第27話 行くか行かないか

脱力して気だるい気持ちのまま自分の家にかえる。


そして何も言わず部屋に戻り、倒れこむ。


「はあああああぁぁぁぁぁぁーーーー」


と盛大にため息を吐く。


(まったくなんて女だ!普通許嫁のことをあんな調べるかよ!俺なんて直前まで気にもならなかったぞ!!)


正直期待は全くしていなかったし公爵家跡取りに嫁ぐなら俺は関係ないと余裕ぶっていた。

その結果があの体たらくである。


(ああ〜、これからどうしようか・・・)


俺は前世から罰を与えるという行為とは無縁の生活を送っていたのだ。

こういうときどうすればいいのか全くわからない。

彼女の暗殺は可能だ。俺の神眼があれば衛兵の配置など丸分かりだ。

だがまずそもそも8歳の子のちょっとした行き過ぎた行動を暗殺に繋げるのは人としてどうだろう?

次に仮に暗殺したら?

俺がまず最初に疑われるのは想像に難くない。

断片的とはいえ彼女の母親が俺の異質さ話を知っているのだ。

知っているらしき人間を全員殺すなどそもそも無理な話なのだ。

彼女は俺のステータスの異常さに気付き始めている。

何処からか俺の情報が漏れていればほぼ間違いなく俺の犯行と断定される。

彼女でさえ俺の情報をあれだけ集められたのだ。陛下ともなれば俺の異質さにすぐに気付くだろう。

さらに仮にばれなかったとしても一度疑いのかかった俺は公爵には当然なれない、だけならまだしも、オリオン公爵家が陛下の不興を買う。

公爵家と王家の関係は粉々になる。

かなり危ない橋だ。渡れる訳がない。

だが俺は王女の前で殺すと言う言葉を使った。

王女を暗殺するとは言ってないという言い訳は通用しないだろう。

騒ぎになるどころか、最悪首がとんでも仕方のない行動だ。


(あまりに考えなしだったかな・・・)


彼女が告げ口してもまだなんとかなる。

その時は俺のステータスを公開してやればいい。

一流の冒険者より頭一つ分抜き出たレベルの俺を殺せる訳がない。

今の世ではこの上なく重要な戦力だ。

その俺を安易に処刑など愚の骨頂である。

実際に殺したのならそれもわからなくなるが・・・


(・・・謝りに行くか?

いやそれもどうだろう・・・

あのタイプは下手に出ると調子に乗り出すだろうからな、俺の情報と掛け合わせれば、俺は何時でもお前を殺せるぞ、という脅しにはなっただろうからな・・・

まあなんとかなるだろう)


と考え、諦める。

何か言ってくればその時謝るなりなんなりすればいいだろう。


するとスクナとメイドが入ってきた。


「おかえりなさいませレイン様。

お疲れのところ申し訳ないのですが旦那様がお呼びでございます」


「わかりました。すぐに行きます」


(結果を聞きに来たのだろうな・・・)


正直怠くて仕方がなかったし、そもそもうまくはいかなかった。

だがもうどうしようもない。

憂鬱な気分のままお父様のところに向かう。


「おお!待っていたぞ!で?王女殿下とはどうだったのだ?」


「あ〜、そうですね〜、わ、悪くはなかったのではないでしょうか?」


と誤魔化してみる。


とすぐさまお父様は異変に気付いたらしく、


「お前まさか王女殿下に失礼なことでもしたんじゃないだろうな?!」


と意気込んで訊いてくる。


「い、いえ、話した内容が僕の過去の事だったものでなんとも言えないお茶会になっただけですよ」


とできるだけ誤魔化す。

バレなければいいのだ、バレなければ。


「そ、そうか・・・

お前の過去か・・・

というと、奴隷を買ったやつとかか?」


「はい、あとは言葉を話すと同時に本を字も習っていないのに読んだとかですかね・・・

全然おぼえてないので何を聞かれても曖昧な返事しか返せませんでしたが」


(それだけじゃないがな)


「ああ、うむ・・・なるほど。

因みにどの様に調べたと?」


「はい、なんでも密偵を使ったとか。

ですがお父様の情報操作に踊らされている感じでしたしあまり深い部分は知らないかと思われますよ」


話す前から本を読んでた事とかな。


「そうか、それを聞いて安心したよ。

最高ではないがますまずの話し合いにはなったな。

疲れただろう。もう部屋に戻って寝なさい」


その部分だけを聞けばベストではないがベターではあるだろう。


「はい、ではおやすみなさいお父様」


「うむ!おやすみレイン」


と締めくくり部屋を出て自室に戻る。


(なんとかごまかせた様だ)


と言う訳で睡眠を取り次の日の早朝に目を覚ます。


明日は家に帰る日だ。俺は今日1日暇である。


(プリムと・・・、いやいやまてまて嫌がられたら、俺は死ぬ。

いやでもあれは脈アリだと思う・・・

いやでも俺の勘違いの可能性もある・・・

男によくある「えっ?実はこの子俺の事好きなんじゃ・・・」かも・・・

それに今日急に押しかけるのもちょっと・・・

せめて事前に連絡をしとくべきだったか・・・

だけど今日しか時間ないし・・・

いやいや、彼女も暇なはず!

それに公爵家長男であるこの俺が誘っているのだ!

嫌がるわけがない!

いやでも待てよ?実は彼女にも既に許婚がいる可能性が・・・)


とその可能性に気付き、気づいたら部屋を飛び出していた。

「お父様!!お父様!!」


と叫びながらお父様の部屋まで走る。

後ろからメイドとスクナが追いかけてくるが絶賛全力ダッシュ中の俺に追いつけるわけがない。


そして部屋の前の扉を乱暴にノックした後返事も聞かずに部屋に入る。


「な、なんだどうしたというのだ!?」


「すいませんお父様!お聞きしたい事がありまして!

プリムって憶えてます?」


「?

あの虐められていた?」


「そうです!彼女に許婚がいないのか調べて欲しいのです!!」


「・・・」


と押し黙ってしまった。


「いや、お前・・・」


「ん?なんですか?

ま、まさか!

まさか既に許婚がいるのですか!?

な、なんてこった・・・」


と、膝から崩れ落ちる。


(ああ、くそ!そりゃいるべさ、あんな可愛いんだからいない方がどうかしてるぜ!せっかくの恋愛フラグがまさか始まる前から終わっていたとは・・・)


「い、いや違うぞ!落ち着けレイン。

私がびっくりしたのはお前の剣幕だ。

まさか返事も聞かずに私の部屋に入っておいて聞きたい事がそんな事とは思わなかったぞ」


(そんな事とはなんだそんな事とは!

俺にとっちゃあ死活問題だ)


「そ、そうでしたか・・・、いや久々に本気で走りましたよ」


「本気で走ってきたのか?」


「はい」


とすぐに、部屋の外からノックの音が転がった。


「旦那様、そちらにレイン様はいらっしゃいませんか?」


「いるぞ!入ってこい」


と失礼しますという声とともにドアが開く。


「フウー、ご無事で何よりです。

突然お父様と叫ばれたので心配しましたよ」


「それはすいませんでした」


と反省する。

スクナも呼吸が若干荒い。


「ほ〜、一流とは言えないまでもそこそこの実力者だったお前が追いつけないほどの速さだったのか?

流石神速持ち!

速いな」


といい、豪快に笑う。

そんな事よりもプリムの事が知りたい。


「お父様、プリムの事なのですが」


「知らん!!」


(えええぇぇぇぇぇ〜〜〜・・・)


マジか!って感じだ。


「いやあの、ですから許婚がいるのか調べていただきたいのですが・・・」


「嫌だ」


「な、何故でしょう?2日前は出来る限り協力してやると仰っていたではありませんか?」


「いやそんな事は一言も言っておらんぞ?

私は応援してやると言ったのだ。

しかもそれは問題になったら出来る限り助けてやるという意味だ」


そういえばそうだった。

王女殿下との兼ね合いの流れで聞いた話だったし。


「そ、そうですか」


と言い意気消沈という感じで立ち上がり部屋を出ようとする。


「まあ、待て。そこまでお前が本気なら一ついい事を教えてやる」


「何でしょう?」


「実際のところ問題になっても問題じゃないという事だ」


「?」


何言ってんだ?


「つまりだな彼女に許婚がいるのならば諦めさせれば良い!

問題になったら私がなんとかすると約束した。ならばお前はそんな奴の事は気にせず突っ走れば良いのだよ!私がソフィーを手に入れたようにな!!」


なるほどなるほど。


「おお!なるほど!わかりました!その時はよろしくお願いします!」


「うむ!」


「では失礼します」


と言って部屋を出る。


そして自室に戻る。

取り敢えず許婚は関係ない事がわかった。


(いや待てよ、もしその許婚の男がいてお父様とお母様みたいに互いに愛し合っていたら・・・)

俺は完全に噛ませ犬だ。


と部屋に戻っても頭を悩ませていた。


「あのレイン様、一つ助言させていただいてもよろしいでしょうか?」


とメイドが話しかけてきた。


「?

何でしょう?」


「取り敢えず行ってみて直接聞いてくればよろしいのではないでしょうか?」


いやそれもちょっと・・・と黙っていると、


「では、私が行って聞いて参りましょうか?」



「いえ、それは・・・」


なんか俺のヘタレ具合が加速しそうなので遠慮したい。(もう十分ヘタレだが)


「ではどうなさるおつもりですか?

このままではイタズラに時間を消費させるだけですよ?」


「わかっていますよ」

そんな事言われんでも重々承知だ。

だからと言って踏み出す勇気が出ない。


と沈黙する。


「あの、よく考えたら街で少し一緒に歩くだけですよね?」


「そうですが?」


「いえ、レイン様は5歳なのですから何もお気になさらなくてもよろしいのではないでしょうか?」


・・・


「あ」


(そうだったそうだった!!

何故こんな簡単な事に気が付かなかったのだ!

そうだよ!5歳同士のお遊びじゃないか!!

俺らはお友達!お友達と遊ぶだけ!

よし!何も問題なし!!)


つい前世のカップル理論を持ち出してしまった。男と女がいればヤるという大人の考えを持ち出してしまっていた。


やっとの事で言い訳が作れた。


「よくやった!褒めてつかわす」


メイドもやっとか、と言った顔で返事をする。


では早速行くか!


「いや待て!」


と今度はなんだと言いたげな顔でメイドとスクナがこちらを見る。


「よく考えたら家を知らない」


そうだ、聞いてなかった。


よし!

「お父様のところに行こう!!」




という訳でなんとか家を聞き出し今家、というか庶民の一軒家にいる。

因みにスクナは置いてきた。

付いてきているのはメイドだけである。


(うわ〜、そうだったな、士爵って言ってたもんな〜)


貴族の住宅街は当然高い。

土地を持っている程度では買えない。


(まあもちろん気にしないが)


当たり前だ。こちとら元庶民だ。

俺の前世の家よりはデカイ。


(ああ、やべ〜、緊張してきた。

これでもし嫌な顔とかされたら俺、気絶するかも)


と弱気になる。


しばらく迷い、気合いを入れる。

神眼でいることは確認済みだ。今はタイミングを見計らっている。

プリムのお父さんとお母さんもいる。


とブリムと両親との会話が終わりプリムが自室らしき部屋にもどっている。


(今だ!!)


ドアのノッカーを鳴らす。


暫くして、この家の使用人が出てくる。


「どちら様でしょうか?」


「こ、こんにちは!あ、あのレインと申します!事前連絡なしにし、しつれぇ、失礼かと思いましたがプリムさんとちょっと街を歩きたいなと思い来ました!」


盛大に噛んだがなんとか言い切った。


と、微笑ましい顔で


「はい、プリム様から聞いておりますよ、よろしければ中でどうぞ」


「はい!失礼します!」


と中に案内される。


(あれ?俺が公爵家の人間だって聞いてないのか?

そういえば彼女には公爵家だと名乗っていなかったな

それでも彼女も聞いてただろうし、それとも親御さんには伝えてないのかな?)


そう思い中で待っているとプリムが両親と一緒に現れる。


すぐにこちらも立ち上がり頭を下げる。


「突然失礼いたしました。

今日しか時間がなかったため連絡ができませんでした」


なら昨日のうち出しとけよ、という話になるが細かいところはいいのだ。


「いえいえ、こちらこそこのようなみすぼらしい家においで下さいましてお恥ずかしい限りです」


と言った。

小綺麗ではある。

がオリオン家と比べるとやはりグレードが下がる。


俺が貴族だと知っているため、ほぼ間違いなく格上だと思っているからだ。

彼らは貴族としては新参者で貴族としての経験が浅い。

言い方は悪いが泡沫貴族だ。


言葉尻一つで領地没収すらあり得るのだから。


「それで本日はどのようなご用件でしょう?」


よし!来た!


「はい!も、もしプリムさんが今日暇なのであれば一緒に街でも回ろうかなと思い馳せ参じました」


「ご丁寧にありがとうございます。

どうぞどうぞ。

プリム、一緒に行きなさい」


「はい!お父様!!」


(キターーーーーーーーーーーー!!!!)

と心の中で絶叫する。


つい顔がにやけてしまう。


「おお!それは良かった!断られるか心配でしたので」


まったくだ。寿命が縮んだぞ。


「特別な用事などなければ断りなどいたしませんよ!

おっと失礼、名乗り遅れておりましたな。

私の名前はバックス・シュヴァリエ・ド・ハーバー。

こちらは妻のリルス・シュヴァリエ・ド・ハーバーと申します。

ハーバー領という小さな領地で主をしております。

以後お見知り置きを」


と名乗ってきた。


(ああ、やっぱりなんとなく勘づいていたがレインとしか伝わってないな。

オリオンまで聞けば公爵家だとわからない奴はこの国では貴族としてやっていけないからな)


「これは丁重なご挨拶感謝致します。

僕の名前は、レイン・デュク・ド・オリオンと申します。

オリオン家第1夫人ソフィア・デュク・ド・オリオンの長男です。

以後よろしくお願いします!」


と元気に名乗ってみる。


当然場が固まった。


プリムは何が何だか分かっていないらしい。

困った顔で両親を見ている。


(そんな君も可愛いぜ!)


と予想できていたことなので俺は気にしない。


しばらくしてなんとか声を絞りだせたようで、


「オ、オリオンと言うのはあのオリオン公爵家のオリオンかい?」


若干意味がわからない感じになっている。


「はい!そうですね、間違いないですよ」


と同意してみた。

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