第18集 さくら味

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 満開の桜の花が頭上に広がる。ソメイヨシノを見ながら、チョコレートの「さくら味」を口に入れると甘じょっぱい味だ。頭上の桜は食べれないが、人間はそれが「さくら味」だと認識する。桜の木に手を伸ばす。警告音とフォログラムの表示が出る。「天然記念物。味見不可」同じ疑問を持つ同胞は多いらしい。




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 花見の露天に『さくら餅』と表示された和菓子が売られている。厳密には道明寺だ。食品表示偽装に当たると思う私に構わず、主人は「さくら餅下さい」と言うので、道明寺である事はさほど重要ではないようだ。なぜ重要ではないのか主人の世話をするアンドロイドの私にはよく分からない。




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 満開のソメイヨシノの下で道明寺を食べ「この桜と同じ、春の味だわ。葉っぱも一緒に食べるのが好きよ」と嬉しそうに主人が言う。私はすかさず「その葉はオオシマザクラ。昨年の初夏に採取しています。この桜とも春の味とも違います」と指摘すると「機械は風流さが足りない」と怒られた。

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