正道歩む元帝国軍人さんの無限覚醒物語

@smallwolf

プロローグ


 ――その日、リ・レストル村は正体不明の襲撃者たちにより混乱状態にあった。


 村に駐屯していた軍人、そして住民達は突然現れた襲撃者達に揃って手も足も出ず蹂躙され、その数は減っていくばかり。

 襲撃者らは金目の物には目もくれず、ひたすら人々を殺し続ける。


 それは盗賊か? はたまた軍から離反した兵卒か?


 ――否だ。


 の襲撃者らは30人程度という少数なれど、その動きはまさに精兵。

 与えられた任務をこなす為、ただ住民を殺し続ける。

 残忍かつ非道に。見た者があまりの残忍さに拳を握りしめる程の惨状を作り出していく。



 理由は単純。それが任務だからだ。



「――さきも言った通り全員は殺すな。女子供を優先して数十人程度は生かしておけ」



 そんな精兵たちに指示を出すのは白銀の髪の青年だった。

 その身も同色である白銀の鎧に包まれており、何よりも特徴的なのがその冷めきった銀の瞳だ。


 その瞳はまるで誰にも心を許さないと体現しているようであり、近づく者全てを拒絶せんとする意志がそこにはあった。



「殺し方は問わない。楽しみたい者は楽しむがいい。だが、あくまで任務優先だ。羽目を外し過ぎる事は許さん」



 青年のその言葉に従い、彼の部下達は暴力を振るう。

 加えて、その内の幾人かは青年の目に余らない程度に楽しみ始めた。

 誰もが目を背けたくなるような地獄の光景。


 しかし、それを見ても青年の表情に変化はなかった。

 ただ、任務だから殺せと命じただけ。



 命乞いをする男、泣き叫ぶ女子供、片足を失いながらもみじめに逃げようとする女。

 どれもこれも関係ない。ただ殺せと命じるのみ。


 それが主より受けた任務だから。


 心すら凍らせたその男は部下に命じながら、自身も淡々と作業を進めていく。


 その時、青年の部下の一人が逃げ惑う少女の腕を掴み、足を切り落としてから己の欲望をぶつけんとしていた。


 そこに――



「何してやがんだてめぇらぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」



 ――ドンッ



 声と同時に少女の腕を掴んでいた青年の部下が吹き飛ばされる。


 漆黒に包まれし救世主が襲撃者をその拳で跳ねのけたのだ。


「あ、あなたは……」


 今まさに襲撃者によってその尊厳を汚されようとしていた少女が救世主を見上げ、呆然としながらその一言を発していた。

 現れた救世主は黒の軍服、マントを身に纏い、少女に背を向けていた。

 救世主が見つめるは村を襲った襲撃者達。


 許せない、絶対に許せない。ぶち殺してやる。

 溢れる殺意が救世主から放たれている。


 けれど、なぜか少女は怖くなかった。

 それはなぜか……少女が疑問に思う前に、救世主は少女に背を向けたまま声を上げた。



「あぁ!? んなのいいからさっさと逃げなっ!! 大丈夫、ここはオレに任せておけ。だからお前はお前自身と、そしてお前が守りたいと思う誰かの事を第一に考えろ」


「――――――は、はいっ。ありがとうございますっ!」


 そんな男の激に背中を押され、少女はただひたむきに走りだした。


 そうして少女がある程度離れたところで。


「――見事だ」


 救世主たる黒の青年に、先ほどまで虐殺を命令していた白銀の青年が賛辞の言葉を贈る。



「その声、先ほどの通信でこちらの行いに憤っていた男だろう? 素晴らしい。ものの数時間でこの場に駆け付け、無垢な少女を救出する振る舞い。物語でいうところの勇者たるべきものだ。貴公こそが我らが求めし輝く者なのかもしれないな」


「てめぇは……さっきの――」


「エイズ・ピリドマン。それが私の名前だ。さて――私にも貴公の名を聞かせてくれないだろうか? 栄えある勇者の名乗りだ。心震えるものを願いたい」


「はっ! 勇者だぁ? そんな大層なもんじゃねぇよボケが」


 そう前置きして黒の救世主は高らかに名乗った。


「オレは共生国軍第49部隊隊長デッドエンドォッ! オレの大切な宝に手を出すてめぇらみたいな馬鹿に終わりを与える民衆の矛だ」


 それは余りにも堂々とした名乗りだった。

 

「覚悟はできてんだよなぁ侵略者共ぉっ! オレの大切な宝に手を出しやがって。今すぐそのクソな人生終わらせてやっから覚悟しろやぁ!!」


「お相手しよう。それこそが我らの望みなれば――」


 そうして悪行を尽くした白銀の青年と民衆の矛を謳う黒の青年がぶつかり合う。

 そんな中――


「デッドエンド様……」


 背を向けて走る少女はその名を頭にしかと刻み、自身の守るべき人の下へと走るのだった――


★ ★ ★


 少女は守るべき人――両親の下へと辿り着いた。

 幸いなことに少女の両親は未だ存命だった。


 しかし、二人は潰れた家屋によって身動きの取れない状態となっており、とても逃げだすなど出来ない状態。

 二人を助け出したいと願う少女は両親の動きを封じている家屋の残骸をどかそうと救出を試みるが、少女の非力な腕では叶うはずもない事であり――



「いいからっ。私たちを置いて逃げなさいっ!!」

「大丈夫だ。後から行く。だから先に逃げるんだ。遠くへっ!!」



 少女に自分達を救う事など出来る訳がない。

 自分たちなどどうでもいいから我が娘よ。どうかお前だけは生き延びてくれ。

 大丈夫だとも。自分達も後で行くから。何の心配もせず逃げて欲しい。


 自分でも信じていない希望を娘に抱かせ、どうか逃げて欲しいと願う少女の両親。

 当然、そんな嘘など娘に通じるはずもない。

 

 嫌だ嫌だと泣き叫ぶ少女。

 諦めない。諦めたくない。

 ああ、どうか。誰か助けて救世主様。


 二度の奇跡など起こり得る訳がないとしりつつ、少女はそう願い――



「――全く。ご両親のいう事は素直に聞くものですよ?」



 突如、両親達の動きを縛っていた家屋の残骸が両断される。


「きゃっ――」

「うおっ――」


 それと同時に少女の両親達は埋もれた家屋から引っ張り上げられ、少女の近くへと少し乱暴に着地させられる。



「あなたは――」



「わたくしの事はどうでもいいでしょう? それよりもさぁ。早くお逃げください。デッドエンド様が救いしその命、無駄にしてはいけませんよ?」



 身の丈ほどもある長刀を片手ににっこり微笑む紫髪の女性。

 少女には彼女が物語に伝え聞く天使のように見えた。



「あ、ありがとうございます。さぁ、行くぞ」

「ええ、さぁ、行くわよフレア」



 名を呼ばれた少女は両親に手を引かれながらその場を後にする。

 その最中さなか――



「ありがとうございます! 天使のお姉さんっ!」



 そう言って少女は紫髪の女性の前から姿を消した。



「――天使などとは……わたくしの身には余る過分な評価ですね」


 残された紫髪の女性――キーラ・ブリュンステッドは自身などには不釣り合いな天使という呼称をしてくれた少女になんとなく申し訳ない気持ちになってしまう。

 自分はそんなに優しい存在じゃないから。むしろ、もっと血塗られた女だから――



 そうしていると、遠くから建物の倒壊音が響いてくる。



「――感傷に浸っている場合ではありませんね。デッドエンド様が謎の襲撃者を相手取っている間に一人でも住民を救わなければ」



 キーラ・ブリュンステッドは走る。

 自身の主たるデットエンドの命令に従い、一人でも多くの住民を助け出すべく全力を尽くしにかかる。



「しかし、一体なぜこんなことに……。そもそも、あの襲撃者達は一体何者なのでしょうか?」



 崩壊した村の中を走りながら、キーラ・ブリュンステッドはその日の出来事を振り返るのだった――


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