第14話 ユイカの主張2

『どうやら現実を受け入れていただけたようですね』


ユイカの心の機微を悟ったかのようにエドワードは告げる


『……実はこの世界の方の誰にも教えてはおりませんが、貴女には知っておいてもらった方がいいかもしれませんね』


『え……まだなにかあるんですか……』


陸に打ち上げられた魚のような目でエドワードを見るユイカ。


『あなたの仰っていた聖女ミリアなのですが……御年80を超えたご老体なので、確かに独身ではいらっしゃいますが、さすがに王太子と恋愛するのは……少々難しいのではないでしょうかね?』


『そうですか……。って、え!? 80歳ぃっ!!?』


『えぇそうです。そもそも大聖女ミリア様は、私たちの世界にとって非常に重要な立場のお方あらせられますので、ほいほいと異世界に呼ばれては困る為、しばらくの間私たちの世界の神の力で聖女召喚の陣の力を受け付けないようにされていたのですよ』


『じゃぁ、結局聖女の召喚て最初から失敗だったんじゃ……』


『いえいえ、成功はしていますよ? なぜなら聖女ミリアご本人が最初は自分が行くとおっしゃっていましたからね。ですがそれでは困る方が沢山いらっしゃるので、代理で私が代わりにこの世界にやってきました。もちろん彼女の許可も取ってありますよ』


エドワードの言葉にユイカは頭を抱える。


『では……エドワードさんは、聖女ミリアさんの頼みでスカー殿下に加護を授けに来たってことですか?』


『そうですね。それが何か?』


『えっと……その……あーもう! 私完全に余計な事しちゃってるじゃないですかぁ……どうしよう……そんなつもりじゃなかったんですよ……』


ユイカは自分がとんでもない事をしてしまっていた事に気が付き涙目になる。

そんなユイカの様子を見てエドワードは少し考え込む。

(わざと混乱に陥れたわけではないと……ふむ)


『貴女の事情は考慮されるべきところもありますが、少しやり過ぎたようですね。 正直にいいますが貴女が王太子殿下に行ったのせいで彼は今非常に立場を悪くされています』


エドワードは淡々と事実を告げる


『え……なんでそんな……』


ユイカは呆然としてしまう


『その所為でバーガ国王の貴女に対する心象もかなり悪くなっています、私としては貴女がこの世界の住人でない以上、この世界についてあまり深く関わらない方が良いと考えますが…………さて、どうしますか?』


エドワードはそう言ってユイカを見る、そんなエドワードの問いかけにユイカは答える


『私は……ただ……スカー様に幸せになってもらいたかっただけです……』


『……そうですか、貴女の行動が少々疑問なのですが……ユイカさんは、王太子を幸せにしたいから物語の当て馬である騎士団長の死を、あえて回避しようと行動しなかったという事で良いのでしょうか?』


『だってそれは、そういうストーリ……あ……』


ユイカは青い顔で口を手で押さえる。

(そうだわ……たとえこの世界がマンガの世界だと思いこんでいたとしても……私、人を見殺しにしようとしてたんだ……なんてひどい事考えてたの……)

ユイカは今更ながらに自分のやった事すべてがどれだけ無神経で非常識な行為だったかを理解した。


しばらくの間、応接室にはユイカの嗚咽する声だけが響いている。

エドワードはハンカチを差し出し、ユイカが泣き止むまで何も言わず待っていてくれた。


『あの……エドワードさん……』


『はい、なんでしょう?』


ユイカは意を決して口を開く


『私、本当にどうかしてました……自分の間違いに気づかせてくれて感謝しています』


そう言ってユイカは深々と頭を下げる。


そんなユイカの様子をみてエドワードは微笑みを浮かべる。


『間違いをきちんと認められる姿勢は素晴らしいものです、ですが貴女は自分がしたことの責任もきちんと取らないといけません』


『はい……』


『では、そろそろ本題に入りましょうか……』


『本題……ですか?』


ユイカは首を傾げる。


『えぇ。今回の件で貴女に処分を下さねばいけません』


エドワードはそう言ってニッコリ笑う、ユイカはその笑顔に背筋が寒くなるような思いがした。


『しょ……処分……ですか?』


『そうですね、貴女は国外追放にするとバーガ国王からの

通達がありましたので、その旨をお伝えしようと思います』


『そ、そんな……』


『まぁ、国としては当然の判断でしょうね。貴女は王太子殿下の立場を悪くして国を混乱に陥れたのですから』


エドワードの言葉にユイカは黙り込む。


『追放先は私に一任されていますので、……あぁ王命にて明日には王宮を出ていくことになりますから準備をお願いしますね』


エドワードは冷たく言い放つのであった。




◆◇◆


……翌朝、この世界に落ちてきた服装で荷物を抱えたユイカは、エドワードに連行され王宮のどこともわからない部屋へと案内されていた。


「さて、ここから先は人目についてはいけませんので、私の魔法で追放先へと飛ばします。それでは二度と会うことがありませんように祈ってますよ」


泣き崩れてしまわないように必死で下を向いていたユイカであったが、エドワードの冷たい言葉と共に意識は薄れていった。








「……カ……ユイカ! 全くもう!休日だからっていつまで寝てるの! ご飯片付かないんだからさっさと起きてきなさいよ!」


いつもの母親の怒声で目が覚める。

ハッとしてあたりを見回すと見慣れた自分の部屋のベッドの上で横になっていた。

(夢……だったの?)

ユイカはぼんやりとした頭で考える。

ふと枕元に淡く光り輝く手紙が一枚、そこには


【追放先は日本に決定しました。それともう1つ追加で、あの世界がこの先どうなるのか、という未来を一切知ることができない刑も執行します。大変気になるでしょうが、一切知るすべがない事にヤキモキしてください。 もう二度と会うこともないでしょうがお元気でお過ごしください  ・エドワード 】


と書かれているのであった。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

※すごくどうでもいい補足

手紙は読まれた後すぐ消えました。

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