第15話 吹雪の女と聖剣使い

 国ケ原零華は、状況を飲み込みかねていた。

 さっきから目まぐるしく変わる状況に、ついていけてないのである。


 ここまでをざっくり振り返ろう。

 1、青年が氷像になって、空を飛んで移動。

 2、ついた先でアシュラと呼ばれる侍のような聖剣使いと勝負。

 3、アシュラも青年と同じようなことを叫び、いわゆる阿修羅の見た目になる。


 少年と零華が飛んでいった先にあったのは街だった。

 その街の風景は明らかに中世ヨーロッパ的な感じだった。

 恐らく、これは過去の映像なのだろう。

 

 レイボルグは映像を見せると言っていた。

 これはレイボルグが体験したことの追体験。

 ではなぜそうしたのだろう。

 

 謎が謎を呼ぶ。


「アシュラ、今日こそ決着をつけてやる!」

「たわけが、小童が某に勝てるわけがあるまいて!」


 零華がそんな推測を立てているうちに、斬り合いが始まる。

 

 お互いに変身みたいなことをしているだけあり、迫力は現代の聖剣使いのそれではない。

 一撃一撃が、重く、速く、鋭く、そして磨き抜かれている。

 技量も、引き出している聖剣の力も、遠く及ばないだろう。


 また、彼らは互いに空を飛べるようで、瞬間的に空中戦へと切り替わった。

 お互いが相当な実力を持っているため、その駆け引きも伊達ではない。

 まるで雷が戦っているかのような超高速戦闘。

 今の零華には目で追うのがやっとである。

 

 先程は零華も青年とともに飛んでいったが、今回は地面で待機である。

 しばらくはあのよくわからない斬り合いが続きそうだ。

 一応自分で好き勝手移動できるので、零華はあたりを散策することにする。

 

 今いるのは街ではあるが、人はだれもいない。

 街を通っている大通りを進みながら零華はそれを実感する。

 しかし、映像とは言っていたが、どこまで続いているのだろう。

 レイボルグが以下に強い聖剣とはいえ、限界はあるはずだが。


「お?見えない壁がある」


 街の大通りをしばらく行ったところに、見えない壁がある。

 この先にも景色自体は続いているが、先には進めない。

 ここが限界なのだろう。


 それなら、零華は大通り沿いにあるドアを開けようとする。

 映像なのだから、自分に街の住人は気づかないだろうと思ったからだ。

 だが、扉はどれも開かない。

 

 その後、零華はあらゆる扉や窓を開けようとしてみたが、どれも開かない。

 一ミリも動かなかったので、鍵がかかっていると言うよりは、扉も壁みたいに固定されているのだろう。

 流石に、上空でずっと戦っていたレイボルグにそこまでのことはわからなかったのだろう。


 ズドン


 自分の背後から轟音がした。

 零華は瞬時に振り向く。

 そこにいたのは、手足を失ったアシュラと、それを踏みつける青年だった。

 

 見た様子だと、アシュラの方はもうすでに絶命している。

 青年も未だに氷像の姿を維持してはいるが、全身に傷や欠けている部分が見受けられる。

 こちらも満身創痍なのだろう。


「俺の、勝ちだ」


 青年がそう呟いた瞬間、青年の氷が崩れる。

 そして、零華が最初に見た青年が現れた。

 今度は生身の人間である。


 青年はレイボルグでアシュラの心臓を貫く。


「やつの力を吸い取れ、もうこれ以上、悲劇を起こさないように」


 レイボルグに力が吸い取られると同時に、みるみるアシュラの体が阿修羅から人間へと戻っていく。

 こちらの変身もやはり解けるようだ。

 

 やがて完全に人へともどった阿修羅の手には装飾付きの聖剣が握られていた。

 青年がアシュラからレイボルグを抜いた瞬間、その聖剣もアシュラも灰になる。


 青年は呟いた。


「なぁレイボルグ、ここまで長い道のりだったよな。最初は二人で始めたけど、ストーリィにやられてお前はこんなになっちまったけど、それでもこいつを倒せた。お前のおかげだよ」


 そう言って青年は倒れた。

 零華は焦って近寄ったが、単純に疲れて眠っているようだった。


 そして、その瞬間、零華の意識は暗転する。


「契約がどういうものか、わかっていただけたかしら」

 零華はいつの間にかあの何もない空間に帰っていた。

 レイボルグは零華を見つめて、そう語りかける。


「あれができるようになるってこと?」

「いずれはね。訓練は必要。でも、明らかに今より強くなれるわよ」


 その言葉が聞こえた瞬間、零華は警戒する。


「そうか、それで夢の中に出てきたのね」

「そういうこと。契約すれば、間違いなく、あなたはあの牛を倒せるようになると思うのだけど、どうかしら」


 零華は考える。

 強くなるためのこと自体には零華も抵抗はない。

 だが、それでもまだいくつか見えない物がある。


 零華はレイボルグに問いかける。


「何であなたは私にだけそれを持ちかけるの?多分先代はそれをしていなかった」

「あなただけではないわ、先代はただそれを受け入れなかっただけ」

「その契約をして、あなたにどんな得があるの?」

「質問が多いわね、そんなに不安なのかしら」

「質問に答えなさい」


「あらすごい殺気、本気で警戒されてるのね。いいわその目、教えてあげる。この契約をすることで、私はある程度外に出れるようになるの。私の目的はそれよ」


「外に出て、何がしたい」


「別に、特にないわね。でも、ここはなにもないの。先代も、その前も、その前も、あなた達一族はずっとこの契約を受け入れて来なかった。その間の数百年、私はずっとここに閉じ込められてきた。私はその檻から出たいだけ」


 レイボルグの目に嘘はない。

 零華はそう判断した。

 

 この内容は正直あまり渋る内容ではない。

 隠していることは絶対にある。

 だが、零華にはレイボルグの気持ちがわかってしまった。

 無視をすることなどできない。


「いいよ。書いてあげる契約書」

「あら嬉しい」


 レイボルグは契約書とペンををまたどこからともなく取り出す。

 

「私の名前はレイボルグ。あなたに仕える聖剣。これからどうぞよろしくね」


 零華は契約書に、自らのサインを書き込んだ

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