第25話 宴だァ!!!(ドン!!)

 僕には趣味と呼べる程好きなことはあまりない。

 嫌いな事は沢山あっても、胸を張って好きだと言えるものは殆どないような、つまらない人間だ。

 そんな僕でもこれは胸を張って好きだと言える。

 そう、帰宅だ。

 文化祭が終わり、クラスの皆は打ち上げだとかで何処かへ行ってしまった。

 誘われなかった悲しきボッチは、一人家に帰ることになるのだ。


 やっほう! 家だー!

 今日は本当に疲れたよ。

 メイド喫茶のメイドさんでも、一日であんなに写真を撮ることはないと思う。

 高校を卒業したらメイド喫茶で働こうかな……。

 文化祭で写真撮影1回で2000円でやってました、というのは大きなアピールポイントとなるだろう。

 性別の問題さえクリアしてもらえれば、戦力になることは間違いない。

 即戦力として採用して頂いて構いません。

 そんな、やりもしない未来について妄想しながら入浴を済ませる。

 疲れている時の浴室は下らないことを考えがちだ。


 浴室から出ると、あれだけ疲れていたのに体が元気になっている事に気づく。

 もう何もしたくないくらい疲れていたのに、明日が休みだと分かると何処からか元気が湧いてくるのは本当に不思議だ。

 文化祭は土曜日の今日行われたので明日は休み、月曜日は片付けをしたら終わりという日程となっている。

 折角元気になったので、僕も一人で打ち上げを行なうとしよう。

 宅配ピザを頼んで、話題になったあのアニメ映画を見ることを、今回の打ち上げとする。

 状況開始!


 注文を済ませてピザが届くのを待つ。

 テレビでアニメ映画を見ていると、スマホが震えて机をガーガーと揺らす。

 また渚か? こいつピザを頼むと毎回メッセージ送ってくるな、と思いながらスマホを開くと、芦塚さんからのメッセージだった。


『あなた何処にいるの? 大丈夫?』


 芦塚さんは、文化祭の後に僕がちゃんと帰れたのかが心配なのだろう。

 もう、心配性なんだから……。

 彼女は僕が電車に乗るのも嫌がりそう。

 まるでか弱い女の子みたいで、なんだか嬉しくないの。


『家だよ! ちゃんと帰れたから安心して!』


 よし、これで良いだろう。

 芦塚さんは打ち上げの会場でも、僕の事を忘れないでくれたのか……。



 その後ピザも届き、食べ終わる頃には映画も終盤に差し掛かっていた。

 この映画、正直あんまり面白くないな……。

 映像が綺麗なのはいいんだけど、『ほら、こういうのが好きなんだろ?』という監督の考えが骨格までスケスケである。

 内容も自業自得としか思えないもので、どうしてこんなに流行ったのかが今ひとつ理解できない。

 流行り物が自分にはハマらなかった時って、自分の感性が世間とはズレていると痛感するから怖いよね。

 映画から意識が離れて思い出したけど、芦塚さんからの返信はなかったな。

 打ち上げを楽しんでいるようで何よりだ。


 映画が終わった。

 いやぁ、正直微妙でしたね……。

 ここまで来たら今日は、つまらないアニメ鑑賞の日にしよう。

 まずは、抵抗があって見れなかった悪徳令嬢に転生するアニメを見てみよう。

 当たり前の事をやるだけで男が寄ってくるという点には共感できる部分もあるので、今ならば見れるかもしれない。

 僕も悪徳令嬢に転生したら、きっとイケメン達にモテモテだろう。

 ……あれ、あんまり今と変わってない?

 いや、イケメンにモテモテって程ではないか。

 現に高御堂君から告白されたということもないし。

 でももし転生するなら、芦塚さんにモテモテな世界に生まれ変わりたいなぁ。

 下らないことを考えながら1話目を見ていると、またしてもスマホが震え、メッセージの着信を教えてくれる。


『わたし真理さん。今、あなたの家の前に居るの』


 マリーさんからの連絡だった。

 嘘でしょ?

 急いで玄関に向かって除き穴を見てみると、本当に芦塚さんと高御堂君が居るではないか。


「え? どうしたの?」


 鍵を開けて二人に要件を伺う。


「どうしたのじゃないわよ。あなた、どうして打ち上げに来なかったの?」

「だって誘われてないし……」

「はぁ……。取り敢えず、一旦上がってもいいかしら?」

「ど、どうぞ」


 芦塚さんは手をこめかみに当ててため息をついてしまった。

 高御堂君も一緒に居るのは、打ち上げに参加できなかった僕に気を使ってくれたのだろうか。

 嬉しいと思わなくもないが、同時に申し訳なさもすごい。

 僕なんかに構わずクラスメイトと交流してくれてもよかったのに。

 感謝の念と罪悪感を感じつつも二人を家に迎え入れる。

 何はともあれ、まずは要件を聞くことにしよう。


「それで、二人共どうしたの? 僕、何か忘れ物でもしたっけ?」


 二人に座って貰った後の、僕の第一声に、二人は真顔になってしまった。


「お前、本気で言っているのか?」

「あなたは本当に……。あなたが打ち上げに来なかったから、私達も逃げてきたのよ」

「逃げてきたってどういうこと? 折角誘ってもらってたのに」

「お前が来ていないと皆が気づいた時は、本当に悲惨だったぞ。今回の出し物で一番活躍したお前が居ないのに、これはなんの為の打ち上げなんだと全員キレかけていたぞ?」


 こっわ。

 皆も頑張ってたじゃん!

 特に丸山さんとか。

 彼女が居るんだからいいじゃない!


「あなたが家に居ると言った時、流石の私も少しイラッとしたわ。あなたに怒りを覚えたのは、今回が初めてよ」

「ご、ごめんなさい……」

「全く……。それからがもっと酷いのよ。あなたが家に帰ったと伝えたら、皆はそれを受け入れられなかったみたいなの。そうしたら、クラスの人達はあなたもその場に居ると思い込むようになったのよ。あれは本当に怖かったわ」

「どういうこと?」

「あの打ち上げは架空のお前を労う会になったんだ。そこには居ない西河に話しかけるクラスメイト達は、本当に狂気じみていたぞ。今は先生の引率の元、二次会でカラオケに行くと言っていたな。架空のお前もカラオケに行ったらしい」

「えぇ……」


 オンラインで飲み会をするとかじゃなくて、ついには架空の人間と話せるようになったのか。

 人類の進歩は凄いなぁ……。


「そんな空間に長居できる訳ないでしょ? それで、そんな原因を作ったあなたに仕返しをしに来たの」

「えっ、これ僕のせいなの?」

「当たり前じゃない。あなたが来れば普通に食事をして終わりだったのよ?」

「ああ。俺も来ていないとは思いもしなかったぞ。今日は覚悟してもらおうか」

「何をさせられるんでしょうか……?」


 高御堂君は怒っているというよりも、呆れている様子だ。

 いやらしいこと以外でお願いします……。

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