4:先輩が妙なスキンシップをしてくる


「真田くん真田くん!」


「お疲れ様です土屋先輩……!?!?」


「ん〜どうしたのかなぁ?」


「……なんで俺に抱きついてるんですか!? は、離してください!」


 出勤する十分前。休憩室で準備をしている時、突然土屋先輩が俺に抱きついてきた。ぎゅーっと思いっきり抱きしめられて先輩の身体が今までにない以上に密着しているに加えて、先輩のいい香りがして俺の頭の中をぐちゃぐちゃにする。


 特に一番ダメなのが、先輩の芸術的なおっ……ぺぇが身体に当たってきて正直いつ鼻血が出てきてもおかしくない。ダメだ、このままじゃ俺は出勤前にも関わらず確実にダウンしてしまう!


「えーやだ。可愛い可愛い真田くんに私をいーっぱい味わってもらいたいからね。バイト始まるまでこうしちゃうよ!」


 でも土屋先輩が俺をすぐ離す気がないのは明白だった。それどころかスリスリとわざとらしく身体を俺に擦り付けてきている気もするので、多分このままじゃ俺は終わりだ。憧れの先輩の前で鼻血を出すという醜態を見せることになる。


 くっ……せめて他に人がいればいいんだけど、今の時間は休憩室に俺たちしかいない。だとすればもうここは……


「せ、先輩! お、俺トイレに行きたいので離してください!」


 流石にトイレと言えば離してくれるはずだ。また嘘をつくのは申し訳ないけど、これは仕方ないこと……。


「あ、なら私もついていくよ」


「何を言ってるんですか先輩!?」


 いやいや、その返しは全く予想していなかったんだけど! なんで平然とトイレについていくとか言ってるんだこの人は!?


「いやー、私のせいで真田くんがトイレに行きたくなっちゃったんなら、私がその責任取らないとなぁって」


「せ、責任って……」


 ま、まさか俺の下半身が反応してしまっていることに気づいてそんなことを言っているのか……? さ、流石に先輩はそんな淫乱な人じゃないはずだ。俺がエロ漫画を読み過ぎてしまっただけだろう。


「と、とにかく一人で大丈夫です!」


「あ、さ、真田くん! …………に、逃げられちゃった。流石にいきなりすぎたかな……」


 俺は無理やり先輩から離れて、なんとかトイレに逃げ込んだ。あ、危ない……あのまま本当にトイレに一緒に行ったら、バイトどころじゃなくなってたからな。


 それからバイトが始まって、いつも通り俺たちは働いていた。流石に店の中であんな過度なスキンシップはできないから、先輩も自重するかと思いきや……。


「ねー真田くん。今日暑くなーい?」


「い、いや今日寒いですよ。10月なのに冬並みの気温ですし……」


「そーかな? いやー暑いなー暑いなー」


「うっ……」


 もともと客が来ない店なので、俺たち以外誰もいない時間がそれなりにある。その時間を使って、先輩はわざとらしく服の胸元をパタパタとさせてきた。その際、ちらっ、ちらっと先輩の純白のブラが見えてしまって……ああああああああああああああああああああああああああ! こ、このままじゃ俺が我慢できなくなっちまうよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおお!


「ねー真田くん。今日さ、私ね。新しく買った下着着てるんだけどさぁ。真田くんは何色が好き?」


「へぇ!? い、いや俺は……そ、その……」


 い、いや危ない。危うく女性の下着なんか見たことがないと言いそうになる。だけどそれは俺に彼女がいるなんてのが嘘だとバレてしまう。だ、だからここはひとまず思った色を言って難を逃れるしかない……!


「し、白が好きです……じゅ、純白の……」


 ……なーにを言ってるんだ俺は! 今見た先輩の下着の色を言ってどーすんだよ! 「やっぱりジロジロ見てたんだ。真田くんのえっち……」って軽蔑されてもおかしくない!


「そ、そうなんだ! へー、いやー今日は本当に暑いなぁ、暑いなぁ〜」


 だけど先輩は軽蔑した様子を見せるどころか、むしろどこか嬉しそうにまた胸元をパタパタとし始めた。ぎ、ギリギリセーフって……こと?


「ところでさー真田くん。今日の帰りさー、一緒にご飯食べたいなーって思ってるんだけど、予定って空いてる?」


「え? あー、今日はすみません。ちょっと用事が」


「……え? そ、それって……彼女?」


 いや、本当はばあさんの誕生日を祝うためにさっさと帰ってこいって言われているだけだ。でも、ここでそれを言ったらまた子供扱いされてしまう。だったらもういっそ……


「そ、そうです! か、彼女と会うんで!」


 見栄はって彼女と会うことと言った。先輩とは帰る方向逆だし、バレることもない……よな?


「そ、そうなんだぁ……じゃ、じゃあまた今度誘うね……。あ、あはは、あははは……」


 そんなこんなで、なんとか俺は先輩の妙なスキンシップを耐え切ってバイトを終えることができた。ふぅ、今日は帰ってばーさんを祝ったらすぐに……寝よう。



「あ、あんなに誘惑したのに彼女のこと選んじゃった……わ、私にまだ魅力が足りないの……? い、いや、真田くんはきっと遠慮しちゃっただけに決まってる! それに……ちゃんと私には反応してくれてたし。ふふふ……ふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふっ、可愛かったなぁ、真田くんの反応。もうすぐ……もうすぐ!」

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