第23話 パーティー

次の日の朝に目が覚めた。


昨日と同じ様に、支度をして朝食の場にいく。


すると、


「レイン、昨日は女の子を人攫いから守ったそうじゃないか!よくやったな」


「はい!ありがとうございます!

侍女達のおかげです!」


「うむ、ところで今日は初のパーティーだが調子はどうだ?」


「はい!昨夜はきちんと眠れたので万全ですよ」


「そうかそうか、それは良かった!」


とお父様と話していると横からお母様が


「レイン、あんまり危ないことはしないでちょうだい。貴方御付きの侍女なら1人で3人と相対しても勝てる位の強さはあるのだから」

「はい、すみませんでした」


というところで食事も終わり、自室に戻る。


「怒られてしまいました」


「当たり前です。私に任せていただいても宜しかったのですよ」


「いやあの場で見てるだけというのも締まらないではありませんか」


「いえ、そんな事よりもご自分の身の安全を最優先にして下さい」


「身の安全くらいはちゃんと考えてますよ」


と話しているとお父様がやって来た。


「レイン入るぞ」


「はい」

ガチャ

(入るの早いよ!「は」ガチャくらいのタイミングだったよ!)


「うむ似合っているではないか」


「それはレイシアに言ってあげるべきではないかと思いますが」


「もちろん言ってきた」


「そ、そうでしたか。

それとわざわざ僕の部屋にお越しいただくなどどうしたのでしょうか?」


敬語とそうじゃないのを少しずつ入れ未熟さもアピールしておく。


「理由がなければきてはいけないか?」


「いえ、その様なことは」


「うむ、まあお前はほぼ間違いなく王女の1人とお話しすることになる。

私の立場はもう説明するまでもないだろう。

故に失礼のない様にな」


「わかってますよ、何か聞かれても

YES I doですね」

最近見つけた言語理解の穴だ。

俺が“英語”で言おうとすると英語になるのだ。つまり当然理解できない。

ふざけているように見えるかもしれないが結構真面目に言っている。

偉い人間からの受け答えはYesで統一するのが1番楽だ(と思う)。


「いえ・・・いえなんだ?」


「本に書いてあった外国語でそうですみたいな言葉ですよ」


「そ、そうかレインは相変わらず博識だな。

まあ分かっているならいい。

じゃあ、また後でな」


「わかりました」


そして出て行った。


その後は家を出る時間まで本を読む。



そして、出発の時間となり、呼ばれ、馬車に乗り、王城にいく。


因みに内心ガクブルであった。


(いや、緊張するぜ。しかも王女とか・・・

はあ〜、何も始まってないのにもうなんか疲れてきた。

昔の癖は絶禁だ。己を出さない様に気をつけないと)


レイシアはみたところ特に緊張してなさそう、というよりすごい意気込んでいた。

良い男でも見つける気かお母様達に色々きいている。

(取り敢えず俺の気にくわないやつだったら、膝をコンコンとつき合わせて妹の説明とかした後、気合の一発STR全開と最速クラスの踏み込みと膨大なMPによるレベル6火魔法「剛力」を合わせ放つ最強にして最恐の一撃ナックルファイヤーを食らわせてやる。

即死じゃなければ直すから安心して欲しい)


とかアホなことを考えてみた。


プロウス君はこの世の全ては俺の物、と言いそうな顔でふんぞり返っていた。


(あいつ母親からどんな教育受けてきたんだか)


「やはり緊張なさっているご様子ですね」


「フウ、まあ、流石に相手が王女様とか緊張しないほうがどうかと思いますが」


「いつも通りで大丈夫かと思われますが」


「いつも通りですか・・・」


(そのいつも通りが難しいんだけどな)


そうしていると王城に着き、馬車を止める。


「あれ、お父様。

もう既に馬車がたくさん並んでますよ。

遅刻しましたでしょうか?」


「ハッハッハ、違うよ。

私はこれでも公爵だからな。早めに行っては、後から来た下級貴族達の面目が立たなくなるのだよ。

遅刻はせずかといって早く来ないのが常識だな」


「そうでしたか、ありがとうございます」


(なるほどね〜、まあ公爵よりも後から来る士爵とかは気持ち微妙そうだな)


なんとなく入りヅラいのは分かる。


そしてパーティー会場の扉の前にくる。


一呼吸おいて、

「では参ろうか」


ガチャ、ガヤガヤ。


ドアを開けた瞬間、喧騒に包まれる。


とすぐにオリオン公爵家の派閥から声がかかる。


「おお!これはこれはオリオン公爵、よくぞおいでくださいました」


「うむ、そなた等もご苦労だったな」


と全員の挨拶が終わり、俺に注目が集まる。


(・・・やっぱ集まったか。うう、もう吐きそう)


だがそれを表面には出さないように気をつけながら、

「オリオン公爵家次期当主レイン・デュク・ド・オリオンです!皆様、本日は我々子供達のためにわざわざご足労いただき、ありがとうございます!」


と言ってやった。

(言えたorz)

胃液が逆流してきた。


「ハッハッハ、これはこれはオリオン公爵は誠に優秀なお子様をお持ちのようでうらやましいですな」


「いやいや、まだまだだよ。ハッハッハ」


とご機嫌が良さそうである。


第2夫人は早々に自分の親の陣地に行ってしまった。


「レイン、ここはいいからあちらで子供達とお話ししてきなさい」


「はい!わかりました!では行ってまいります」


と言ってお父様の陣営の子供達のところに行く。


とすると早速、声がかけられる。


「今日は、ご機嫌麗しゅうレイン様」

「はい、ご機嫌麗しく」


(全くご機嫌麗しくないけどな

さっきから胃液を飲み込むのに一苦労だよ)


今からは子供達ばかりなので気持ちがすごい楽だが。


そして、立っているだけでやれリネル侯爵の三男だの、やれアーブルト男爵の次男だのと挨拶に来る。


覚えられるわけがない。そして覚える気もない。


暫く、ははっ君もね、みたいなことを言ってやり過ごしていたら、今度は女性陣からお声がかかったであります!!


(ふっふっふ、この中から選び放題?そうでありますかそうでありますか!ふむふむ、君と君と君、いいね!!)


と内心調子に乗りながら表面上は爽やかに応対する。

単純に女の子にちやほやされるというのがうれしいのだ。


(ストライクゾーンはまだだが、将来性のある子ばかりで大変よろしいであります!

今日はこの幸せのまま帰りたい)


そうは問屋がおろさないのが人生であった。


すると突然、


「ポルネシア王国第2王女アリアンロッド・アンプルール・ポルネシア王女殿下のおな〜り〜!」


と大声が響き、大音量の楽奏が響く。


と、階段の上から第2王女らしい無茶苦茶可愛い女の子が降りてきた。


俺は神眼を飛ばして顔をガン見である。


「あれ?」

(いや?初対面じゃないよな?俺があったことがある女の子なんてたかが知れているはずだ。

じゃあただのデジャブか?)

前世の日本人顏とは全く違うため違うと思うが。


すると明らかに王女様がこちらを見てニッコリと微笑んだ。


「クフッ」

誰かわかった瞬間危うく声が出るところだった。

(昨日助けた女の子じゃねーか!!)


と他の人からの挨拶を軽くいなして真っ直ぐこちらに歩いてくる。


(やばい逃げれない!クソ、どうすれば)


なんか怪しい笑みを浮かべながら歩いてくるため逃げ腰になる。


そんな俺の前に立ち塞がってくれたのは、


「これはこれは王女殿下、本日はよくぞおいでくださいました。

私の名前は、ヒルデ・デュク・ド・オリオン、こちらは私の長男のプロウス・デュク・ド・オリオンと申します。

もしよろしければ是非ともプロウスと一緒に少しお話を致しませんこと?」


第2夫人とプロウス君だった。


(よし!今に限ってはナイス判断だったぞ。

いつも空気読まないお前らだが今回だけは見直した!今の内に・・・)


と周りから不自然に思われないように、神眼で背後に注意しながら後退していく。


「ご丁寧にありがとうございます。ですが申し訳ございませんが本日は先約がございまして」


「せ、先約ですか?」


「はい、オリオン公爵家のご長男であらせられるあそこにいらっしゃるレイン様とお話をしに参ったのです」


(グハッ、逃げられなくされた!)


名指しをされた以上逃げるわけにはいかなくなってしまった。


第2夫人達も固まっている。


「では、失礼いたしますわ」


と言ってこちらに歩いてくる。


凄いこちらをガン見しながら歩いてくるのだ。

俺も後退を止めてしっかりと立ち王女様を迎える体制を整える。

取り巻き達も固唾を飲んで見守っている。


そしてとうとう俺の前に王女様が立った。


「これはこれは王女殿下、私の様なもののためにわざわざ来て頂けるとは大変恐縮にございます」


既に体面を保つこと忘れていた。

前世の知識を総動員して、堅い言葉と慇懃な礼をする。

さっき収まった胃液がまた逆流しそうだ。


「フフ、こんにちは、レイン様。

それ程かしこまらなくてもよろしくてよ。

だって私は貴方の婚約者なのだから」


「ハイ?今なんと仰いましたか?」

いまこの人なんて言った?


「あら?だから私は貴方の婚約者、即ち許婚ですわ」


「・・・」


固まってしまった。

暫く二の句が告げずにいるとお父様がやって来た。


「これは王女殿下、ご機嫌麗しく」


「オリオン公爵様もご機嫌麗しく」


「私の息子のレインが何か失礼を致しましたかな?」


(いやあんた聞いてただろ)

と、やっと内心愚痴るまでは出来るようになった。


「いえ、ただ私が許婚だと言うのは初耳だそうで固まってしまいましたわ」


「おお、おお、そうでしたか。実は私も言い忘れましてね、ハッハッハ」


(はいダウト!そんな事言わなかったやん!

俺の記憶が正しければ後でのお楽しみって言ってたぞ)


「で、どうですかなうちのレインは?小さい頃から本が好きでしてな。博識でありますぞ。

だからと言って引きこもっているわけではなく、何度も城下街をその足で見に行っておりますから」


お父様が押し売りみたいな口上を述べ始めた。


「あら、そうでしたの。私も最近やっと字を覚えたところですので羨ましいですわ」


「おお!そうでしたか!大変ご立派にございます」


「ありがとうございます。レイン様と2人でゆっくりとお話がしたいので時間を作ってくださいませんか?」


「おお!おお!どうぞどうぞ。うちのレインでよろしければいつでも構いませぬ」


「ありがとうございます。ではまた、ご機嫌よう」


と言って去っていった。


「フウ、おいレイン、お前何も言ってないではないか。情けない奴だ」


と怒っているよりもいたずらが成功した子供のようにニヤニヤして笑っていた。


「ハァ、緊張した……。

お父様、先に言ってくださいよ、早めに言ってくだされば僕だってあんな無様晒しませんでしたよ」


王女様が許婚なんて聞いていない。勘弁して欲しい。


「それにしてもお前を子に持つ俺が言うのもなんだがしっかりした方だったな。口調などもしっかりなさっていた。流石はアルメリア王女様の再来と言われた方だ」


アルメリア王女とはこの国にいた非常に賢く優秀な王女の事で、3歳の頃から沢山の本を読み、大人になってからは政治に携わり、法を幾つも改善させた歴史に名を残す天才の女性の名前だ。


「へえ〜」


へえ〜などと口にしてはいるが内心嫌々だ。

頭の良い女性は尻に敷かれそうなので正直ご遠慮願いたい。


「それはともかく王女殿下に気に入ってもらえてよかったではないか。

内心ヒヤヒヤしていたからな!

もしお前を気に入ってくださらなかったらどうしようかと思ったぞ」


「は、はあ〜、そうですか。

というかお父様、今更ですが好きな女を選べとかこの前言ってませんでしたか?」


「いるのか?」


「いませんが」


速攻切り返されて終わってしまった。


「まあ、とにかく安心した。後はゆっくり楽しめ。ハッハッハ」


と言って自分の陣営に戻っていった。


気分は最悪だ。帰りたい。


と、


こちらとは反対側で女の子5人が1人の女の子を囲って何か言っていた。


見たところ、何か女の子の気に入らないところを5人で笑っているらしかった。


このパーティーは毎年開かれるが5歳だけが出席しているわけではなく上は10歳位までが来れることになっている。

5人での中では多分10歳くらいの子もいる。


(イジメか、早いな。多分、爵位がああだこうだという話だろう)


虐められている女の子は周りの子と比べてふた周りほどドレスの質が落ちるのがわかる。


これでも5年も公爵家にいたためそこら辺はそれなりに詳しくなっている。


「さてどうしたものか・・・」


正直言ってどうしようか非常に迷っている。

今救った結果悪い方に転がる可能性もある。

事情を何も知らない奴がしゃしゃり出るのは非常にリスキーな行為なのだ。


親の兼ね合いもあるだろうし。


という事で、とりあえずお父様のところに向かい彼女の素性を聞く事にする。


と、彼女の親はどこの派閥にも属さない士爵という非常に地位の低い貴族の娘である事が判明した。


「なら行くか」


他派閥に属しているのなら無視すべきだ。

だがそうでないのなら助けても問題なし。


そうとわかれば行くべきだ。

行くべきなのだろうか?

いや今行くと決めたばかりではないか。

いや待てよ、いやいや行くって言ったら行くのだ。


何をやっている?って?

正直無茶苦茶怖いっす。

前世での出来事が蘇るからだ。

心臓がばくばくと言っているのがわかる。

鼓膜が押し出されるような感覚と共に眩暈までしてきた。


「フウ〜、よし行こう!」

とようやく覚悟を決め、あちらに歩き出す。


そして言ってやった。


「き、君たち、イジメはあまり感心しないな」


(やべーミスった!

せめて、ご機嫌麗しく、よろしければそちらの女性をお借りしてもよろしいでしょうか?

みたいな感じで聞けばよかったのに)

最初からイジメと断定して話しかけたら角がたつ。


案の定取り巻きの1人が、


「あら?どちら様かしら?こちらにいらっしゃる方がどなたかご存じないのかしら?」


「し、知りませんが・・・」


と俺のへっぴり腰を見て格下だと確信したのか。


「よろしいですか?こちらにおわす方はリットン侯爵様の長女であらせられる、ミナリア様ですわ。頭が高いのではなくて?因みにあちらにいるのは士爵の娘ですわ」


後者は知っている。というか適当だな。

(つかお前ら王女殿下が俺に話しかけたとこ見なかったの?)

と思いつつも仕方がないので名乗ってやる。


「ぼ、僕の名前はレイン。オリオン公爵家の長男です。以後よろしく」


と簡潔に言ってやった。


「お、オリオン公爵家ですって!?」


と驚愕している。


後で知った話だがこの国では絶対に逆らってはいけないと言われる家が3つある。


1つは言うまでもなく王家だ。

説明は不要だろう。

2つ目は代々宰相の地位につき、王家を支えているリーリンノット公爵家。

そして貴族の中では最も大きく肥沃な領地があり、大量の資金があるオリオン公爵家である。

我が国は一応海に面しているがオリオン公爵領は海に面していない。

だが何故かオリオン家の分家がそちらで輸送を取り仕切っている。オリオン領で取れた鉱物や穀物などを輸送して大量の資金がある。


当然親に口酸っぱく注意されているはずだ。


「くっ、きょ、今日はこれくらいにしてさしあげますわ!行くわよ!」


「「「「ハッハイ」」」」

と言って去っていった。


「ハア〜〜〜〜〜〜〜〜・・・疲れた」


と長いため息をついた後愚痴ってしまう。


「あ、あのあの、そのあの・・・」


と出合った頃のスクナみたいな喋り方をしだした。


「フウ、やあ、こんにちは、僕の名前はレイン・デュク・ド・オリオンと申します。

君の名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?」


「は、はい!プリム・シュヴァリエ・ド・ハーバーです!よろしくお願いします!」


「う、うん、元気があって大変よろしいですね。

ただもう少し声のボリュームを下げてくれると嬉しいですね」


ハッとした様子で周りを見渡し顔を赤くしている。周りから見られて俺も恥ずかしい。


(ああ、いいな〜、非常に親近感がわく光景だ)

元いじめられっ子として虐められている子を見ると親近感がわき、話しやすくなるのだ。


「もしよろしければ少しお庭の方でお話しいたしませんか?」


「は、はい。喜んで」


と可愛い笑顔を真っ赤にしながらそう言った。


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