見知らぬ退治屋 3
夜行さんはさらにグッと大刀を突き刺す。それに合わせて坂東さんが力なく項垂れていく。
「やめて! 夜行さんっ!」
そう必死に訴えるものの夜行さんは大刀を手から離さない。それどころかより一層大刀を持っている手に力を込める。
どうしてっ。夜行さんっ!!!
私は夜行さんの顔を見つめるものの、無表情で何を考えているか分からない。
――信頼していたのに。
妖怪だけど……。妖怪だけどっ。人間に決して危害を加えないって。そう心の底から思っていたのに。
心の中を荒んだ風が通り抜ける。
坂東さんは「日髙さん……」とゆっくりと私に手を伸ばす。
「っ!」
そうだ。ここで私的な感情に捕らわれている場合じゃない。夜行さんを坂東さんから引き剥がさないと。たとえ夜行さんを退治してでも……――。
「しっかりして坂東さん! 今助けるから!!!」
私は真神を呼び出そうと制服のポケットに手を入れた。すると「惑わされるな」と夜行さんがやっと口を開いた。
「! 何がっ!」
「よく見ろ。おまえのぴーちゃんはどうした」
「ぴーちゃんなら…………」
そこでやっとハッとした。ずっとぴーちゃんの気配を感じていなかった。
いつから……。最後にぴーちゃんを見たのは……。たしか、理科準備室に入って。人体模型と目を合わせる前だった…………。
嫌な汗が頬を伝う。私は恐る恐る坂東さんに目を向ける。
まさか、まさか、まさか、まさか。坂東さんは……。
坂東さんの顔がぐにゃりと歪んだ。徐々に坂東さんの顔の皮膚が溶けだし始める。
坂東さんの正体は荒井先生が言っていた怪談!?
「っ! うそ……」
「しっかりしろ退治屋。もうすでにやつの術中に入っているんだぞ」
「そうは言ったって……」
なかなかそう簡単に気持ちを切り替えられない。だって坂東さんは私の……。
「ぴぃ…………」
いつの間にいたのか。ぴーちゃんが夜行さんの方から私の左肩へと飛び移ってくる。そしてスリスリと私の頬に体を寄せてくる。どうも私のことを心配してくれているようだった。
「ぴーちゃん。私……坂東さんを倒すなんて……無理だよ」
そう小声で呟いた。その瞬間、坂東さんの顔が溶けて骨だけになってしまう。その顔はまさに。――人体模型のよう。
でも。それでも。坂東さんが妖怪だと知っても。どうしても坂東さんに敵意を向けることが出来ない。
私が首を力なく首を横に振る。と夜行さんは「もういい」と大刀を坂東さんから引き抜く。黒に近い赤い血が派手に飛び散る。
「俺がこいつを倒してやる」
そう言うと夜行さんは坂東さんの首に大刀を押し当てる。
「……日、髙さ……ん……」
骸骨の姿となり果ててしまった坂東さんは弱々しく私の名前を呼ぶ。けれどカチカチと骸骨特有の歯がぶつかり合う音に邪魔され、途切れ途切れに音が聞こえてくる。
私は目玉が溶けてなくなり空洞となった坂東さんの目を見つめる。
「坂東さん。私、あなたと――」
その瞬間夜行さんが坂東さんの首を斬った。
「あなたと――心の底からの友達になりたかった」
斬られた首が宙を舞う。ほんの少し坂東さんの口元が緩んだかと思いきや、姿が消えていった。
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