第115話 論功行賞

6545年5月25日ーー。


ガルレアン帝国を盟主とする四ヵ国の連合が総計60万の大軍を率いてポルネシア王国を侵略。


これに対し、ポルネシア王国は西にロンド・デュク・ド・オリオン、南にレビオン・アンプルール・ポルネシア、東にクレドール・カウント・ド・プロキオンを配置し、これを迎撃する。


宣戦布告なき国境越えに敗北を重ねていたポルネシア王国が最初の勝利を飾ったのは、ポルネシア王国西部のカーノ渓谷。


オリオン公爵家の嫡男、レイン・デュク・ド・オリオンが率いる五千と元リュミオン王国王女ミルハ率いる元リュミオン兵により構成されたバドラキア軍三万との戦い。


ミルハ率いる騎馬隊をオリオン軍が防ぎ、ミルハを捕らえる事により降伏させた。


そのまま元リュミオン兵のバドラキア軍を併合したレインは後発のオリオン公爵家私軍一万五千を合わせ、西進。ハドレ城を攻略中であったバドラキア本軍十万相対す。


その際放たれたレインの強大な魔法によりバドラキア軍瓦解。オリオン公爵軍の完勝となる。


そして東部、ポルネシア王国海軍とナスタリカ皇国海軍の海戦。

ナスタリカ皇国海軍大型船30隻、中型船50隻に対し、ポルネシア王国海軍は中型船60隻でこれに相対す。

ナスタリカ皇国の軍艦は帆と人力によるオールで動くガレー船であるのに対し、ポルネシア王国は帆もなく、漕ぎ手もいない新型船であった。

漕ぎ手が不要となり、重量が軽くなったその船に積まれた新型の兵器にナスタリカ皇国はなすすべなく壊滅。旗艦ラベラスト号の轟沈により、降伏した。


二ヵ国の降伏、および壊滅を受け、南部からポルネシア王国を攻めていたリコリア共和国は即時反転。

じわじわと引いていき、そのままポルネシア王国外へ離脱。両国共に被害は極めて軽微であった。


そしてこの戦争最大の死闘の場、レヴァリオ平原にて行われたガルレアン帝国軍二十五万対ポルネシア王国軍十五万の大戦。


開戦当初より双方多数の死傷者を出し、平原を血で染め続けること四日。北方、及び西方よりもたらされた情報により、帝国軍は大きな決断を迫られる。


元リュミオン王国の軍が北と西から帝国を脅かしたのだ。更にはポルネシア王国軍にはバドラキア軍を壊滅させた魔法がある。帝国六魔将の二人から強大な魔法が放たつ決断をし、実行した。


しかし、ポルネシア王国軍側から放たれた魔法により、帝国軍側から放たれた強大な魔法は帝国軍へと降り注ぐこととなる。この事をきっかけに帝国軍は後退を強いられ、オリオンの苛烈な攻めによりポルネシア王国内で散り散りとなる。そのまま六魔将キャンティスはバドラキア王国へと撤退。事実上の敗北となった。


西がこの戦争最大の大戦であったと言うならば、北で起こった出来事はこの戦争最小の決闘であっただろう。


ポルネシア王国の北、長年人類未到の地であったフォレストガーデンと呼ばれる風エルフの領域を帝国軍五万の軍勢が抜け、手薄であった北方からポルネシア王国を脅かした。


これに相対したのは、ポルネシア王国の王軍三万。そしてそれを率いたのは若干12歳にしてポルネシア王国オリオン公爵家の嫡男レイン・デュク・ド・オリオンであった。


決戦の場、ラッツ平原。


初日より英雄級の魔法の撃たれ、二日目に至っては炎の隕石と大海のような水量で空が覆い尽くされたと言う。


そして、その様に恐れをなした闇のフレッグスが離脱、風のウィンガルドがレインとその奴隷頭スクナとの決闘の末戦死。帝国の北方制圧軍は降伏した。


その場で魔法を目撃した多くの者たちが口を揃えてこう言ったという。


「この戦争の勝敗は彼らの手に握られていた」


と。


以上がポルネシア大会戦の結末である。





ポルネシア会戦より数日後ーー。


俺を含めたこの戦争に参加した者達が王都に集められていた。


「ポルネシア王国の勇士達よ! 貴殿らは超大国ガルレアン帝国を始め、数々の強大な国々からの猛攻を見事防ぎ、祖国を守ってみせた! 王として礼をいう!」


王城前の大広場が見渡せるバルコニーに立ち、王が演説する。

拡声の魔法が使われているのでこの演説はこの王都全域に響き渡っている。


「我がポルネシア王国の勝利は、貴族、平民、奴隷関係なく皆が一丸となり、祖国を蹂躙せんとする強大な敵国に立ち向かったからこその結果である」


王の演説が長々とされている。既に30分は経っているのだが、貴族は当然だが、市民もこの長い王の演説に聞き入っている。


ポルネシア王国が四ヵ国から攻められているとの情報が市民に出回った時、国中で暴動が起こった。大国が本気を出してこのポルネシア王国を取りにきたのだ。国民の多くが諦め、国から避難しようとした。


しかし、一つの戦勝報告により、状況は一変する。


オリオン公爵軍がバドラキア軍十万を壊滅させた、という噂だ。そこから始まるポルネシア王国軍の快進撃は正に国民にとっては英雄譚であっただろう。


そしてその火付け役がオリオン公爵軍のバドラキア軍壊滅の知らせ。


「中でも四方からの進軍を見事防ぎきり、壊滅させた大将軍達の働きは抜きん出ているものがあろう。彼等には各々に対してその働きに見合う褒賞がある。が、そんな彼等の中でも更に頭一つ抜けた働きをしたものがいる! ロンド西部大将軍! 前へ!」

「はっ!」


背後に控えていたお父様が前に出る。

実用性より煌びやかさを重視した式典用の甲冑を着たお父様が前に出る。

それと同時に市民達から空が割れんばかりの歓声が聞こえて来る。この戦争、オリオン家なくして勝利はなかったとここにいる全ての人たちがわかっているのだろう。

あちこちから感謝と称賛の声が聞こえて来る。


それを陛下は手をあげる事で鎮め、続ける。


「ロンド西部大将軍はその僅か一万五千の私兵でもってバドラキア軍十万を壊滅させた」

「おおーー!」


「そして、その知識と武勇を持って寡兵で帝国軍二十五万を打ち破り、ポルネシア王国の武をオルレアン大陸全土に響かせた!」

「うおおぉぉぉぉーーーーーーー!!!!」


響き渡る歓声。


「この他に比類なき武功は此度の戦の第一功として讃えられるべきものであろう。よって、オリオン西部大将軍には一階級昇進、及び、領地と金品を授与する!」

「うおおおおおおおぉぉぉぉぉーーーーーーー!!!!」


またもや響き渡る大歓声。それらを聴きながら俺は神眼で自分の名前を確認する。


{レイン・グランデュク・ド・オリオン/Lv. 89}

{14030593/85639500}(晩成型)

{男性/AB/6533/7/8}

{人族/オリオン大公爵家}

{HP 953/953}

{MP185609/185609}

{STR638}

{VIT 583}

{AGI 983(+1966)}

{魔法}

{スキル}

 レア4 MP上昇率大

 レア5 神速

 レア6 我が矛は最弱なり、我が盾は最強なり

 レア7 魔力全吸収

 レア7 無詠唱

 レア9 魔導王

 レア10 神眼

 エクストラ 言語理解


名前がグランデュクに変わっていた。つまり公爵から大公爵へと陞爵したという事だ。


ポルネシア王国初の大公爵。その発表に市民のみならず貴族達まで湧き上がっている。


「我が国の矛として、また盾として、この国を守ってくれ!」

「はっ! この命を賭しても!」


「うおおおおおおおぉぉぉぉぉーーーーーー!!!!」

「ポルネシア王国万歳! オリオン大公爵家万歳!」


儀礼用の装飾が華美に施された剣を受け取り、お父様は下がる。


「続けて……」


他の将軍達が次々と呼ばれて褒美を受け取っていく。

俺は横に来たお父様に小声で聞く。


「大公爵ですか……。おめでたいですが、急ですね。先に教えてくださればよかったのに」

「お前を驚かせたくてな。それに私が受け取った褒美にはお前の分も含まれている。二人分合わせての陞爵だ」

「……」


俺の分の褒美をお父様が受け取った事に不満があるわけではない。今日功を下賜されるのはお父様だけ。俺の分もまとめてお父様が受け取る事になっている。俺の力は秘密が多い力の為、公にするかは議論が必要だからだ。


だからここでの疑問はこのタイミングでの陞爵の方だ。


金や領地は大したもの用意できないからこれで満足してねという事だろうか。この分だと陛下が仰っていた領地と金は期待できないかもしれない。それは少し、いやだいぶ困る。オリオン家の懐事情はそこそこ切迫しているのだから。そんな俺の心配をよそにお父様は苦笑しながら俺を見てこう言った。


「帝国の脅威は依然としてある。オリオン家の力はまだまだこのポルネシアには必要という事だ。それよりも、だ。……私はお前はこういうのは嫌がると思っていたんだがな?」

「え?」


俺が嫌がるとは。


そう聞き返そうとした時、バルコニーで演説していた陛下が突然話題を変えた。


「ここで一人の英雄を皆の者に紹介しようと思う! オリオン大公爵家嫡男、レイン・グランデュク・ド・オリオン前へ!」


は?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る