第104話 女王12(天長サイド+九竜サイド)
崩れ落ちた第三支部が最初に目に入った。窓から確認できたそれは、降りると一際悲惨さが増す。
加えて四肢を、肉体を、頭を、顔をグチャグチャに四散させた人間の姿が目に入る。目障りで耳障り、鼻を突くものがこの空間には満ち満ちている。
見える景色も昨日までのそれとは様相を違えているという言葉で言い表すことが出来ない。この場所にだけ台風がやって来たと言ったところで冗談にならないぐらいの地獄絵図だ。
周辺にいる者たちは呆けた顔をしている。処理能力が一切追いついていないだろう。対して天長の胸には何も芽生えていない。
恐怖、喪失、怒り。
何も、何1つとして。起こっていない。
淡々と、粛々と。前へと足を進めている。
「ふーん。今度は君たちか~」
吸血鬼。大振りの鎌を携えている姿は途轍もない違和感がある。現実のものとして存在していないものを、無理やり張ってつけたような感じがする。
しかし、見た目通りに判断すべきではないといういい事例だろう。その証拠に地を舐めている弦巻葵の姿を見ていれば、納得せざるを得ない。
「どちら様でしょうか?」
普段と変わらない、凪のような口調で天長が問う。
「グラナート・アラトーマ。一応は女王様だよ」
「そのような立場にある方が、このような辺鄙な場所に何用でしょうか?」
「巡遊だって言ったら歓迎してくれる?」
あどけない顔に見合わない醜悪な顔だ。血の味を知っていると理解の出来る笑み。
「招かれざる客にはお帰りいただくのが当然ですね」
腰に差しているアビスを抜く。委員会直属の部隊に与えられているエクスキューショナーズソードの形状をした
「居座ったらどうなっちゃうのかな?」
「この世から辞退願うほかありませんね」
明確な殺意を隠そうともしない言葉を受け、グラナートは笑う。それも心の底から可笑しそうに。
「わたしにそんな物言いをする子は初めてだよ♪」
周りはさっきの暴れ振りを目にしているためか及び腰だ。
「申し訳ありませんが、スケジュールが詰まっているので、早々に終えさせていただきますことをお許しください」
ボルテージが高まっているグラナートに対して天長は最初から態度が変わらない。
粛々と戦いに臨む用意を終え、走りだした。
♥
力がまともに入らずオレは膝をつく。全身の細胞が疲弊しているかのように体をうまく動かすことが出来ない。
避けることが追い付かずに受けたタックルの威力であばらを砕かれた。息をするだけで苦しい。
「クッソ…」
口でどんな言葉を言ったところで、サードニクスとの差は埋められなかった。
「情けない」
あのときと同じ、嘲笑を浮かべている。心底腹が立つが、今のオレに何かできる状況にはない。今まさに飛んでくる蹴りを避けることすら叶わない。
顔面に苦痛が走り、オレは屋上の上を転がって
「九竜…‼」
朦朧としている意識の中で、
答えたいのに、体が動かない。顔も胸もじんじんと熱を持って痛む。
「もう少し楽しみたかったが、生憎とこれ以上は時間を駆けられなくてな。悪いな」
足音が聞こえる。刻々と、オレたちを殺そうと歩みを進めている。
逃げることは、もう出来ない。
―どうすればいい?
頭の中を幾つもの考えが駆ける。
ふらつく足に力を込め、体を起き上がらせる。咳き込むと血が混じる。
「ほお?」と立ち上がったオレの姿を見たサードニクスが感嘆の声を上げる。
「逃げて…ください」
最後の言葉を吐き出すように、
「出来るわけ…ないでしょ⁉」
オレの言葉に反発するように橙木は立ち上がろうとする。それでも、オレと同等かそれ以上にボロボロの体はまともに戦えるような状態ではない。
「絶対に…こんなところでぇ‼」
目の端で捉えた姿は、凄まじい執念を感じらせる。
「まるで鬼だな」
壮絶極まる姿を見せる橙木にサードニクスは冷たく一瞥くれる。
血走った目、剥き出しになっている歯頚、傷だらけで埃まみれの姿は確かに彼の言う通りだろう。
「じゃあな!!」
サードニクスがレイピアでオレたちを殺そうとしたところで、後ろに下がった。
直後、床に幾本の針が突き刺さって、小柄な
「エンドロールは、もう少し先」
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