第0章:姫と守護者と剣豪と魔術師と

 


「先ずあなた方には四神(ししん)通称 東を護る神と呼ばれる青龍(せいりゅう)に会って頂きます」



プロフェットは言う。


四神(ししん)・・・天を司る神であり、東・西・南・北のそれぞれの方位を守護する神である。


最初に出会うべき神は、その内の東を守護する神である青龍(せいりゅう)。通称、蒼竜(そうりゅう)とも呼ばれているらしい。



「蒼竜は幾多の神の中でも聡明なお方…きっと、事情を話せばあなた方の力になってくれるはずです」



プロフェットさんはどこか親しげにその名を口にする。



「あの、青龍とはお知り合いなのですか?」


「えぇ…私が預言者としていられるのもあの方のおかげですから。彼は…人間の言葉にもちゃんと耳を傾けてくれますので」



青龍っていうからには、てっきりドラゴンか何かだと思ったんだけど…彼とはどういう意味なんだろうか?



「彼…ですか?」


「え、ああ…言葉足らずで申し訳ありません。蒼竜は…書いて字の通り、龍(ドラゴン)で間違いありません。ただ人と会話を交える際は人の形に化けて対話してくれるので…ついついこんな言い方を」


「へぇ…なんだかいい人そうだね。…じゃなくて、いいドラゴンさんか」


「はい…なんだか安心出来そうですね」



ウイットさんの言う通り、この感じだと確かに事情を話せば分かってくれそうだ。



「で、結局どうやってそのドラゴンに会いに行くんだよ?居場所はここから近いのか?」



すかさずズワートが割って入る。


どうやらズワートさん的には青龍がいい人がどうかは、あまり興味はないらしい。



「いえ、さすがに徒歩で行ける距離ではないですね。東の神ですから…ここからずっと先…東に向かって行かなければなりません」


「じゃあどーすんだよ。いくらまともに話が出来そうな神とはいえ、会うまでにそんなに時間かかるんなら意味ねーだろ」


「おっしゃる通り…。ですから…ウイット。ここはあなたの力をお借りしても宜しいですか?」


「おっと、まさかのここで名出しの指名?」


「ええ、今から蒼竜の居場所を魔力を使って直接伝達いたします。…手を出していただけますか」


「・・・はーい」



そうして、プロフェットさんとウイットさんは互いに握手を交わす。



「…なんだァ?ただ握手してるようにしか見えねーが…」


「おそらくこれがその伝達方法なんじゃないんでしょうか…?見てる分には分かりにくいですけど…」


「・・・私、見える。プロフェットさんの魔力とウイットさんの魔力が交わってるのが分かるよ…」


「姫は相変わらず目が良いですね」


「…そういう問題なのか?」



ズワートさんが不思議に思うのも無理はない。


オレはある意味見慣れているけれど姫は幼い頃から時折、普通の人には見えない力のようなモノを見ることがあった。


それは状況によって様々で例えば今回のように魔力の流れだったり、時には人が出す無意識な感情の流れなどをハッキリと肉眼で見ることが出来るらしい。



「・・・実は、姫様も相当な魔力の持ち主だったりして」



ふいにウイットが言葉を発する。



「あ?急に何言い出すんだ」


「いやいや僕は脳筋野郎に言ってるんじゃなくて、セイラ姫に言ってるんだよ」


「え、わたし…ですか?別にそんな大したことじゃないです。単に目が良いだけだと…」


「えぇー、そうかなぁ。」


「あーうだうだうっせえ!ンなことより、魔力の伝達とやらで青龍の居場所は分かったのかよ!?」


「ちぇっ今いいところなのに。そんな急かすなら青龍に会わせてやらないよー?」


「ッ!分かったんですか!?ウイットさん!」


「まあねー、なんなら今すぐにでも僕の魔法で青龍のところまでひとっ飛び出来るよ」


「…ふう、どうやら無事に伝わったみたいですね。後のことは…全てウイットに聞いてください。青龍の居場所も含めて、会ったその後のことについてもお伝えしておりますから…」


「……お疲れ、みたいだね。プロフェットさん」


「えぇ…どうやら私の魔力は…ウイットほど万能ではないみたいです。あなたの魔力は…さすがお強いですね。まさか交わっただけでここまで体力が消耗するとは……」


「まぁそれが僕の力だから。…もちろん、無駄にはしないよ。」


「・・・後のことは、あなたに託します」



プロフェットさんはそう告げた後、そのまま床に腰を下ろした。



「あの、大丈夫なんですか…?」



その様子を見て、オレはすかさずウイットさんに尋ねた。


見ている分には確かに分からなかった。

けど、魔力の伝達が終わったばかりのプロフェットさんは明らかに様子が違って見えた。


魔力の伝達って、こんなにも体力が奪われる行為なのだろうか。



「大丈夫だよ。…魔術が使える者同士ではよくあることだから。」


「わ…分かりました」



ウイットさん…この人もまたズワートさんとは別の意味で凄い人だ。


神と戦うことを恐れないズワートさんと張り合うだけのことはあるということか。



「ーさて、じゃあ行きますか。」



そして、ウイットさんは転送魔法の呪文を唱えた途端、身体中に得体の知れない靄のようなモノが纏わりつく。



「ープロフェットさん!色々とありがとうございました!」



セイクリッドット城の地下から消えゆく瞬間、オレはその場に座り込んでいるプロフェットさんに向けて叫んだ。


ただあまりにも転送が早くて、プロフェットさんにこの言葉が届いたかどうかは分からなかった。


ーけど、そのさなか一瞬だけ聞こえた言葉があった。


おそらくそれはプロフェットさんが発した声だと思うけど自信がない。


それくらい曖昧だったけれど確かに声が聞こえた気がしたんだ。


オレの聞き間違いや空耳じゃ無ければ、きっとーー














ーー  タイムリミット  残された時間は後わずか  ー


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