第8話 闇夜7(外側)

 揺れる端末に「弦巻葵つるまきあおい」と名前が表示されている。忌々しい名前よりはまだマシだと思いながら上梨令うえなしれいは電話に出る。間髪入れずに「もしもし」と声が続く。


「何か用か?」と包丁を動かす手を止めずに答える。


「明日、預けたい人間がいるんだけど…」


 特に用がなければこの女が電話を入れることはない。いつものことであるため特に言及せずに会話を続ける。


「急だな。今までもこのようなことはあったが、それでも1日は猶予を設けていたはずだ」


 コンロの火を消して鍋の中に入れていたタコをまな板に乗せ、本体と足を切り離して薄くスライスしていく。


「何か予定が入ってる?」


「いいや。引き受けよう」


 肯定の言葉を返して話を続ける。


「ただ、そこまで焦る理由ははっきりさせておきたい」


「吸血鬼が大挙して攻めて来る可能性が高まってね。可能な限り戦力を整えておこうと」


 既に質問された内容だったのか返答はすぐに飛んできた。


「そうか。確かに用心しなければならんな」


 タコを皿に乗せ終わると焼酎を床下から引っ張り出す。


「期間は?」


「1週間で結構だよ。あとはアタシたちでやるから。やり方はそっちに任せるよ」


「了解した」


 上梨が返事をすると葵からの電話は切れた。

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