第156話 ペリエルの目的
【白い部屋のレオ・ルグラン③】
「なんですか? ルグランさん」
クレオパトラはこちらに怪訝そうな視線を向けた。
「ちょっと聞きたいことがあるんですが……」
「どうぞ、手短に」
「あなたが言ってる反作用っていうのは、あの白い部屋にいた人たちが6年後の世界に飛ばされたことを言ってるんですよね? それは『聖杯』と『ロンギヌスの槍』というふたつの聖遺物によって引き起こされたんですか? 他の要因ではなく?」
「少なくとも私はそのつもりだったけど、何か別の要因とやらに心当たりがあるの?」
「ええっと……俺たちはミッションを『天使ノート』っていう便利なノートから指示をもらって進めていたんですけど、そのノートによるとノートが指示した内容に従わないとミッションの変更とみなされるんです。で、変更は3回までしか認められなくて、4回目の変更をすると大きな反作用が起きて地獄行きになると書いてあったんです」
「申し訳ないけど、そのルールについて私は知らないわ。ペリエルなら知っているんじゃないかしら?」
「どうなんだ? ペリエル」
俺はペリエルに聞いた。
「あなたは脱線しちゃう癖があるでしょ。だから一定の歯止めが必要だと思ったのよ」
「じゃあ、やっぱり天使ノートの指示はあんたが出してたのか?」
「また、途中からはね」
途中から? どういう意味だ?
「ルグラン殿、その辺の説明については後から十分にあるだろう。今は告発を進めさせてほしいのだが」
ミカエルが口を開いた。響き渡るような重みのある声だった。
「わかりました」
有無を言わせないような圧を感じて俺は口をつぐんだ。
「では告発を進めます。1424年から1430年に時間が進み私たちはもといた世界とは違う世界に飛ばされました。私はこのことがジャンヌの救済につながることだと思っていました。少なくとも『ゲーム』のルートが書き換えられて『聖杯ルート』になったことで私が勝利したのだと考えていたのです」
クレオパトラが告発の続きを始める。つまりゲームに勝利したからクレオパトラの望みが叶ったというふうに思ったということか。
「事実、ローマ帝国は復興していました。そして私の唯一の望み「カエサルともう一度やり直すこと」も実現したと思えました。昔のままの姿で彼が現れたからです」
ここで言葉を切ってクレオパトラは再びペリエルへ視線を向けた。
「ですが、彼は私に言いました『ママ、お帰りなさい』と」
一瞬、ペリエルが口元を緩ませたような気がした。
「カエサルは外見こそ大人ですが、中身は幼い子供になっていたのです」
俺はルーヴル宮殿内の書庫、『鷹狩りの塔』でカエサルに会った時のことを思い出した。カエサルはクレオパトラのことをママと呼び、その言動は全くの子供だった。
「私は失望しました。そしてジャンヌに計られたと思いました。彼女が自分の考えで偽の聖遺物をコジモに渡し、不完全な世界を作り上げたのだと、そう思いました。ですが……それは間違いだったのです。偽の聖遺物を用意したのは、ペリエルだったのです」
俺はペリエルの顔を見た。彼女の顔にはハッキリと歪んだ笑みが浮かんでいた。
「もちろんペリエルの計画を実行したジャンヌにも罪はあります。ですが、ペリエルにはもっと大きな罪があります。それは天界に対するクーデター実行の罪です。彼女は自分の私的な目的のため天界を我がものとすることを企んだのです。彼女の私的な目的とは……」
――歴史の改ざん。
クレオパトラの言葉が白い部屋に響いた。
「ペリエルは、ジャンヌ救済などどうでもよかったのです。ジャンヌよりも救済するべき人間がいる、そう考えていました。いや、今でもそう思っているはず。その人間とは――」
クックックッ。ペリエルの肩が震えている。なんだ、まさか泣いているのか? いや違う。笑っているのだ。クレオパトラが眉根を寄せてペリエルを睨んでいる。
「何がおかしい?」
「いつからミカエルの犬になったのー? エジプトの女王さまーっ」
ペリエルの言葉には明らかに侮蔑の感情が込められていた。
「あっ、ごめんなさーい。今はローマ帝国の皇后様でしたっけ?」
語尾を伸ばす特徴的な喋り方は俺のよく知っているペリエルのものだ。だが話す内容は悪意に満ちている。
「だってぇーっ、おかしいでしょー? なんでフランスの田舎娘なんか助けないといけないのぉー? ミカエルさまーっ。私、お願いしましたよね。ジャンヌを救済するなら、マリーも助けて欲しいって。そしたらあなたなんておっしゃいましたー?」
ペリエルの矛先は上司である大天使ミカエルに向かう。マリーってまさか?
「マリー・アントワネットは『火刑』になったわけじゃない。復活は可能だって、そう仰いましたよねー。でも私知ってるんですよ。あなたが救いたかったのはジャンヌなんかじゃない。そう、あなたの可愛い妹、アイヒヘルンだってね!」
俺は頭をバットで殴られたような衝撃を感じた。今、あなたの
「おい! 嘘だよな?」
俺は隣の席で口をあんぐり開けているアイヒに言った。
「嘘では……ありましぇ……ん」
泣きそうな声でアイヒは答えた。
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