第12話 「……抱きしめたい」「マギヤって、しょっちゅうそうよね……」
マギヤがヴィーシニャを押し倒した件の謝罪を終えて、ヴィーシニャの部屋も遠ざかった頃、マギヤは同行してくれたトロイノイを引き止め、抱きしめたいと懇願する。
……マギヤがなんとなく、その抱き心地に心もとなさを感じていると、トロイノイがこう聞いてきた。
「マギヤ、あたしといて苦しくない?」
マギヤが疑問混じりに、いいえと答えると、トロイノイはマギヤに抱きつかれてる隙間から手を伸ばして、マギヤの顔を自分に向かせ「……あたしに嘘ついてない?」と尋ねる。
「……トロイノイの素晴らしさや尊さでクラクラしたり興奮しすぎたりはしますけど、結論苦しくないの『いいえ』です。嘘じゃありません」
マギヤはそう笑って答えて見せるも、トロイノイがしっかり見てるのにすぐ笑みが消える。
「…………わか」
「れませんよ、絶対に」
トロイノイがマギヤの顔から手を下ろし、別れを告げようとしたら、マギヤはトロイノイが下ろす両手首を掴み、いつになく目をカッ開いて拒絶する。
「……トロイノイ、私は会議室から出る前、眠ってる貴方に欲情して、寝込みを襲おうとしたら、貴方が起きたので誤魔化しました」
トロイノイがマギヤの告白に「……やっぱり?」と応えたら、マギヤは間髪入れずにさらに続ける。
「それと私、絶対トロイノイより後に死ぬって決めてるんですけど、その理由がずばり、私が死んだら、貴方があの人の娘だと警察組織にバレて死刑になる呪いを、己にかけてるからという最低な理由なんです。
あと、これだけは墓まで持っていこうと思ってましたが、言わせてください。私はヴィーシニャさんと二人きりになるのを禁止されてたにも関わらず、止めた時の中で何度も、動けないヴィーシニャさんを強姦しました。
避妊等にはとことん気をつけてたので、ヴィーシニャさんに肉体的な大事は無いです――あってたまるかとも言いますが。
己の欲情のまま淫蕩に耽ったことについて、大いに反省はしてますが後悔は全く無いです。
ヴィーシニャさんや、何をしても無反応なほど眠ってるウリッツァを犯してると妙な安心感を覚えるんです。
母に何を言っても無視され拒絶された時期、寝てる母のそばに潜り込んでた影響からでしょうか。
あとそれから――」
あまりの情報量及びインパクトからトロイノイは思わず「待って!?」と叫ぶ。
「え、待って、いきなり何?」
「もう貴方に、嘘や隠し事は出来ない、したくないと思ったら、自然と多量に出てました」
「全部本当なの……?」
「もちろん。それに、まだ途中なんですが、続けても?」
「……いっぱいあるようなら今度でもいい? もうすぐ夕飯だし、地味に手首が痛いし」
漢字混じりで四百字手前、短めに見積もっても一分以上、トロイノイの手首を握りぱなしだったマギヤは、トロイノイに言われて、左手で握ってたトロイノイの右手首を解放しながら「それもそうですね」と返事し、トロイノイの左手の親指と小指以外を握りしめ、
「次のデートまでに、己の罪を洗い出し、数えておきます」と言って、手首にキスする。
その後、恋人繋ぎにして食堂へ歩き出す。
夕飯時、ウリッツァ班の四人が集まっている。
「……というわけで、お騒がせしてすみませんでした」
マギヤのウリッツァとプリストラに対する謝罪への返答は、一言で言うと「そんな気はしてた」であった。
「い、いつから疑って?」というマギヤの質問に、まずプリストラが答えた。
「僕は倒れたマギヤが起きてすぐから。僕がマギヤとトロイノイの関係を言おうとしたら遮られてね……。
それでその夜、ウリッツァと二人で話して、お互いが把握してないマギヤと女子に関することを、マギヤが話したら袖をつかむように決めてね」
「で……本当に言ってきて、今だな……」
「……あのときのあれは、ある種の誘導尋問だったと? ……ウリッツァのくせに、ひどいです」
誘導尋問という言葉に、そんなつもりは……と複雑そうな顔をするウリッツァをよそに、プリストラは、お互い様でしょ、となじった。
そんな会話から二週間ほど経ち、今日はマギヤとトロイノイがデートする日。
……なのだが、聖女邸の門を出てそう経たない内に、マギヤがトロイノイを抱き寄せて、そのまま動かなくなってしまっている。
トロイノイが「マギヤ? ねえちょっと、どうかしたの?」などと呼びかけるが、抱く力が強くなったり息を吸ったり吐いたり以外の反応が無い。
……ようやくマギヤが少し離れて、トロイノイをぼんやりした目で眺めたかと思うと、トロイノイの後頭部に手を添え、髪にキスし、「……ごめんなさい、行きましょうか」とトロイノイの手を握って歩き出す。
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