第5話 ズドーン
カモメは特殊剣士科というカモメを有効活用するためだけに作られた科に所属していた。
そのため、イベント等で生徒会長と関わることが多かった。
というのも、カモメが扱う妖刀は強すぎるため、まともに教えられる資格を持った人間が国内に3人しかいない。
そのためカモメは基礎教養以外の授業時間は暇で、その隙間で学校への依頼を引き受けていたのである。
そもそも剣士科高校というものは、剣士を育成する場であると同時に、依頼を捌く場所でもあった。
付近で起こった事件事故などに、国家資格をもった学生剣士を向かわせる。
そうすることで剣士も鍛えられるし、付近の人を助けることにもなる。
まさに一石二鳥で始まった取り組みである。
そしてその依頼には、当然学校内からのものも含まれている。
生徒会主催のイベントの手伝いや護衛などが主だった。
それに参加するのは主にカモメと教師に奉仕活動を求められた生徒だけだった。
よってカモメはいつのまにか生徒会執行部のメンバーと顔見知りになっていった。
そして、カモメの実力も相まって、いつの間にか仲良くなった。
ある日の放課後、人数が必要な事務仕事ということでカモメは生徒会の手伝いに行った。
そこでは手分けして作業を行うことになり、カモメは生徒会長である大黒真知子と一緒に行動する流れができた。
そこで交わした会話では、大黒真知子はこう言っていた。
「来年に入ってくる子たち、つまり私達の後輩の代の生徒すごいらしいけど、きいた?」
「全然」
「あのさ、あれらしいよ、なんと聖剣使いが4人も来るらしいよ」
「…マジ?」
「マジ。しかも一人、とんでもなく強い剣士がいるとか」
四人の聖剣使いのうち一人はもしかしたらカモメといい勝負ができるかもしれない。
カモメはその情報を思い出した。
「きっとあれだろうな」
カモメは新館校舎の屋上からだだっ広い校庭の端にある対戦用のステージを見る。
正直しょぼい駆け引きだったら、何が起きているのかは一切捉えられない。
だがこれに気づかなければ、そいつの目は文字通り飾り、もしくは脳みそが詰まっていないのだろう。
屋上にまで吹いてくる冷えた風。
横に五個、縦に二個ずつ並んだ正方形のステージのうちの一つに咲いている一輪の氷の花。
間違いなく真知子が言っていた聖剣使いだろう。
カモメはそう確信する。
そして、一年生たちの格付けの指揮をしていた真知子は、絶賛ビビっている。
彼女の性格的に間違いはないだろう。
あれほどの出力の聖剣は映像などでも、滅多に見ないからだ。
これは期待できるのではないだろうか。
カモメは自分の本能がそう思っていることを感じた。
今、自分の目線の先にあるとてつもなく大きな氷塊。
女子としては少し高めな身長を真知子は持っていた。
だが、そんな真知子を有に追い抜かすどころか、真知子の身長の5倍はある大きさの氷塊がまるで息をするかのように簡単に作られたことに、真知子は戦慄していた。
もちろんカモメが氷の花と表現したように、氷はバラのような半球の形をしていた。
よって横幅も、奥行きも、体積もある。
これは天下の桜井カモメでも難しいんじゃないか。
真知子は心の隅でそう思った。
そして、もちろんこの氷を作った犯人は国ケ原零華である。
というのも、まず零華を試合中に煽ることで、精神的に有利に立とうと思った人間がいた。
精神の安定を欠いた剣士はとても脆い。
格上を相手にするときの常套手段だ。
精神的にも鍛えられている零華なので、そんな安い挑発に引っかかることはない。
通用しないからと言うことで、狡い手しか使ってこない聖剣使いにも特にイラつきはしなかった。
だが、問題はその後だった。
狡い手を使う聖剣使いを、正々堂々と王道的な立ち回りで追い詰める零華。
特に形勢が乱れることなく、零華はその聖剣使いに勝利。
そのまま挨拶をし、ステージを降りようとした零華、だがその狡い剣士の心は乱れていた。
今までにない、学生の出すものとしては滅多に見られない速度で聖剣の能力を呼び起こし、そして零華に放とうとした。
だが、それを見越していた零華は、それに罠を仕掛けていたのである。
そして現状が作り出されたわけである。
故に凍らせても殺そうと思っていなかったら特に死ぬことはない。
それに聖剣使いなのだから聖剣の効果による身体強化も入っているし、この程度で死にはしていないだろう。
それにしても少しやりすぎ感があると零華は思った。
罠系のことは基本出力全開になるし、めんどくさい敵ではあった。
だが、今回のことである程度周りに実力の目安がしれてしまったのはあまり美味しいとは言えない。
「それに…」
零華はトーナメントの表を見る。
今倒した相手が川崎優吾というやつだったから、今は準決勝だろう。
そして決勝の相手は、あの悪魔シリーズの一振り、バルバトスの使い手だ。
悪魔シリーズというのは、ソロモン72柱の悪魔に関する名前を持った聖剣につけられた名前である。
太古の昔、ある一人の天才剣士とその配下の術士たちが生み出したとされている。
その性能は何かに一点特化したものであり、その一点に限ってはありとあらゆる聖剣を凌駕する。
零華には悪魔シリーズとの対戦経験がない。
確かに総合的な実力で見れば零華のほうが上である。
だが、悪魔シリーズはその一点に特化した尖った能力でその差を埋めることができる。
油断した瞬間自分が負ける、そんな試合になることだろう。
零華は集中する。
一度すべての感覚器官を閉じ、自分の心のみに意識を向ける。
「時間です。決勝戦に参加する両名はステージの上に上がってください」
「はい」
「押忍!」
きっとこの試合は久々の厳しい戦いになるだろう。
零華の心は落ち着いていながらも、そんな戦いができるかもしれないという、久々の高揚感に包まれていた。
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