二人きりの駅

 

「……いらん!」


「えっ?」


「いらんと言ってるんだ! 誰が焼鳥なんか!!」


「え~本当にいらないんですか? こんなに美味しいのに。あっ、もしかして葛城先輩は、焼鳥とか嫌いな人ですか?」


「っ…! おっ、お前には関係ないだろ……!?」


 俺は強気な態度で焼鳥を拒んだ。だが、阿川は焼鳥を片手に持つとそれを目の前にチラつかせてきた。


「大人で焼鳥が嫌いな人なんかいるんですかね~? こんなに美味しいのに~、葛城さんってちょっと変わってますね? ホラ、ビールと一緒に飲んで食べると旨いですよ?」


 阿川はそう言って焼鳥を俺の前で旨そうに食べた。その見せ方に余計、苛立ちが募った。


 クソ! そんなことお前に言われなくてもわかってるんだよ! 焼鳥とビールが神の方程式ってことぐらいな! クソッ! さっきから1人で旨そうに焼鳥を食べやがって、そのビールを一口くらい飲ませろ!!


 阿川が旨そうに食べてる様子をチラッと見ていると次第に強いストレスを感じた。だが、アイツは呑気にモクモクと焼鳥を食べていた。今日は遅くまで残業をしていたからまだ食事はしてなかった。そんなことで腹の虫がグーグーと鳴ってきた。


「あれれ、今お腹の虫がなりませんでしたか~~? もしかして葛城先輩、まだ夜ご飯食べてないんですか?」


「っ…うるさい……! お前には関係ないだろ!?」


「でもお腹空くと気分悪くなりませんか? 俺も大体そうです。よかったら食べて下さい。焼鳥が嫌いでも少しは空腹が紛れると思いますので!」


 阿川はそう言うと焼鳥が入ったパックをベンチの上に置いてきた。俺は頭がカッとなると、それを片手でバンと払い除けた。


『しつこい! いらないと言ってるんだっ!!』


「あっ……!」


 ついカッとなると焼鳥が入ったパックをベンチの上から払い除けた。すると阿川は一瞬だけ悲しそうな顔をした。


「…………」


「フンッ!」


 俺はそこで動揺すると、なにも言わずにベンチに横たわってふて寝した。本当は謝るべきなのに、自分のプライドがそれを邪魔をした。 阿川は酷い事されたのに情けなさそうな顔でヘラヘラ笑っていた。こいつはそう言う性格の男だった。だから俺はこいつが嫌いだった。


「あ~あ。葛城先輩、もったいないじゃないですか?」


 ブツブツブツ。


 アイツは近くて話すと落ちた焼鳥を拾っていた。俺は彼に謝る事もなくふて寝した。そうしているうちにあいつの気配が急にいなくなった。そこで気になって後ろを振り返るとあいつが居なかった。ただ、奴の鞄とビニール袋だけがベンチの側に置いてあった。




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