第385話 臨界14(ガネーシャサイド)
切っ先が落ちてくる。フランス革命で数多の首を跳ね飛ばしたギロチンの刃とサードニクスの映像が重なった。
「無礼、お許しください」
今にも三途の川を渡るはずだった、ヘルの館を目にすることになるはずだったはずのサードニクスの視界には赤と白の軍服の背中が存在していた。
「申し訳ありません。体は大丈夫ですか?」
サードニクスを見ることもなくガネーシャは問う。
「何故、俺を?」
「私としても本意ではありません。ただ、あの男はここで死ななければならない」
頑として退かぬと分かる張りつめた声は鋼鉄と思えるほどに硬い。立ち上がるとガネーシャはサードニクスを庇うように前へ出る。
「騎士さまのわりに騎士道精神に乏しいな」
「騎士は弱気を守る。いえ、彼は強かったですね。そこは訂正すべきことです。しかし、騎士の本懐は守ることだけではなく、悪を殺すことでもある」
「悪か。…確かに悪だな。お前らの方向から見てみれば」
腰に付けたボトルを手に取り、パルマはマラソン選手が走っている最中と変わらないというスタンスで給水を行う。グイッと口元を拭う。
「違います。私が言っているのは貴方が我々と逆の側に居るからではありません。貴方が、どうしようもないほどに理解のしがたい存在だからです」
「理解は出来んだろうよ。互いに種族からして…」
「違います。私が言いたいことは」
ガネーシャはパルマの言葉を遮る。普段はしないであろう礼儀に外れた振る舞いにサードニクスの神経に先ほどの緊張とは別の刺激が働いたのを感じた。
「貴方、生きていますか?」
「生きてるだろ。こうやってピンピンとな」
「そうではありません。私が言っているのは、貴方の内側からは何も感じない。殺意、戦意、善意、悪意。全てが嘘くさい」
失礼千万といえるほどの暴言は耳にすれば怒りを爆発させたところで不思議ではない。対する答えがこの世のものと思えない邪悪な笑みを浮かべさえしなければ。
それは、嗤った。『パルマ』という皮を被った怪人は歯頚を剝き出しにして。
「よく気付いたな。どうして分かった?」
「しっくりきすぎていたというだけです。貴方のような人柄が口に出す言葉、行動、態度がここぞというタイミングで行っているのではないかと疑問を覚えた」
「だから、その後ろに居る奴を戦わせてじっくりと様子を見ていたということか」
チラッとガネーシャはサードニクスを見るとこれ以上は手を出させまいと前に出る。
「安心しろよ。そいつに興味はない」
「私が隙を見せれば仕留めるつもりでしょう。そんなことはさせません」
「流石は騎士様だな。なら、そんな忠義の士の前でじっくりと守りたかったモノをグチャグチャに踏みにじってやるのが礼儀ってやつだよな?」
両手を手に伸ばす。白くきれいな指先は男のものとは見えないほどに美しい。ポーズの一つを取れば古代ギリシャ、古代ローマに作られた彫刻と見まがうほどだ。
「悪逆の輩は生かしてはおかない。貴方は紛れもない『悪』だ」
赤と白の軍服の中央が開き、剣の柄が現れる。肉と皮膚を裂くでもなく光に包まれて顕現する様子はまるでファンタジー作品の一幕だ。そのあり得ざる光景にその場に居た誰もが目を見張った。青い光と共に発せられた「キィィィン」という甲高い音が場を包む。
「天を藍と為せ。『
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