第33話 ぼくたちはひとつ

 ギネス博士。ツバメの前の所有者であり、ニューリアンを開発した天才学者だったと聞いている。ただ、改めて調べたことはなかった。こんなところで繋がりができるなんて。運命ってやつなのかな。

 ひとつだけ確かなことがある……彼はもうこの世にいない、ということだ。おつうに伝えるのが、すごく苦しい。けれど真実を話そう、それが最善だと信じて。



「……おつう。君のいうとおりなんだ。ギネス博士は……君のお父さんは、病気で亡くなってる。俺たちがお墓をたてたんだ」

「ますたあが?」


 ゆっくりと頷いてみせ、以前ツバメの依頼を果たしたときのできごとを話した。おつうは静かに、熱心に聞き、遺体を見つけたことに感謝もしてくれた。俺たちはただ見つけただけなのに……ありがとう、とおつうは言ったのだ。

「やはりますたあは優しい人です。わたしの目は間違ってませんでした。あなたさえ望むなら、わたしはいつまでもますたあと共に」

「こっちこそ。おつうと会えてよかった、ありがとう」



 目……か。そういえばこの子、目が金色だ。ニューリアンかと思ったが、発明はおつうより後のはずだ。ネット記事によると……あった。日付は2280年の春。

『ニンジャコーポレーション、新生物ニューリアンを発表。今冬から販売開始。労働力は新時代へ』

 

 今年が2334年だから……54年前。ああ、アノヨロシとミナシノは第53期だから……なるほど、購入会が毎年12月に開催されて今にいたるってわけか。

 じゃあ、70年以上前から生きていたこの子はいったい?


「おつう、ニューリアンって言葉……知ってる?」

「申しわけありません。今、初めて聞きました」


 映像記録では『実験体』と呼ばれていた。バイオコンピュータが――。


「あっ!」


 頭に雷がおちた気分だった!

 バイオコンピュータのジョージ、どこかで見た顔だと思ったら!



「ジョージ・カーシュナー市長!」

「どうしたの、ご主人?」

「あのCGだよ! ちょっと若いけど、市長にそっくりなんだ!」



 なぜ似ているのかわからない。でも、すごく嫌な胸騒ぎがする。ネオ東京シティには、途方もない秘密が隠されているような……!



***



 アノヨロシのもとへ戻ると、データの復元にまだ時間がかかるらしい。キリのいいところで休憩をはさむようすすめた。流れ星……輸送船を追いかけてから、一晩があけていた。気絶していた俺はともかく、みんな徹夜したことになるからだ。



 そんなわけで、三人娘は寝室。俺はポツンとひとり、リビングでくつろぐ……のではなく、Vグラスで資料を読みふけっていた。実写ドラマの出演者たちのもの、市長の写真、そして復元した映像だ。

 Vグラスの機能をフルに使う。竜巻をえがくように指をくるくる回すと、たちまち顔写真の群れが巨大な柱になった。


「やっぱり似てるな……いや似すぎてる」


 どれも別人どうしのはずだ。でも……やっぱり。

 出演者たちの経歴をあらってみたが、それぞれの接点は見つからなかった。記録のかぎり、血のつながりはゼロだ。



『そっくりな顔の数十人の男たちが、全員親戚ではない赤の他人』


 不自然。ありえないだろう?

 さらに70年以上まえのバイオコンピュータ……これまた名前が市長と同じ『ジョージ』。しかも顔が似ているときた。



 ぶっ飛んだ想像だけど……ひょっとして、彼らは『作られた』ものなんじゃないか? そう、たとえばモデルが同じで……!



「あ……ウソだろ……?」



 ある写真が決定的だった。ウェーブがかった長めの金髪をもつ俳優。

 よく見かけるポーズ。両手をあげてバンザイをしている写真だ。

 ゲームでよく見かける現象が、そこにあった。


「腕が……髪が……貫通してる……!」


 耳がくっつくほどにまっすぐ腕をあげれば、髪が腕に押されるはず。なのに……『腕が髪の毛を貫通』していた。いちど気づくと、細かいところも見つけられるようになる。貫通現象が起きてる写真が何枚もあるぞ。


「市長も……!」




 ニューリアン購入会とアグリーメントルームで市長のホログラム映像を見た。後者では会話さえ交わした。あれもCGだったのか? となると、購入会の司会は? サムライエンターテイメント社の人は?

 そうだ、たしかジョージ・カーシュナー市長はサムライグループ出身だとツバメが言っていた。あそこは『機械的すぎるくらい』に淡々としているとも。



「……ツバメは知っているのかな?」


 通話はすぐにつながった。


「もしもし? 市長とサムライグループについて聞きたいことがあるんだ」

『ミスター……気づいたのね。その直感は正解よ、わたしは答えを知ってる』


 ただし、とツバメは念を押した。


『これはネオ東京シティの最高機密。わたしが何年もかけてプロテクトをくぐりぬけた……知ってしまったら後戻りできないわ。いいの?』

「……命にかかわることなのか」

『命がひとつじゃなかったら、何度でも処刑されるでしょうね』

「……言っておくけど、ひとつじゃないよ」


 どういうこと? と聞かれた。ピンと来ないか。


「アノヨロシとミナシノと、君と……おつうも。みんなの命が俺の命と同じくらい大切だ。もしものことがあったら……死ぬほどつらい。代わってあげられるなら代わりたい」

『ちょっと、変なこと言わないで。ミスターが死んだら野良ニューリアンになっちゃうのよ? 最優先はあなたに決まってるでしょ。あの子たちもきっと同じだわ』


「ははは……確かに。とにかく俺が言いたいのは、みんなのことが好きってことだよ」

『……おそろしい人。そんな人だからこそ、わたしも所有者になってほしい、なんて思ったのかもね』



 ツバメはすべてを教えると約束してくれた。ただし、俺たちは運命共同体……みんなが起きてから話すと。

 スター・セージ社は、大きな運命のうずへと進もうとしていた。

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