第3話:デッドエンド
馬車に揺られること一週間、トラブルが発生した。
これまで忙しくて読む暇がなかった魔導書を読んでいると急に外が慌ただしくなった。
何かあったのだろうか。
現在、馬車の中には俺、男性剣士、女性魔導士の三人が相席している。この二人は見た感じカップル。年齢も俺よりちょい下ってところ。16歳くらいだと思う。
男性の剣士はマルス。
女性の魔導士はレラ。
彼らは相席の時にそう自己紹介した。
ちなみに俺は本名のロイドと名乗った。この場だけの関係だと思ったし、偽名を使えば何処かでボロが出るかもしれないと懸念したからだ。
しかし、何かトラブルが起こったのなら話は別だ。
不用意に本名を使ってしまった事で行動が大きく制限されてしまった。
ぶっちゃけ大丈夫だとは思うが、できることなら目立ちたくない。
このカップル二人組がなんとかしてくれるだろうと願いながら本を読み進める。
異変に気づいた魔導士の少女が不思議に思って窓から外の様子を確認すると、いきなり甲高い悲鳴を上げた。
「どうしたレラ!?」
「ままままマルスくん!? デッドエンドが現れました!!」
「な、なんだと!?」
マルスは窓から身を乗り出すように顔を出した。
「げげっ、マジじゃねえか。デッドエンドと遭遇するとかほんとついてないわ」
「どうしようマルスくん。私達全員殺されちゃうのかな?」
「馬鹿野郎! 戦う前から諦める奴がいるか! お前だけは俺が命に変えても守ってやるよ!」
「マルスくん……大好き!」
くそっ、俺が相席してることも忘れてイチャイチャ青春しやがって。こちとら一週間前に幼馴染と絶縁したばかりだぞ。
とはいえ、デッドエンドが現れたとなれば穏やかではないな。
デッドエンド=死。
これがわかるからみんな恐れている。
デッドエンドとは魔王軍幹部を指す言葉である。
天下の魔王軍幹部様がなぜこんな馬車を襲うのかはさっぱりわからんが、流石の俺も危機感を抱いて窓から状況を確認する。
そして、俺は小さくため息を吐いた。
「ただの巨大ワームか。魔王軍幹部だと思って心配して損した」
外の方では、全長20メートルもあろうかという巨大ワームが姿を表していた。
こいつは中級魔族のサンドワーム。地面から突然姿を表して人を襲う危険なモンスターだ。
ここまで巨大化した個体だと上級……最上級クラスの強さがあるかもしれない。
強いのは間違いないがデッドエンドというほどでもない。デッドエンドというのは魔王軍幹部と遭遇した時に使う言葉だ。
「はぁ!? なに言ってるんだアンタ! サンドワームなんて一度も見たことがないくせによ!!」
マルスは激昂して俺の発言に食ってかかる。
いやあるぞ。カラカラ砂漠で素材集めした時に1000匹近くのサンドワームから襲われたことある。
巨大サンドワームとも50回くらいは戦ったことある。
この二人は新人の冒険者なのかな?
まだ若いし、敵と遭遇した時に動揺しすぎだ。
「落ち着けよ。えっとマルスだっけ? 俺はアイツとむかし戦ったことがあるから何かしらアドバイスをあげられるかもしれない」
「ほ、本当か!? この際見ず知らずのお前でもいい! 奴を倒すためのヒントを教えてくれ!」
「アイツは頭部が弱点だから頭を斬れば簡単に倒せる。それを知っていれば大丈夫だ」
「アイツくそでけえけどどうやって頭部まで近づくんだ?」
「そこは気合いで」
「死ねッッッッ!!」
理不尽すぎる。サンドワームと戦った事がある経験者としてアドバイスしたのに……。
「このままだとヤバいですね。魔導士である私がなんとか時間を稼がないと……!」
レラは杖を握り締めて馬車から飛び出そうとした。
慌ててマルスはレラを背後から抱きしめて、馬車から飛び出そうとするレラを止めた。
「待てレラ! 時間を稼ぐのは剣士である俺の役目だ! 魔導士のお前はここにいろ!」
「ダメだよマルスくん! あんな化け物と正面から戦ったらマルスくんが死んじゃう! 私そんなのやだよ!」
「馬鹿野郎おれはそんなことじゃ死なねえ! 俺はお前の両親に誓ったんだよ。お前のことは死んでも俺が守るってよ!!」
あー、こいつらの会話を聞いてると無性にイライラしてくるな。心の傷を抉られるような気分になる。
このまま青春ごっこを眺めるのも辛いので、巨大サンドワームは俺が処理することに決めた。
窓から杖先を出して照準を巨大サンドワームに合わせる。
俺は即座に呪文を詠唱する。
俺は魔法の才能が皆無なので無詠唱魔法が苦手だ。
10回に1回しか成功しないので基本的に詠唱して魔法を使ってる。
5秒も詠唱に時間をかけてマスター級の《エクスプロージョン》を放つ。
巨大サンドワームの上空に巨大魔法陣が浮かび上がり、高密度に圧縮された魔法が炸裂する。
大地全体を轟かす爆発音と何十メートルもあろうかという巨大な炎の柱が発生する。
巨大サンドワームは跡形もなく消し飛んだ。
敵を処理した俺は、サンドワームが出現する前と同じように読書を再開した。
「「いやいやいやいや!!? 何事もなかったかのように読書に戻らないでくださいよ!!」」
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