取材をするのじゃ! なに、逆じゃと? ─お銀視点─
残暑の季節がやって来た。ようやくあの暑苦しい気候から解放されるのかと思うと嬉しいが、まだまだ冷房を手放せるほどではない。早く涼しくなってくれんものか。
「お銀ちゃん、今日は何して遊ぶ~?」
「う~む、そうじゃのう」
先月はトランプという札でポーカーやブラックジャックなどという遊びをしておったが、散々やって今は落ち着いた。たまに義隆やお雪も加わってくれたが、あの二人はあまり暇ではないからの。そう頻繁には誘えん。
今はまだ朝じゃが、お雪は既に働きに出ておる。義隆は食卓で来月から始まる仕事の準備じゃ。そうなるとまたいつものように美尾と二人か。
「将棋はどうじゃ?」
「う~、うちお銀ちゃんに全然勝てへんから嫌や」
まだ幼いから筋道を立てた考え方ができんのか、それとも元々感覚で動く性格なのかはわからんが、美尾は考える遊びは苦手なことが多い。しかし、直感を使うとなると逆に強いんじゃよな。トランプでの遊びはそれでかなりやられたものじゃ。
「ならば、オセロはどうじゃろう?」
「オセロかぁ」
お、悪くない反応じゃの。今日はこれか?
そのとき、電話の呼び鈴がけたたましく鳴った。義隆が最初に受話器を取る。
「お~い、美尾ちゃん、お銀ちゃん、川谷さんからやで~」
「なんやろ、仕事の話かな?」
「そんな気がするの」
わしは義隆から受話器を受け取る。
「変わったのじゃ」
「お、おはよう。あ、あのね、き、今日は仕事の話をしたいと思って電話したの」
「おお、そうか! して、どんな話なんじゃ?」
「い、今からそっちに行っていいかな?」
「もちろん構わんとも! 今すぐ来るといい!」
「わ、わかった。そ、それじゃ行くね」
その言葉を最後に亜真女は電話を切った。わしも受話器を下ろすと笑顔で振り返る。ふふふ、美尾が期待に満ちた顔をしておるのう。
「お銀ちゃん、なんやったん?」
「そなたの予想通り、仕事の話じゃ。今からこっちへ来ると言うておった」
「やった!」
最初に話を聞いてから結構時が流れたが、まぁいいじゃろう。これでようやくわしらも生活費を稼げるわ!
亜真女は十分もしないうちにやって来た。普段なら手ぶらでやって来るというのに、今日は手提げ鞄を持ってきておるの。
義隆も含めて全員が食卓に座るとすぐに仕事の話が始まった。
「ま、前に話をしてた連載記事の件なんだけど、い、いよいよ始めることになったの。そ、そこで今日は二人に取材の仕事をしてもらいたくて来ました」
「おお、いよいよじゃの!」
「なぁなぁ、どんな取材をすればええんや?」
わしも美尾も初仕事とあってやる気満々じゃ。早う話の続きをせんか!
「れ、連載最初の記事は、ざ、座敷童について書くことになったの」
「なに、座敷童じゃと? なぜじゃ?」
「ほら、ざ、座敷童って幸運や富をもたらすって伝承があるでしょ? だ、だから縁起がいいんで最初の記事に選ばれたのよ」
なるほど、縁起物として担がれたようなものか。しかし、悪くないの。まさかいきなり自分が取材される側になるとは思わなんだが。
「それじゃ取材するんは、うち?」
「しかおらんの。そうか、美尾から取材を受けるのか。何か面はゆいのう」
「よ、よかったら、い、今からやってみる? わ、私も義隆さんもいるから」
美尾は目をぱちくりとさせてわしを見ていたかと思うと、亜真女の言葉で義隆達にも視線を向けた。
「よいのではないか? 相手はわしじゃから何を聞いても困らぬし、取材の仕方とやらをこの機会に亜真女から教えてもらえばいいじゃろう」
「そっか、そやね!」
多少不安があったらしい美尾はわしの言葉で笑顔に戻った。初めてでひとりというのは心細いからの。気持ちはわかるぞ。
「それじゃ、今から取材するってゆうことでええんか?」
「うん! お銀ちゃん、えっとな、好きな食べ物はなんですか?」
「いきなりじゃな。好きな食べ物か。そうじゃなぁ、最初に思い浮かぶのは魚かのう。鮭や秋刀魚じゃ。それに金平ごぼうもよいな。しかしこの家に来てからは、和風だけでなく洋風や中華風も好きになったぞ」
「それじゃ、好きな遊びはどんなん?」
「おはじきにかるた、それに将棋をよくやっておったが、ここに来てからはトランプやオセロなんかも好きになったのう。ほれ、美尾ともよくやっておるポーカーやブラックジャックなんかじゃな」
「お銀ちゃんってどこで生まれたん?」
「東北じゃよ。もう随分昔じゃな。気付いたらどこぞの屋敷におったんじゃ。しばらくはそこにおったんじゃが、飽きて外へ出て以来、いろんな家に取り憑いたのう」
「取り憑いたお家で良かったところってあるん?」
「良かったところとな? そうじゃなぁ。なかなか子宝に恵まれなんだ家に取り憑いたときは、家主とその妻殿に我が子のように接してもらったことがある。子が生まれたときは本当に喜んでおったわ」
「逆に嫌なことってあったん?」
「あったぞ。わしが取り憑いておるのを知ると、閉じ込めて他に行けぬようにしようとした家があった。末代まで子孫を栄えさせたかったんじゃろうが、わしとしてはいい迷惑じゃったな。あれ以来、取り憑く家には慎重を期するようになったの」
などといきなり始まった取材が続いてゆく。何やら美尾の知りたいことばかりが続いておるような気がするが、それは仕方なかろう。亜真女が先ほどから帳面に書き込んでおるようじゃが、何も言わんということはこれで良いのじゃろうしな。
「う~ん、これ以上は思いつかんなぁ」
「そうか。亜真女、これでよいのか?」
「うん、だ、大体いいと思う」
「俺としては気になったことがあるんやけど。美尾ちゃん、さっきから質問するばっかりで何も書き残してへんけど、今までの受け答えって全部覚えてるんか?」
「……ううん」
「こ、今回は私が全部書いてるからいいけど、み、美尾ちゃんとお銀ちゃんだけで取材するときは、ちゃ、ちゃんと紙に書いておいてね」
「う、うん、わかった」
なるほどの。聞いたことはきちんと亜真女に伝えねばならんから、記録はしっかりと取らんといかんのか。
「そ、それじゃ、わ、私からも質問いいかな?」
「おう、なんでもいいぞ」
「あ、あのね、好きな男の人って今いる?」
「なに!? 好きな男じゃと!?」
「あ、うちもそれ聞きたい!」
なんじゃと! どうしてそんな質問が出てくるんじゃ!? いや、それも記事にするというのか!
「何でも答えるってゆうたやろ? お銀ちゃん、教えてぇな」
「そんなもんおらんわ! いたらその男のところに行っておる!」
「だ、だったら、ど、どんな男の人がすきですか?」
「ちょ、ちょっと待つのじゃ! それは答えねばならんのか!?」
「とても重要な質問のような気がすんなぁ」
「義隆はだまっとれ!」
ええい貴様ら、楽しんでおるな! 義隆め、にやにやするでないわ!
「少なくとも貴様などは好みではないわ!」
「真っ正面から全力で拒否された……」
「で、どんな人がええのん?」
「くっ、美尾、そなたというやつは……そうじゃ、次の取材相手は美尾にしよう! どうじゃろうか、亜真女よ?」
「うん、い、いいんじゃないかな。そ、それで、こ、好みの男の人ってどんな人?」
「おのれ、話を逸らせなんだか。いや、えーっと、あのじゃな……」
何でこんなことになったのかよくわからなんまま、わしはどうやって返そうか必死になって考えた。しかし、焦るばかりで一向に妙案は思い浮かばん。
結局、気付けば洗いざらいはき出すことになってしもうた。おのれおのれ、美尾よ、次はそなたじゃぞ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます