勇者に選ばれた!

ASEAN

第1話 夢

今からずっと昔、二つの世界が在った。

一つは人間の世界。知恵を使い、自分たちが君臨できる世界を作り上げていった。

一つは魔族の世界。人に扱えぬ魔力を使い、自分たちの夢を叶えるために生きていた。


 夢を見た。何も特別じゃない、俺みたいな歳の奴なら一度は見るだろう。あの剣を引き抜き、勇者に選ばれる。そんな妄想の夢を。

 朝起きて、やっぱり夢だったんだと再確認する。そりゃそうだ。あの剣、いや、あの石像は村ができるずっと前からここにあるんだとか。石像の名前は勇者の剣。何千年も昔に、勇者が魔王を倒したっていう剣らしい。そんな伝説が残ってるなんて、村のじっちゃん達ですら聞いたことないけど、剣が刺さったでっかい石にそう彫られてるんだからそうなんだろう。

「王歴元年 魔王は地に落ちた 勇者と共に剣は眠りにつく 遥か未来に勇者に選ばれしもの この剣を手にするであろう」

 つまりこの剣はいつか、新しい勇者をみつけるためにここにあるんだと。て言っても剣は剣でも石でできた作り物で、どれだけ屈強な男でも、抜くことも壊すことも傷つけることすらできたためしがないんだと。

 そんなものだから、俺たちみたいな歳の奴なら一度は剣を抜いて勇者になる妄想をするだろう。けど、本当に試す奴はそういない。なんたって、石像は村のど真ん中、抜こうとすれば村中のみんながそいつを見て笑うだろうさ。だから俺は、いや俺も試したことはなかった。

 けど今日は違う。あの夢のせいか、今ならあの剣が抜けるんじゃないかって思うんだ。それでも少し恥ずかしいから、まだ起きてる人が少ない今のうちに、誰にも見られずに試してみよう。そう考えて俺は、村の中心の石像の前まで来た。これを前にしてもまだ、剣を抜ける気でいるのは何なんだろう。変に気持ちが昂る前に、さっさと試して失敗して、羞恥心で二度寝してしまおうと、俺はその剣に手をかけた。

 そして俺は剣を掲げた。何の感慨もなくあっさりと、声を上げる気にもならないくらい簡単に、その剣は俺の手に握られていた。

 ?「おはよう。ずっと、君を待っていたよ。」

 唐突に話しかけられて、俺は周りを見渡す。けれど、ここには俺以外の生き物はいなかった。

 ?「あぁ、ごめんよ。驚かせてしまったね。僕は今君に握られている、そうだなぁ、この剣の精霊みたいなものだ。これからよろしくね。」

 夢みたいだ。あの勇者の剣が俺に抜けて、しかも話しかけてきてるって、今はまだ夢の中なんじゃないかとも思ってしまう。でも夜明けの肌寒さや、握られた石の冷たさが、これが現実だってことを教えてくれている。ようやく理解してきた。俺は勇者の剣を抜いたんだ。勇者に選ばれたんだ。早く帰って母さんに自慢しよう、あんたは勇者の母親なんだって。ニヤけ面を隠しもせずに、浮いた足で家に帰る。

 精霊?「喜んでもらえたならよかったよ。」

 そりゃ嬉しければ喜ぶだろう…と、声に出しそうになって足が止まる。なんだかへんな感じがする。それもそのはずだ。

 主「剣が喋ってる!?」

 思わず声を上げた。だんだん理解し始めて、逆に頭が混乱する。

 主「どういうことだよ!なんでこの剣喋ってんだ!?ていうかお前誰だよ!」

 混乱した俺の問いかけに対して、そいつは何とも冷静に言葉を返した。

 精霊「さっきも言ったけど、この剣に宿る精霊だよ。これから君と一緒に魔王の復活を阻止するんだ。そのために僕は君を選んだんだからね。」

 主「じゃあ、ホントに俺は勇者に選ばれたんだな!ぃよっっしゃーー!ありがとーー!」

 精霊「喜んでくれるのはいいけど、家に帰らなくて大丈夫?今の君は、石を持って大騒ぎしているように見えるんじゃないかなぁ。」

 主「そっそれもそうだな!家に帰ったらじっくり話そうぜ!」

 と精霊の言葉に頭を冷やされた俺は、小走りで家に帰った。

 

 ?1「どうやらうまく行ったみたいだな。」

 真っ暗な空間で誰かが別の誰かに話しかけている。

 ?2「ああ、勇者も彼もまったく気にしていないようだ。」

 水晶玉を持った誰かが、その問いかけに答えた。

 ?1「ようやく魔王様が戻られるんだなぁ!ったく、何千年待たせんだよ。体鈍っちまってんぞ~。」

 ?3「冗談もいいが、ふざけすぎるなよ。また何千年と待たされたくはないだろう。」

 ヘラヘラと笑う一人目に対し、また別の誰かが話しかけた。

 ?2「その通りだ。またあの時のような事態になるのは避けたい。今回が最初で最後にしなければ…。」

 ?1「そうだな、こうも待たされんのは二度とごめんだね。」

 ?3「だからこそ、我々も協力せねばならんのだ。すべては世界をあるべき姿に取り戻すために。」

 三人目の言葉を最後に、その空間から二つの気配が消えた。

 ?2「直接干渉は任せたぞ。私はしばらく様子見させてもらう。」

 と一言を残して2人目も暗闇へと姿を消した。

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