第8話 二人の道程①
その昔……
とはいえ、今からおよそ20年程前の話になる。
とある教会の一角にある孤児院でノアとリアムは育った。
優しいシスターと司祭がいるこの場所には数人の孤児達がいて、貧しいながらも女神エルピスを崇める村の人びとからの献金によって、慎ましく穏やかに暮らしていた。
しかし、日照りによる飢饉がこの地方を襲い、村人達も自分の生活に手一杯となり、教会に献金する事が出来なくなっていく。瞬く間に教会の運営は立ち行かなくなり、仕方なく孤児達を別の村や街にある孤児院に転院させるしかなくなった時の事。ノアを求めてある貴族が教会に訪ねてきた。
ノアはその時8歳で、生まれて間もなく教会に捨て置かれていた女の子だった。
そしてリアムは物心つく前に教会に預けられ、親が迎えに来なくなった孤児であり、ノアより一つ年上の男の子だった。
二人は兄妹のように、それ以上に支え合い仲睦まじく生活していた。
そして起こった飢饉により、二人は別々の孤児院に預けられる事になっていたのだが、そこにノアを求めてやって来た貴族により、二人は別れる事なく二人してその貴族の邸に連れて行かれる事になったのだ。
連れて行かれた先はカタラーニ男爵家の邸。二人を連れ帰ったのは、カタラーニ男爵家当主だった。
男爵家が所有する領地にあった教会の孤児院にノアとリアムはいて、8歳の時に誰もが受ける神託の儀でノアに特別な加護があると知ったカタラーニ男爵は、ノアを雇うという名目で引き取ることにした。
そしてリアムも雇うとしたが、実はフィグネリアの遊び道具として引き取ったのだ。
生まれた頃より唯一人の可愛く美しい娘の残虐性を知っていた父親だが、それを諌める事も咎める事もなく、フィグネリアの思うようにやりたいように自由にさせていた。
とにかくフィグネリアの機嫌を損ねる事を一番に嫌がった父親は、常に娘の笑顔を守ることだけを考えていたのだ。
そうしてカタラーニ男爵家にやって来たノアとリアム。二人はここで思いもよらない目に合うこととなった。
ノアの加護は、膨大な魔法量に類稀なる希少な能力があるという事と、そしてその力を他人に譲渡する事ができるというものだった。
正に女神エルピスの愛し子と思われる程の能力。しかし教会の司祭やシスター達は、その力に頼ることなくノアを普通の子として扱った。この力を知られれば、ノアは普通の生活をおくれなくなるかも知れないと理解していたからだ。
そうしてノアが知らぬところで大人達に守られていたのだったが、孤児院が立ち行かなくなり司祭が領主である男爵家に転院の相談をし、子供達の個人情報を書面で提出したのが事の始まりだった。
それでも最初はノアとリアムが一緒に引き取られた事に二人は感謝していた。自分達を引き取ってくれたカタラーニ男爵家に尽くそうと、邸に向かう馬車の中で二人は手を握りながら言い合ったものだった。
たどり着いた邸を見て二人は驚いた。こんな大きな邸に住めて働ける事が嬉しくもあり、誇りにも思えたからだ。
これから始まる生活に胸を躍らせながら、ノアとリアムは希望に満ちた顔で邸へと入っていった。
しかしそこは想像していた生活とは異なっていた。
毎朝ノアはパンと水のようなスープという質素な食事の後、フィグネリアの部屋へと向かう。そこでフィグネリアに自分の魔力を譲渡する為だ。
この世界は誰もが魔力を持っているとされている。その魔力量には個人差があるが、平民よりも貴族が多いとされ、下位貴族よりも上位貴族が、上位貴族よりも王族が多いと言われている。
類稀に平民であっても魔力量が多く生まれてくる時もあるが、それが知られると貴族が養子へと迎え入れる事が殆どだ。
そうして家門の魔力量を維持、もしくは向上させて貴族は家の発展を目指していく。それが常識となっていたのだが、ノアは養子とされていなかった。それはノアの能力が他人に譲渡できるからであり、カタラーニ男爵はその力をフィグネリアに与えたかったのだ。
フィグネリアはこれ幸いと、ノアから多量の魔力を要求する。なぜならフィグネリアには魔力が殆ど無かったからだ。
「さぁ、早く私に全ての魔力を与えなさい」
「フィグネリアお嬢様、全ての魔力を与えてしまうと私は身動きがとれなくなってしまいます。少し魔力を残させて頂けませんか?」
「お前がどうなろうとわたくしには関係ないのよ! つべこべ言わずに言われた通りにしなさい!」
そう言うとフィグネリアはノアの腹に蹴りを入れた。それを受けてノアは自身を庇うことも出来ずに壁に打ち付けられる。
「す、全ての魔力をお渡しすると……何日か動けなくなって……魔力をお渡しするのも滞ってしまいます……!」
「ふん。仕方ないわね。ならそうならない位の最大限の魔力を渡すのよ」
「かしこまり……ました……」
そうやってノアは毎日、フィグネリアに魔力を与え続けたのだ。
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