二人きりの駅

 

――……さん


――――葛城さん起きて下さい。



「ん……?」



 フと誰かに名前を呼ばれると、俺はそこでパッと目を覚ました。



「しまった……!」



 慌てて目を覚ますと、俺は駅のホームのベンチで寝かされていた。



「な、なんだここは……!?」



 周りを見渡すとそこは、都会とは違う光景だった。ネオンの明かりすらない。よくみると辺りには静かな田園の風景が広がっていた。



「なっ、何だここは!? まるで田舎だ…――!?」



 驚愕しながら辺りを見渡していると、近くに誰かが立っていた。

 

「葛城さん気がつきましたか?」


「阿川……!? なんでお前がここに……!?」


「あー、僕達どうやら終電まで乗ってしまったようです。僕も貴方と同じように電車の中で眠ってしまったみたいで、気がついたらここで降ろされてました」


 阿川は呑気な口調で頭をかきながら、そう言って話してきた。


「しまった! 俺としたことが、いつの間にか電車の中で眠ってしまった! これじゃあ、家に帰れないじゃないか!?」


 俺はアイツに起こされると慌ててベンチから急いで起き上がった。そして、周りを見渡しながら駅のホームで1人ウロウロして慌てていた。だが、そんな時に不意に気づいた。阿川だけは妙に落ち着いていた。


「何故お前はそんなに落ち着いていられるんだ!? 家に帰れないんだぞ!?」


「そう言われましてもねぇ……」


 阿川はそう言って言い返すと、ヘラァとした顔で頭をかいていた。


――正直に言うと俺は阿川のそういった所が前々から嫌いだった。自分よりも二つも年下で、去年入ってきた新人だ。阿川は仕事は出来るが、どこか抜けている性格でマイペースな所があった。そこに苛立ちを隠せなかった。俺はそういう呑気な奴をみるとムカついてくる性格だ。なので阿川みたいな奴は自分にとっては嫌いなタイプの人間だった。


「クソッ!! こうなったら何がなんでもタクシーを掴まえて帰ってやる……!」


「あ、葛城さんタクシーで帰るんですか?」


「何?」


「やめといた方がいいですよ。何せここは千葉ですからここから帰るとなるとタクシー代が、かなり掛かりますよ?」


 阿川の何気ないその言葉が、帰ろうとしている俺をそこで引き留めた。


「なっ、なんだと……!? 千葉だと…――!?」


「ええ、千葉です。それにタクシーだって、こんな時間に簡単に掴まりませんよ。ここは諦めて朝の始発に乗って帰るしかありませんね?」


「クソッ…! なんでよりによって俺がお前なんかと一緒に、こんな所…――!」


「何か言いましたか?」


 俺はアイツから仰天するような事実を聞かされると頭の中が一瞬クラっときた。そして、ついそこで本音の言葉が口から漏れてしまった。阿川はこんな時でも呑気にマイペースだった。ヤツの落ち着き具合を傍で見ているとさらにイラついてきた。



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