第2節 非道から生み出される怪物

 ツゥーバと言う存在が目を覚まし、数日が経った時、研究所のとある一室で何かが造られていた。


「……また、駄目か」


 頭を抱えた科学者カミサマ

 目の前にあるのは、ツゥーバになれなかった残骸であり、その傍らには、スエルスと名前が彫られていた。

 机の上には歯車や電線や基盤、そして、ホルムアルデヒドの水溶液に入っている瓶の中には、生物と言い様が無い肉塊がプカプカ、と浮かんでいた。


「なぜだ、なぜ、出来ない。過程は同じはず、順序も同じはず、運命や奇跡と言うものは付け入る余地がないはずだ……今の技術であるならば生命の神秘なぞ完全な再現が可能なはずなのに、新たな生命の誕生はこの世界は拒むのか……?」


 だが、と科学者カミサマは言葉を続け、一人だけの研究室でぶつぶつ、と言葉を述べ続ける。


「……一人は悲しいと思ったのだがな」


 そう、どこ悲し気な言葉を漏らす科学者カミサマ

 その瞳には、ツゥーバに向けていた鉄の様に冷たい物ではなく、どこか人間味あふれる温かな色をしていた。


「方針を変えるべきだな」


 目の前に置かれた失敗に、科学者カミサマは静かに立ち上がり、部屋から出ていく。

 失敗作が積み上げられたゴミの様な部屋の足場を、綺麗に選び取り、進んでいく科学者カミサマは下界を傷付けない足を踏みしめる『かみ』そのもの。

 温かく、無機質で、はたまた優雅に歩くその姿に、他に人がいたのであれば、確実に目を奪われていたであろう程のもの。だけども、科学者カミサマは何も思わない。

 かの者を見つめるものがいようとも、神はその光景に、情景そのものに何一つの心持を抱かない。

 抱くのは、ただ一つの目的けつろん

 手段を問わず、過程を問わず、生き方も問わない。

 ただ求めるのは、目的その物であり、それ以外の障壁は不要であった。



『私は、私の目的げんてんを果たす』



 そう胸の中にある宣言が、科学者をカミサマたらんとしているのは、本人しか知らなかった。


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