第3話 お肉にならない?
獲物を捉えたかに見えた刃はすんでのところで身を
振りほどこうとしてもビクともしない。
焦りを見せるアリシアだったが、
「あっぶねぇなぁー。もうちょっとで刺さるとこだっただろ」
声が耳に入ってきて、ハッとして獲物の方をマジマジと見た。
「知能が高いモンスター?」
「誰がモンスターだよ。オイラは獣人だ。モンスターみたいな特徴はあるけどモンスターじゃない」
アリシアが獲物だと思って襲いかかった相手は獣人の女性だった。
「モンスターじゃないの?」
「そうだ」
「なーんだ、ガッカリだよぉ……」
肉じゃないとわかった失意と危険から解放された安心でアリシアは力が抜け、それと同時に腹の虫も鳴いた。
「何だ? 今の音」
「気が抜けたらお腹減ってきちゃった……」
「腹の音だったのか。しゃーない、大した物は出来ないけど飯を作ってやるから食うか?」
「いいの!?」
「ああ。その代わり、何でオイラに襲いかかってきたかわけをじっくり聞かせて貰うぞ?」
「うん! わかった!」
「じゃ、ついてこい」
アリシアが彼女の後について森の中を歩くこと10分程度、小さな河原に行きついた。
「到着。ここがオイラの拠点だ」
河原から少し離れた森側の砂利と土の境目辺りにテントと石を積み上げて作られた簡易的な竈があり、木と木の間にロープを張ってそこに服などが干されていた。
「ここに住んでるの?」
「そうだが? 何か変か?」
「え……いや……」
「ま、話は後だ。飯を作るから、その辺に座って待っててくれ」
竈の近くに置かれていた大きめの石に腰をおろし暫く待っていると美味しそうな匂いを放つ小さく切られた燻製肉が入った野菜スープが出来上がってきた。
「ほい、召し上がれ」
「わぁ〜、いい匂い! いただきまーす!」
渡されたスープをものの数秒で平らげたアリシアは彼女に空の器を突き出す。
「おかわり!」
「ハハッ! よっぽど腹が減っていたみたいだな。まだまだあるからドンドン食え」
「うん!」
鍋が空になった頃、
「あ〜美味しかった。ごちそうさま!……ん〜」
ゆっくりと食事をしている彼女をアリシアはジーッと見つめていた。
「ん? 何だ? あれだけ食ってまだ足りないのか?」
「ううん、そうじゃなくて……。ねぇ、やっぱり私に狩られてお肉ならない?」
「ぶふっ! い、いきなり何を言ってんだ!?」
アリシアの言葉にスープを吹き出して驚く。
「だって……キミの体、上質なんだもん」
「か、体!? 上質!?」
「目視だけでの査定だけど、現時点でシア等級A4は確定だよ」
アリシアは肉の目利きだけでなく全ての生物の目利きが出来る天性の才能の持ち主。シア等級とはその目利きの才能を活かしてアリシアが独自に決めた品質基準でアリシア的等級の略称。肉の歩留等級と肉質等級の総合基準はC1からA5だが、シア等級は最低のC1から始まり最上はS5まである。
「シア等級が何なのか知らねぇけど、オイラは肉にならねぇよ。他を当たりな」
「そっかぁ。上質なのになぁ……残念」
「残念で結構。ところでアンタが何でオイラに襲いかかってきたのかってのとか色々と話を聞かせて貰うぞ」
「そうだったね。実は……」
アリシアは事の顛末を簡潔に話した。
「名前がアリシアだから略してシア等級か……なるほど。それより遊び惚けて作った借金なのに取り立てにきた借金取りをボコして4000万から100万に減額させたって……えげつないな。悪魔かよ」
「人間だよ?」
「いや、そういう意味じゃなくて……まぁいいや。アリシアが話してくれたから今度はオイラの話をしようか」
彼女は自身の事を語り出した。
名はリコッタ。神牛族と魔牛族のハーフ。21歳にして王国軍の特攻隊副隊長だったのだが、力の強大さが要因で扱いきれないと恐れた上層部に軍を追い出された退役軍人。現在は文無し家無しの無職なので軍人時代の知識を活かせる森でサバイバルをしながら日々を送っている。
「……と、まぁこんな感じだ」
「へぇ〜。ハーフだから角や髪、目も白黒で半分なんだね〜」
「食いつくとこ、そこ!?」
「うん。ずっとオセロみたいだけど、何でだろ〜? って思ってたの」
「オセロって……」
「ねぇ、リコちゃん」
「リコちゃん? ……あー、オイラの事か」
「リコちゃんは無職でホームレスなんでしょ?」
「まぁそうだけど……ハッキリ言うなよ。少しはオブラートに包んでくれ」
「そんな無職でホームレスなリコちゃんに良い提案があるの」
「良い提案?」
「ウチのお店は現在有能な従業員を募集中なの。リコちゃん、ウチで働かない? 日中は井戸水飲み放題で夜は酔っ払いのおじさんに集り放題! お店に空き部屋があるから住み込みOK。これから繁盛して世界一になる優良企業だよ!」
「世界一とは大きく出たな」
「ねぇ、どう?」
リコッタはアリシアの提案を聞いて少し考え、問いかけた。
「さっきの話を聞いていたか? オイラは恐れられて軍を追い出されたんだぜ? アリシアはオイラが怖くないのか?」
「怖いも何も強過ぎただけだよね? それは能力があるって事だと私は思うの。シア等級もA4確定だし、有能だと思ったから私は勧誘してるんだよ?」
「そうか」
リコッタは更に考え、
「よし! じゃあ、アリシアの店の世話になるか!」
アリシアの誘いに乗った。
「やったー! よろしくね、リコちゃん」
「ああ。よろしくな、アリシア。……で? オイラは何をすればいいんだ?」
「美味しいスープの中に燻製肉が入ってたでしょ? アレってリコちゃんが作ったんだよね?」
「そうだが?」
「やっぱり、そうだったんだ! じゃあ、リコちゃんは加工担当で! あっ、まだ業者からの仕入れが出来ないから一緒に狩りもしてね」
「加工担当? 上手くやれるかわからないけど、狩りは任せておけ」
「よーし! じゃ、早速……狩りにレッツゴー!」
たまたま訪れた森でアリシアは加工担当を手に入れた。
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