第十二話 ハズレスキル? 知りません! 進化しましたから!

 あれから数日。燕蜂のみんなはしっかりと働いてくれている。どうやら、もう長肢蜂のみんなとも仲良くなったみたい。


 特に、彼らは巣作りが上手いのだ。というか、大規模な巣を作ることに特化している。


 私たち迷宮蜂は勝手に穴を掘ってハチミツを集めるし、長肢蜂はシャワーヘッドみたいな形の巣しか作れないから、どうしても規模は小さくなる。


 その点、燕蜂の巣はとても大きい。地球のスズメバチより二回り以上は大きいのだ。


 彼女たちが持つ巣作りの技術は確かで、長肢蜂の巣もお願いしている。もし『強制受精』のスキルを持つ長肢蜂のオスが見つかったら、あそこは長肢蜂のベイビーで溢れかえるはずだ。


 同様に、すでに燕蜂の育成所予定地も確保してある。燕蜂は数が多いから、迷宮のトラップとして本当に優秀なんだ。


 それに、彼女たちは飛ぶのが速い。それこそ、長肢蜂の移動能力トップだったエイリーンちゃんよりも速い。だから、彼女には申し訳ないけど伝令役は交代してもらった。それに……。


「よろしくお願いします、レジーナさま! ボクはサガーラ。まだまだ若輩者ですが、精一杯がんばります!」


【種族:燕蜂 Lv20:ランクD 階級:働き蜂 サガーラ】

通常スキル:加速

      超回避

ファミリースキル:毒創造

         感覚譲渡

         共通言語


 ……私好みのボクっ娘なのだ! ボクっ娘! ああボクっ娘!

 前世ではついぞ縁がなかったけど、ようやく私は本物のボクっ娘に出会うことができた!


 ステータスは最初期のエイニーちゃんと大して変わらない。でも緊急離脱用のスキルは持ってるし、何よりスピードはトップクラスだ。


 そしてかわいい!


「レジーナ様。ワタクシからもどうぞ、この娘をよろしくお願いします。サガーラも、粗相のないように」


 ちなみに、元燕蜂女王の側近だったクオンさんは、働く場所がないので私のそば仕えとした。


 まあ、正直シャルルがいれば十分なんだけど。この人はシャルルよりも知識が豊富なようだし、何より燕蜂のみんなに信頼されている。そんな人物を下手に扱うことはできない。


【種族:燕蜂 Lv40:ランクC 階級:指揮官 クオン】

通常スキル:加速

      筋力強化

      変身

      解析

      隠蔽

固有スキル:巣強化

ファミリースキル;共通言語 Lv2


 私はふと、彼と目を合わせステータスを確認する。『隠蔽』のスキルを持っているクオンさんだけど、私にはステータスを公開していた。


(う~ん、やっぱり。シャルルほどじゃないけど、この人も結構強い。ランクCだし。それに階級が指揮官になってる。シャルルは戦士だった。この人には、むしろ側近というポジションが合っているのかもしれない)


「あ、そういえば! クオンさんは『変身』のスキルを持ってるんだよね。この迷宮では、『変身』を持ってる人は人間の姿になるというルールがあるのだよ! 私の趣味でね!」


 私の言葉に、クオンさんは微妙な表情だ。しかし、このルールには従ってもらう。何せ、この迷宮は人間に変身しても大丈夫なように、わざわざでっかく作ったのだから!


「わ、わかりました。女王様のご命令とあれば」


 渋々、といった様子で、クオンさんは『変身』を使う。


 燕蜂の数十倍の大きさ。そこに現れたのは、やはり現役を引退して数年経った、歴戦を思わせる細身の戦士であった。


 シャルルのように筋肉質ではなく、むしろシャープさに重点を置いたスタイル。艶の抜けた黒髪に鋭い眼光は、むしろ彼のスマートな強さを際立たせている。


 ……前髪の赤メッシュは少し年齢に合っていない気がするけど。たぶん、燕蜂の赤い模様を反映しているのかな。


 正直言ってたまらん。恋人にしたいとは思わないけど、こういうイケおじは傍に置いておきたい!


(でも、女王蜂の側近がギャップ萌えDQNに引退イケおじってどうなのよ。逆ハーレムの絵面としてはゼロ点じゃない?)


「……話は終わったか、レジーナ」


 と、私が贅沢な悩みと妄想を脳内で繰り広げていたら、私の側近No.1が話しかけてきた。


「どしたのシャルル」


「どしたの、じゃないわ! もうLv12なんだから、予定通り『Queen Bee』の『経験値再分配』を使って手っ取り早く進化しろって言いに来たんだ。燕蜂が152匹もいるんだから、全員からレベルを1ずつ貰えばもうLv164だぞ」


 うわ! そうじゃん!


(どっひゃ~、女王蜂って恐ろしいね。巣が100匹規模になったら、もうLv100超えられるんだ。いや、進化条件がキツイから均衡は取れてるんだろうけど)


 私の場合『アストラの承認』を持ってるからなぁ。めっちゃズルじゃん。

 ちまちまレベル上げするより、仲間増やした方がレベル上がるし。


 って、そう考えたらやっぱり『レベルアップブースト』はハズレスキルか。


「それに、配下を人間の身体にして遊ぶのも楽しいだろうが、そろそろ自分が人間の姿になりたいとは思わないか? ランクCに昇格したら、無条件で『変身』『解析』『隠蔽』を獲得できるんだぞ」


「おお! それを忘れていたよ! じゃあ今すぐやろう。サガーラちゃん、早速お仕事だよ。みんなに私が『経験値再分配』を使うってこと伝えてくれる? たぶん、そろそろ一回帰ってくる時間だと思うんだよ」


 太陽が頂点に上って世界樹が活性化し、草花が青々と輝くこの時間帯。本当なら花畑で採集に力を入れるべきだろうけど、そろそろワイバーンがこの周辺を訪れる。世界樹の中なら安心だし、みんな一回帰ってくるはずだ。


「わかりました! ボク、頑張ります!」


 そう言って、サガーラちゃんは『加速』を使い飛び立っていった。本当に速い。Lv90になったエイニーちゃんにも及びそうなほどだよ。


「あぁ、サガーラちゃん。本当にかわいいなぁ。早くあの娘も、人間に変身できるようにならないかなぁ」


「そんなことよりまず自分のこと! ホラ、みんなが帰ってくるまでに準備する!」


 ……なんか、最近シャルルがお母さんみたいになってきた。ま、別に良いけど。

 私は最奥の間中央に移動し、スキルの準備をして待つ。





 それから数分後、サガーラちゃんは猛スピードで帰ってきた。

 どうやらみんな、私の予想通り戻っていたみたい。今は入り口付近の巣予定地で休みつつ、採集してきたものを確認しているらしい。


「それじゃあ行くよ。『Queen Bee』、『経験値再分配』発動!」


 瞬間、私の頭の中に眷属全員の情報が流れ込んでくる。一人当たり一コンマにも満たない時間。ステータスをはじめとしたその子のすべてが、私にはわかる。見える。


 前回は焦っていて気付かなかったけど、『経験値再分配』ってこんな風になってるんだ。


 それから私は、また一人ずつ巡って辿って、それぞれからレベルを1ずつ抜いていく。


 例外は二人。進化済みのシャルルとクオンさんだ。彼らには戦力としての役割がある。


 すべての眷属を確認し終えた後、私の身体に膨大なエネルギーが流れ込んでくる。それはちょうど、『サテライトキャノン』で世界樹の力を吸いだしたときに似ていた。


 そしてまた、力が一定量を超えるごとに、私の身体が変質していくのを感じる。

 おそらくはこれが、進化というものなのだろう。


 外見上はさほど変わらない。しかし、決定的に生物としての『格』が変わる。

 それが三回、私には訪れた。そして……!


【種族:迷宮蜂 Lv182:ランクA 階級:女王蜂 レジーナ】

通常スキル:レベルアップブースト

      超加速

      変身

      解析

      隠蔽

      筋力強化

      視覚強化

      毒完全耐性

固有スキル:クリエイトダンジョン Lv4

      Queen Bee Lv4 

      アストラの承認(済)

      誘惑

      要塞強化

      巣強化

      迷宮強化

      限界突破

      処理能力拡張

      世界樹の支配者

ファミリースキル:毒創造

         毒強化

         感覚共有

         共通言語


 目が覚めた時、そこは別世界だった。色が増えている。今までの視界よりももっと鮮やかに、そして多彩に、この世界は広がっている。


 それに、目が増えている。私のではなく、今まで集中してやっとだった感覚譲渡の疑似視覚に、私は何の苦労もなく入り込めている。そしてまた、自分の視覚も保ったまま、制御できている!


 Lv1のころとは、本当の意味で別の世界に来た。ひとつ上のステージに、いや、三つも上のステージに上った!


「おはようレジーナ。進化しても、君は本当に美しいな」


 そしてまた、進化したての目で見たシャルルは、今までで一番色男に見えた。

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