしょー? バレてんだからねー。ほらぁ素直になりなよー。ちゃんと謝ったら、少しは優しくしてあげてもいいよー?」


 カレンは立ち上がると、まだ俺をいいなりにする自信があるのか上からものを言ってくる。

 だが、俺はカバンを持って菜乃の後に続いた。


「ちょっと、健太? そんな……う、うそでしょ?」


 カレンの口調が焦りに変わった気がした。


 しかしすでに、俺のカレンへの想いはきれいさっぱり消えていた。


 それは、菜乃が俺へ向けてくれた女神のような微笑みと、そんな美女に手をつながれるというハプニングと、付き合いたいのは俺だけだという、彼女の真っすぐな言葉に衝撃を受けたから。


 突如現れた美しき女神は、俺に長年蓄積した幼馴染みへの情けない執着を、一瞬で吹き飛ばしたのだ。


 菜乃の白い手に引かれて廊下へ出た後、ののしりあう大声が教室から聞こえた。


「私ー、あんたを選択したの完全に間違いだったー」

「黙れよ! 俺だって姫川さんの方が断然いいわ!」


 カレンと三浦がケンカしているようだった。

 しかし俺はこれから、学校一の美人、姫川菜乃の家へお呼ばれしているので忙しい。


 そして気になるのは、彼女の家で明らかになるという迷惑系Vtuberの話。

 それで一体、なぜ俺が困ることになるのか?


 俺にとって、美しい菜乃とふたりで彼女の家へ行き、迷惑系Vtuberの謎を知る以上に興味のあることなんてなかった。

 だから、痴話げんかは勝手にやってもらえばいいやと、ほったらかして教室を後にした。




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