第5夜 エンドナイトセカンド

 ゆっくりと瞼を開けると、全体が木の根で包まれた空間に立っていた。

 全体的に光が届いて無いのか暗く、中心に輝く、名前通りの宝石が自ら光り輝いて空間を灯す。

 それは本当に、自分の背丈より少し小さいダイヤ型の宝石。あれこそがダイヤ型の主核ワールドコアなのだと、目ではなく肌で感じる。


「……質問、ここは夢見ワールドですか?」

「は、はい。ここが場所ですよ」

「了解しました。疑問の解消を確認、ではもう一つ確認します」


 導き型AI・ドールは後ろでもじもじとしている人型の案内者ゲートの方へ振り返り、右手で1を表す。

 現在外はどうなっているか、というものだ。

 あの時、依代から消える前に技術の神様・ノウレックスはあるものを召喚していた。

 それは、最終兵器0360……呼び方は「クラシックワン」


 人類。そして他の種族共同で開発された、危険度:測定不能マックスハザードからの怯えより作られた恐ろしき兵器。

 歴史的に見ても長く、この世界の年齢の半分ぐらいだ。

 そしてその中で最初期とされ、そしてその最初期の個体として未だに前線を保てる破壊力を持つ。

 最恐の最終兵器、最終兵器0360クラシックワン


に、この世界を壊す破壊力は持っていません。しかし、この世界はとても不安定であり歪んでいる。先程まで歩いていた森林や草原ぐらい、火の海にすることなぞ簡単ですが?」

「……ご心配無く、確かにこの世界は不安定ですが偉大なる大地ファイブアースから生物が消えない限り消滅の可能性はありませんよ」


 人型の案内者ゲートの男の子の声のトーンが、数オクターブ下がる。

 別人のような、老人のような。

 彼らが真の姿を現したような、そんなものが出て来た。


 しかし、今の導き型AI・ドールにとって些細な出来事に過ぎない。

 もしもここに人類の誰かがいたら、腰を抜かし今すぐ土下座だの謝罪だの祈りだのをする場面だろうが。

 


「確認。ではもう一つの質問を行います」

「なんだね?」

AIは呼ばれた存在でしょうか? 夢見ワールドに来たこと無い、なのに今この場で立っている。言い方を変えれば、夢を見れないというのが危険度:測定不能ハザードマックスの特徴だったはずですが?」


 ピクリと人型の案内者ゲートの手が動く。

 あぁそう言う事なんだと、死んだ魚よりも深く、希望の光すらも感じない瞳で察する。

 導き型AI・ドールは、どこまで行っても無慈悲だ。




 




「本来の目的が隠れてましてよ? 夢見ワールドの住民さん?」


 導き型AI・ドールが指で指したのは、技術の神様・ノウレックスが依代としていた存在だった。

 今も気を失っているのか、それとも生命エネルギーを絞り取られたのか微塵も動かない。

 バレたのが悪かったのか、人型の案内者ゲートの顔色が暗くなる。

 それに連動するように、ダイヤ型の主核ワールドコアが更に強く輝く。その水色に飲み込まれそうになる導き型AI・ドールが着ている水色のワンピース、それを許さないように白色のフリルがよく付いているエプロンが、空中で舞いながらワンピースを抑える。


「元々は3匹の夢獣むじゅうで倒そうとした、しかし洗脳といった効果が効か無いことを確認」


 それは、誰かが考えた作戦。


「誤算したことが判明し、全員一斉に攻撃する作戦に変えた」


 しかし、リーダーの消失によりまとまれなかった集合。答えを分かりきっていながらも、意思を継ぐ為に行動する。


「結果、を除いた全員の死を確認。遺骨の代わりである灰は、ノウレックスに回収されてしまい墓を作る予定も不可能に。AIを恐れ過ぎたことが戦犯だと、分析します」


 そんな意思ですら、蟻を潰すような感覚で壊す。

 危険度:測定不能ハザードマックスの中ではに属しているとしても、

 生物全体で見てみれば、の1人なのだ。

 何百万種類も確認され、その一つ一つが何百匹もいる生物。。桁も世界も違い過ぎる。


「……AIをこちらの世界で完全に崩壊させ、現世での活動を停止化。作戦自体は英雄賞えいゆうしょうを貰える程と推定。相手が悪かったのを除けば、このAIが評価する程です」


 一見褒めちぎっている様に見えるが、所詮は勝者の戯言ざれごとだ。

 それに、まだ改善点すら教えてくれない。教師としてみれば、赤点級の回答。


(やはり、かれに依頼するのは間違いだったか……)


 夢見ワールドのぬしは、異なる肉体の奥底で小さく反省する。

 意思も、脳ですら持たない主が。


「はいはい、私達も降参しますよ。両手を上げて降参する人型の案内者ゲートなんて2度と見れませんよ。まったく、『危険度:測定不能ハザードマックスが歩けば世界が変わる』なんて言い伝えは正しいかったのですね」

「両手を上げた所で、人型の案内者ゲートの役割もダイヤ型の主核ワールドコアの役割も消えたという証明ではありません。……厄介ごとは最もマイナスを生みます。ダイヤ型の主核ワールドコアに触れれば元の世界に戻れるのでしょうか?」


 白兎のカチューシャを揺らしながら、導き型AI・ドールは木の根で埋め尽くされた地面を歩いていく。

 あまりにもの眩しさを放つダイヤ型の主核ワールドコアでさえも、希望も光も何も感じない瞳には真っ暗な背景と同じように見る。

 

 そして、ゆっくりと白く美しいとされる手を伸ばし……


「再度確認します。これで元の世界に戻り、夢見ワールドの崩壊が始まる。間違いは無いでしょうか?」

「心配無く、確かにこの世界は不安定ですが偉大なる大地ファイブアースから生物が消えない限り消滅の可能性はありませんよ」


 あっけらん返事が返ってきた、しかもさっきと一字一句変えずに。

 疑問が残りつつ(大抵の呪いは通用しないので、ある程度の安心はあるが)空中に浮く、立体的なダイヤ型の宝石に手を伸ばす。


 触れた瞬間、瞬く間に大量の光の線が頭に入って来る。

 さっきまで宝石が出していた光で視界が覆われると、今度は地面に立っていた感覚が消え去る。

 ごぉっとワープする時よりも、激しい轟音が導き型AI・ドールの耳を奪う。

 そしてそこから、少しずつ、触覚、味覚、嗅覚、聴覚……そして遂に視覚までも奪われる。


(あぁ、これが死ぬ感覚なんだな)


 どこか懐かしいと感じる、故郷の匂いに似た何かをゆっくりと感じていると……









 プツリと、糸が切れる感覚が全身を走る。












「……あ、起きれたんだ」


 目を覚まして場所は、軽くて茶色の土が常に舞う……場所の名前は忘れた。

 寝ていたのか、体は地面の上で横になっていた。

 両手を地面に付けて、なんとか体を持ち上げる。多分夢見ワールドに行く前にいた場所であろう街を見回す。

 勿論、人影一つ。そこら辺にいる虫、トカゲの姿すら見えない。


「起床を確認……五感も戻ってきたのを確認。っ?!」


 1歩進んだ時だった。

 一瞬、体全体の信号が切れた感覚に襲われる。

 寝すぎたから? しかし、そう何日も寝ていなかったはず。そう思い、フリルのついたエプロンのポケットの中に入れている懐中電灯を取り出す。


 そこにはきちんと16日と表示されていた。

 最後に見た11日から数えて、綺麗に5日目。

 

 夢見ワールドに長時間いた感覚なんてものは無く、本当に1夜すら過ごしていない。そう思っていたはずなのに。


(くっ!? 肉体が徐々に……連れていかれる!)


 その後、導かれた最適解ルート・アリスを解放させてその場を凌ぐ。

 やはり、


「……最後の最後で、作戦負けです。か」


 ここで、夢見ワールドの住民。

 危険度:測定不能ハザードマックス以外の生物が、勝った瞬間であった。

 勿論、これからも続く


 血を吐き続けるマラソンだが。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る