7.金髪ギャルに人気のない場所に連れて来られた
放課後。人気のない廊下にて。
「ねえカズっち……。あたしが言いたいこと、わかってるよね?」
金髪ギャルに壁ドンされて睨み上げられています。俺、カツアゲでもされてるのかな?
苦手属性の金髪ギャルとはいえ、相手はアスカさんだ。話せばわかってくれるかもしれない。朝食を作ってくれた優しさを信じているよ。
「い、言いたいことって?」
「今晩もカズっちん家に泊めてよ」
「嫌です」
「なんで!?」
複数相手ならともかく、一対一なら「ノー」と言えるのが俺です。
一晩だけならまあいいかという気持ちになるし、美少女が家に来ることであわよくば……なんて考えもほんのちょっぴりあったかもしれないが、そんな期待をするだけ無駄だとわかれば泊めてやる理由はかなり薄い。
「むしろこっちがなんでって言いたいんだけど。一晩だけなら友達の家に泊まったってことでもいいけどさ、二晩続けてってなると言い訳にも無理があるでしょ。もしアスカさん達が親とケンカをしてたとしても、さすがに心配に思うんじゃないかな?」
「うっ……。カズっちにまっとうなこと言われた気がする……」
オイ。俺がまっとうなことを言わないみたいな言い方はやめてくれないか。
「それに、二晩泊めるだけで解決できるような問題なの?」
「そ、そんな簡単な話じゃないけど……」
「だよね。じゃあ一度帰った方がいいって。家族も冷静になって考えが変わっているかもしれないよ」
「……」
押し黙るアスカさん。もしかしたら押せばいけるのかな?
アスカさんと紗良さんの問題とやらはわからない。でもこの反応だと親との折り合いが悪くなったとか、そういう話なのだろう。
思春期の女子なんだから色々あるだろう。なんて、知ったようなことを口にでもすれば怒られそうだ。
俺にどうにかできる話じゃない。そもそも二人は事情を話そうともしていない。なら、俺にできることは何もないし、関わるべきではないだろう。
「……もし、それでも行くところに困ったら」
黙り込んでいたアスカさんが、ゆっくりと口を開く。
「紗良だけでもいいから。また、泊めてやってくれないかな?」
「紗良さんだけでもって……」
アスカさんはどうするのだろう? それに紗良さんだけでもって、彼女にとって紗良さんは自分よりも優先させるような存在なのだろうか?
俺を見上げるアスカさんの目は真剣そのものだった。強い意志すら感じさせるその目は、断りでもすれば何をしでかすかわからない色を帯びていた。
「わ、わかりました……」
気圧された形で頷いてしまった。一対一でも、強く押されれば「ノー」と言えなくなってしまう俺。強い男になりたいです……。
「よっしゃ! じゃあスマホの連絡先交換しようぜ。またお世話になる時は連絡するから」
「あ、うん」
真剣すぎて暗くなりかけていた表情を一転させて、アスカさんは勢いよく顔を近づけてきた。美少女の接近に動揺してこくんと頷いてしまう。近くで見ると、昨晩よりも薄いメイクになっていることに気づく。そのくらいなら素直に可愛いと思った。
嬉々としてスマホを俺に向けるアスカさん。なぜだろう、初めて女子と連絡先を交換するっていうのに心が躍らない。
アスカさんは手慣れた操作であっさり連絡先を交換する。俺のメッセージアプリに初めて母親以外の女子の名前が追加された。
「じゃ、そういうことだから。また何かあったらよろしくなー」
ようやく解放された。なんだかぐったりするくらい疲れてしまったよ。
ともかく、今日はアスカさんと紗良さんはちゃんと家に帰ってくれるはずだ。それで問題が解決してくれたら一番いいんだけどね。
「たまにだったら、別にいいけどね」
女子が家に泊まるというイベントは刺激的だった。たまにはそういうドキドキな展開があってもいいかなと考えてしまう思春期男子の俺。
大人になってから振り返ってみて「青春だったな」なんて思える程度のことなら、体験してもいいかなって思う。それが間違いだとわかっていても。
「……」
無言でスマホを眺める。
大した連絡先が入っていなかった中に、クラスメイトの女子が加わった。理由が理由なだけに全然ドキドキしなかったけれど、落ち着いてみれば段々と込み上げるものがあった。
「ふっ」
小さく笑いが零れる。
別に笑うのを押さえたわけでも、カッコつけたわけでもなかったが、あまり人に見られたくない笑い方をしてしまった。ぼっちは笑うのにも慣れていないのだ。……ここが人気のない場所で本当によかった。
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