幼馴染とVtuberを始めたんですが、初手配信で大バズしてしまいました。――わあ。登録者が鰻登りだ(白目)

皐月陽龍 「他校の氷姫」2巻電撃文庫 1

第1章 幼馴染とVtuberになってみたら大バズした

第1話 頭のネジが外れたド変態幼馴染(神絵師)にVtuberにされてしまった

 いきなりだが。俺はごく普通な高校生である。誰がなんと言おうと普通の高校生である。


「普通の高校生には私みたいな美少女は寄り付かないと思うけど?」

「モノローグに突っ込むな。今から盛大な物語が始まろうとしてるんだよ。俺の中で」


 とにかく。俺、白水海流はくすいかいりは普通の高校生だ。しかし、俺の隣にいるこいつは別だ。


 烏の濡れ羽色、と形容すれば良いだろうか。真っ黒で艶やかな髪は肩にかかる程度に伸ばされている。


 瞳も同様に、吸い込まれるような黒さだ。その顔立ちは整っている。可愛いというより綺麗系の顔立ちだ。



 雨神瑠乃あめがみるの。俺の幼い頃からの幼馴染であり、親友みたいなものだ。


「ふーん。親友なんだ。ふーん」

「………………親友だ」

「ヘタレ」

「うっさい」


 そして。こいつはめちゃくちゃ可愛い。週二とか週三で告白されるぐらいには。


 しかし……そのどれもを断っている。理由は――


「それは別に良いんだけどさ。いつになったら子供つく――こほん。付き合ってくれるの?」

「今色々と順序飛ばさなかった? ねえ?」


 俺だ。俺は絶賛瑠乃から告白を受けている。






 ――このド変態幼馴染から。





 ……まあ。断っている訳だが。


「でも。もうすぐの事だからね!」

「な、なあ。本気なのか? というか本当に作ってるのか?」


 彼女はイラストレーターである。しかも、SNSのフォロワーが三十万を超える神絵師だ。


「当たり前でしょ。だってそれが……子作、こほん。付き合う条件なんだし」

「大丈夫? 欲望が理性に先制攻撃してるけど。あと条件はそれだけじゃないんだが……」

「フォロワーが私と並ぶ、でしょ? ちゃんと覚えてるから」



 そう。なんやかんやがあって、付き合う条件としてSNSのフォロワーを並べる事……となった。なんで? と言われても。俺の方が聞きたい。どうしてこうなったんだ。


「それに……ち、ちゃんと覚えてるからね。付き合えた日にはフォロワーの数だけえっちするって事も」

「当たり前のように記憶を捏造するな。というか本気で殺す気か」

「い、いいじゃない! 毎日百回したとしても十年で終わるのよ!」

「擦り切れるわ。いや痛えな想像すると」

「ま、まあ! その話はまた今度しましょう!」

「なんでまだするつもりなんだよ……やだよ」

「え? しないの? 初めてはどっちが上に乗るかとか」

「男子校の会話かよ。いや男子校通った事ないんだが」


 そんな会話をした数日後。


「出来たわよ! ついでに配信告知もしておいたわよ!」


「仕事が早いなおい」


「寝ずにやったからね! さっきも授業中にやってたし!」


「熱量が尋常じゃないな。あと授業はちゃんと受けろ」



「あと初配信は私も参加するわね!」


「いやなんでだよ。……本当になんでだよ!?」


 瑠乃の言葉に思わず大きな声を出してしまった。学校だと言うのに。


「なんだなんだ? また痴話喧嘩やってんのか?」

「似て非なるものだ。土に帰れ我が親友ともよ」

「酷くない?」


 その会話に近寄ってきた親友を一言であしらい。俺は改めて瑠乃を見る。


「……え? まじで参加するの?」

「するよ?」

「自分が美少女神絵師なの知ってる?」

「そ、そんな……高校で孕ませたい女子ランキングNo1だなんて」

「言ってないから。まじで。どれ一つ合ってないから」

「もう、しょうがないな」

「おい待て。どこへつれて行く気だ」

「ど、どこって……言わせないでよ!」

「いやまじでどこに行く気だ」

「ら、ラブホ?」

「一回落ち着こうな。理性君頑張って。性欲を抑えるんだ」

「もう、海流ってば。私は正気だよ」

「まだ狂気であって欲しかったよ。正常が異常だよ」


 一つため息を吐いて。授業の準備を始める。



「そういえば配信はいつからなんだ?」

「え? 今日からだけど」

「行動力の鬼か? 俺のフットワークはヘリウムガスとでも思われてんのか?」

「でも暇でしょ?」

「暇だが」

「なら良いでしょ」


「……確かに。いや良くないが? 心の準備が出来てないが?」

「こ、こころのじゅんび……。わ、私はいつでも良いからね! 娘が結婚しても!」

「話がブラジルまで飛んでいってるぞ。せめて付き合うとかいつもみたいに子供作りたいであれよ。……それも良くねえな」

「こ、こども。作るなら準備してこよっか?」

「お前は周りを見るという事を覚えろ。教室だぞ」



 そう。ここは教室である。白昼堂々の犯行である。しかも目撃者多数。どうあがいても絶望である。


 俺の言葉に瑠乃はうう、と顔を赤くした。


「わ、私。初めては海流の部屋がいいなって。ここじゃちょっと、はずかしい」

「恥ずかしいのはお前の脳みそだよ」


 しかし、俺達のそんなやり取りももうクラスの連中は慣れたのか「ああ、またか」とでも言いたげにしている。すっっっごい不服なんだが? なんで俺まであたおか認定されないといけないんだ?


 そうして、俺の抵抗も虚しく。今日配信する事が決まったのだった。


 ◆◆◆


「え? これまじ? まじでやるの? 冗談じゃなく? 実は夢オチとかない?」

「ここが夢ならもう一緒にお墓に入って人生二週目の幼馴染してる所じゃない?」

「夢の中でも逃れられぬ運命なのか。そうか」


 瑠乃はそれは置いといて、と一つ咳払いをした。


「ちゃんと今日やるからね? ほら、一時間前の告知しないと」

「あ、ああ。……ってフォロワー多くないか? なんで?」

「え? 私が宣伝したからに決まってるでしょ? 一時間に六回くらい」

「何してくれてんの?」


 さも当たり前かのように。瑠乃はそう言った。


「というか。よくスパム判定食らわなかったな」

「警告は無視しました」

「良くない良くない」

「まあまあ。……それより、フォロワー。確認してみて」


 瑠乃は楽しそうにそう言った。言われて俺は自分のアカウントに視線を向ける。


 何故かフォロワーが三千を越していた。動画の方のチャンネル登録者に関してはもう一万近い。え?


「私も参加するって言ったからね」

「何してくれてんの??? パート2」


 瑠乃は神絵師である。ついでに言うと女子高生だという事も明かしている。なんなら美少女女子高生だと明かしている。自己肯定感の鬼かこいつは。自己肯定感の塊だったわこいつ。


 しかし、絵描き配信などはした事がない。つまり。


 俺の初配信ではなく。俺と瑠乃の初配信なのである。


 やべえ。炎上の臭いしかしねえ。


「だ、大丈夫なのか? もうオイルの臭いしかしないんだが」

「すんすん」

「俺の体臭じゃねえ。嗅ぐな」


「すんすんすんすんすんすんすんすん」

「ちょ、やめ! どこに顔突っ込んでんだ!」

「い、イカ臭くない……なんで!?」

「俺に理性があるからだよ! このむっつり狂気系ド変態ヒロインが!」


「む……じゃあこっち」

「やめろ! 脇は本当に良くないから! 男子高校生のそれは爆弾だから!」


 そうしていると。時間はすぐに過ぎていって。


 気がつけば配信時間となっていた。


「――あっ」

「すっごい今聞きたくない『あっ』が聞こえたんだが?」

「ちょっと機材トラブったかも」

「え? まじ?」

「まじ寄りのまじ」

「……まあ。それは仕方なくもないか」


 初配信だしトラブルは付き物だ。ただ、問題とするならその手に強い人が周辺に居ない事。


「ごめんなさい」

「別に謝る事ない。その辺待機してる人達に伝えてくるから。そっちは任せていいか?」

「うん、大丈夫。配信いつもやってる絵師さんに聞いてみる」


 俺は動画サイトのコメントとSNSのコメントで遅れる事を伝え。……というかみんな優しいな。


 見ると、瑠乃のアカウントでも遅れる旨が伝えられていた。


 そうして……三十分後。やっと配信が出来るようになったのだが。



 その初配信が『伝説の始まり』と呼ばれる事を誰が予測できただろうか。

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