第13話 魔術弾の射手

 続いて始まったのは先鋒コレットと新入生の次鋒アガーテの戦い。


 巧みな高速攻撃を得意とするコレットに相対するは、銃を携えたアガーテだ。


「私の名はアガーテ・ウェーバー! 楽しませて頂戴!」

「ははっ、これは手厳しそうな相手ッス」


 早速アガーテは銃を構え、その銃口を天に向けた。


「!?」


 それを見ていた学生たちは何をするのかとワクワクと共に、相手に向けると思っていたようで驚嘆していた。


「先手は貰いますわ! 魔弾の第一『ネバー・アライバル』!!」


 打ち上げた弾丸は思いの外遅く、ゆっくりとゆっくりと上がっていく。

 地面から4m程だろうか、いきなり破裂し周囲に一瞬だけドーム状の光を発した。


「さぁ、行きますわよ!」


 その声だけを残し、アガーテは目の前から消えた。

 否、超高速で移動したのだ。


「どこいったッスか」


 コレットは周囲を警戒し、キョロキョロと見回す。

 速さには自身のあったコレットでさえ、この速度を初見とはいえ見切ることなど出来なかった。


「ここですわ!」

 ────ズガガガガガガ


 そうアガーテが言い放つと、四方八方から銃声が聞こえてきた。

 その全てがコレットに向かって放たれた弾丸だ。


「なんスかなんスか!?」


 何とか避けていくコレットは、自慢の速さも通じない相手であると悟った。


「これは……厳しいッスね……」


 周囲の床には弾丸が当たった後が出来ていた。

 狙撃銃で行えるものでは無いのは確かだ。

 その攻撃が終わるとアガーテが止まり、銃口をコレットに向けた。


「まだやれるかしら?」

「当たり前ッス!」


 ──アガーテの持つ銃が変わっていた。


 先程まで狙撃銃だったそれは、機関銃のような乱射できるタイプになっていた。


「魔弾の第二『死舞踊デッドマンズ・バースト』よ。さすが先輩ね、避けられるとは思わなかったわ」


 片手で振り回すにはいささか重量のありそうな獲物を片手にあの速度を出していたのか。

 なかなか恐れ入る膂力だ。


「さすがにビビったッスよ。でも、こちらも先輩なんでね。負けられないッス」


 チラッとコレットは先輩チームの方を見ると、負けたら許さんオーラを放っていた。

 あれではなぁ、とレントが思っていると戦いは再開された。


天装術てんそうじゅつ無幻無爪むげんむそう


 コレットの放つ天魔術。

 それはかの属性が得意とするものだった。

 天の力を武装と化し、それを扱う魔術だ。


「あの魔術を使ったコレットは甘くないですよ」


 何故か隣に解説をしていたはずの教頭が来ていた。


「何故ここに……」

「いやぁ、近くで見たかったんですよ。あのアガーテさんの魔術」

「彼女の……」


 確かに珍しいというか、見たこと聞いた事の無いタイプの魔術だ。

 あれでは、どの属性にも含められないだろう。


「アガーテさんの魔術はですね、ウェーバー家の継承魔術なんですよ。代々投手になる予定の人に受け継がれる魔術です。なかなか見れませんよ?」

「へぇ」


 そんな魔術もあったのか。

 世界は広いものだな、レントが頷いている。

 その時、戦況はさらに激しいものとなった。


「オラオラオラオラオラッス!」

「くっ……」


 あらゆる場所から現れては途端にいなくなるコレットは、まさに先程の反撃と言わんばかりの攻撃をしていた。


「ま、魔弾の……きゃぁ!」


 足元にコレットの爪が引っかかった。

 血が流れるが、そんなことを気にしていてはさらにやられる一方だ。

 アガーテも流石に少し離れて様子を伺った。


「……やりますわね」

「そっちこそッス」


 少しの間沈黙が流れたが、1発の銃弾がその沈黙を壊した。


「しかたない、やりますわよ。マックス!」


 ────魔弾の第三!『殲滅の十字星ドミネイト・クロス


 その瞬間、先程まで機関銃だったその銃はマスケット銃のような様相に変わった。

 そしてアガーテはというと、なんと5人に分身していた。


「あれが、魔弾の第三……!これを見れただけでも生きててよかった!」


 隣で教頭が感動している。

 殲滅の……十字……

 いや、あれでは五角形だろうと言うツッコミは誰しもが言いたいものである。


 なぜなら、その攻撃する様子は相手を中心に5方向に別れて打つものだった。

 流石に十字には見えないのだ。


「ふふんっ、これでどうかしら」

「それじゃあ、私が避けたら自爆ッスよ!?」


 その静止も聞かず、アガーテは引き金を引いた。

 これを食らっては不味いと上に逃げるコレット。


「甘いわ、先輩?」

「にゃにっ!?」


 よほどだったのかコレットの口調が崩れた。

 ケットシー族はみんなあの口調なんだろうか。


 五角形の中心に向かって放たれた弾丸は、中心で混ざってコレットの方へと向かっていった。

 いくら避けても追いかけてくる。


「なななななっ、こんなんどう避けるにゃ」


 これを相殺する火力はコレットには無い。

 銃弾とは言っても5つが合成された言わば魔術弾なのだ。

 ただでさえ魔術に乏しいケットシー族のコレットでは、これを撃ち落とす攻撃など持ち合わせていないのだ。


「ええい!もうどうにでもなれッス」


 その声で、手にした爪で弾を攻撃した。


 予想通りか予想を反したかは本人にしか分からないが、攻撃が当たった瞬間に激しい爆発を発生させた。


「殲滅の十字星、ただの弾丸合成だと思わない事ね。殲滅の名を背負ってるのよ」


 その言葉が合図か至近距離から爆風を受けたコレットが落ちてきた。

 どうやら、気絶しているようだ。


「やりすぎじゃない?」


 レントは帰ってきたアガーテに向かって聞いてみた。


「あっちはこれをするほどの攻撃をしてきたってことよ」

「まぁ、そうなんだろうけどなぁ」


 いくらなんでも気絶はなぁ、と思っていると担架を持った学生がコレットを乗せて救護室へと運んでいった。


「うむ!珍しいものも見れたし満足満足!して、アガーテは次の戦いはどうする?」


 その視線はアガーテと言うよりは足に向かって言っているようだ。


「回復すればまだいけそうですけど……今日は本調子とは程遠いので棄権しますわ。手の内もあんまり晒すものじゃないですものね」


 そう言うとやはり足が痛いのか、アガーテも救護室へと向かっていった。



「さて、それではアガーテが勝ちはしたが危険してしまったから……未だ新入生チームが劣勢ではあるな。我が校の学生が優秀で鼻が高いぞ」


 校長先生が仰け反っていると、教頭からアナウンスが飛んできた。


「次の対戦は、先輩チーム次鋒ジギル!」


 その声で先輩方は大きな歓声を浴びせる。


「そして、新入生チームは中堅ケイス!あんまりこの場所を破壊しないでくれると助かるな!」


 そうか、この場では本人と校長先生くらいしかケイスの力がわかってないんだ。


(壊すほどって……そんなにか)


「それでは、そろそろ次の戦いに……行きたいところだが腹が減ってはなんとやら、昼名の時間だ」



 その声とともに、昼食のチャイムが鳴り響いた。


「続きは昼からにしよう、解散!」


 それを合図に学生たちはわらわらと別れていき、自分の昼飯を食べに向かった。



 時は同じにして、ケイスは少しホッとしていた。



「まだ、まだだよ。あと少しで戦えるからね……」




 ────そのケイスの声を聞いたものは、誰一人としていなかった。

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