第8話
マホマホ王国
「奴らの様子はどうだ、少しは落ち着いたか?」
「はい陛下。ほとんどの男は冒険者の真似事を始め近場のダンジョンに毎日足を運んでいるようです。
与えた女に手を出す者も出てきておりますのでもう暫くすれば我々への警戒も緩むことでしょう。
しかし女の方は、数名を除き、キョウシと名乗る女がまとめ邪魔をしており我々に対する警戒を強めております」
「その女、邪魔だな。まあ、今はまだよい。好きにさせとけ。それより何か分かったか」
「……はい。いや、それが……確たる証拠はつかめておりませんが、可能性としましてはキリリ神聖王国の手の者ではないかと」
召喚の儀が上手く運び32人という過去の文献にもない驚異的な数の召喚されし者を招き、上機嫌となったマホマホ王国の王は、急遽、その力を見せつけてやろうと画策して、国内の貴族や来賓向けにオークション(お披露目)を執り行った。
そのオークションも召喚されし者の能力を見せつけるだけの出来レースだったのだが、目的は他国にその能力の高さを見せつけ、今後の外交を有利に進めるためのもの。
途中までは思惑通り進み笑いが止まらなかった。
お披露目の済んだ召喚されし者は結託されないよう一人一人奥の部屋へとすぐに移し、身分を保証するものだと言って考える時間を与えることなくて隷従の腕輪を嵌めさせることにも成功していた。
一人だけ魔力量0という下等な生物が紛れていたのですぐに奴隷商に捨ててくるよう指示したが、そんな事はどうでもいい。
お披露目を終え、ワシは後宮に送る女や王族派の配下に与える女や男(召喚されし者)の選別でもしようと、召喚されし者を集め待機させていた部屋へと足を運べば様子がおかしい。
監視させていた王国騎士や兵士が倒れている。
それだけならまだよい、というのも床には無効化された31個の隷従の腕輪が転がっていたのだ。
しかも、召喚されし者たちの手には倒れている騎士や兵士たちから奪ったと思われる武器(長剣や槍)が握られていたのだと。
これはまずいと思い背後を確認している間に宰相がその場をどうにか収めた。
いや、あれはもう彼らを刺激しないよう、彼らの要求を全て呑んだだけのことだが、あの場はあれが最善だっただろう。
衣食住の保証に行動の自由という要求を呑むことが。
あとは召喚されし者を各部屋へと案内させた。
個室を選ぶ者、二人部屋を選ぶ者、四人部屋を選ぶ者、要求に統一性はなかったが変に刺激しない様好きにさせた。
後で倒れていた者から聞き取りして分かったが、騎士たちが召喚されし者たちの部屋へと入った時にはすでに隷従の腕輪は何者かの手によって解放されており反撃を受けた。
これはお披露目の場で鑑定され己の習得しているスキルや魔法を認知させてしまった故にできたこと。奴らを侮りすぎていたのだ。
悔しいが召喚されし者たちの力は強力だ。あの場での判断は改めて間違っていなかったと安堵したよ。
あのまま彼らが破壊活動を始めれば我が国は滅んでいたのかも知れぬのだからな。
計画を狂わされ腹は立つが、面と向かって敵対しなければ、いくらでもやりようはある。
そう、男には見た目の良い女(急遽仕入れた奴隷や娼婦)を専属メイドとして5人ずつ与え好きにするよう伝える。貴族の娘を使わないのは後々面倒になるからだ。
与えた当初は警戒されたが、これは謝罪でもあると伝えれば鼻の下を伸ばしていた男どもの表情が変わった。あれではすぐに手を出すだろう。
いや、女たちにも子を孕んだら好きな褒美を与えてやると伝えているので、先に押し倒されているかもしれんがな。くくく。
身の回りの世話には年配のメイドを補佐にしているので心配はないだろう。
女は、どうにかしてワシの後宮に入れるつもり故に、専属執事を与えても手を出す心配のない高齢な者だけにしたがな。
あとは宝石や豪華なドレスを贈り時間をかけて落としていく。王家主催のお茶会や豪華なパーティーに招待するのもいい。そうすれば自然と警戒も緩んでくるだろう。
もちろん懸念もある。それは、召喚されし者同士が男女の仲になることだ。
ただでさえ魔力量を多く保有している者同士、その子がどうなるか予想もつかないのだ。下手をすれば王家が傾く。力を与えてはいけない。
そのような指示を出した日の事を思い出しつつ目の前の宰相の言葉に耳を傾ける。
「キリリ神聖王国は召喚されし者は勇者であり勇者が誕生すれば対となる魔王もまた誕生するだろう。
軽々しく召喚するべきではないとバカな抗議してきた国の一つです」
「ふむ」
「もう一つの可能性としてはネチネチ帝国です」
「かの国も我が国が力をつけるのを黙って見ておるまい……可能性は充分にあるか。
いまいましい。もう分かっておると思うが、これ以上他国の間者を好きにさせるな。警備を強化せよ」
「はい、畏まりました」
————
——
「あはは、好きに言っちゃってるね」
「馬鹿じゃねぇの、あんなことがあったってのに、誰があんなアバズレどもとやるかっての」
「うん。罠だってみんなにバレバレだよね、っていうかあの王様キモすぎない」
「キモい。頭も足りてない」
冒険者の格好をした数人の生徒たちが、ダンジョンのある一室で合流し、ある画面を見ながら非難している。
これはある生徒が遠影スキル使って映し出したものだ。
「でもさぁ、先生危ないかもね」
「うん。はっきりと邪魔って言ってたね」
「そうだな。のんびりしてると危険かもな」
皆が腕を組み頭を捻らせる。
「もうさ……考えていた計画よりちょっと早いけど、みんな力の使い方分かってきてるし行動に移しちゃう?」
「うーん」
「そうしたいんだけど、マサルたちのグループがな。あいつらだけ返事をもらえてない」
「マサル? あ〜、オタクグループの4人な。あいつら俺たちのこと睨んできて感じ悪いよな。前はそんなことなかったのにさ、なぜか目の敵にしているっぽく感じるんだよ。それにビッチメイドたちとも毎日よろしくやってるようだし」
「えっ、マジ?」
「マジマジ、おおマジよ。それこそ昨日さ、こそこそ何か話していたから気になってスキル使って確認してみたらビッチと朝までやってたって話でビックリしたのよ。皆で迂闊な行動はとらないよう気をつけようって決めてたのにさ。
他にもあいつら、兵士たちは自分たちが怖くてぺこぺこするし気分がいいとか、偉そうにしても文句だって言われない、というような、俺たちが聞けば引くような話ばかりしててよ、終いには俺たちの時代が来たって本気で言っててちょっと怖かったぜ。
だからあいつらは誘わなくてもよくね?」
「はぁ、そんな感じになってるのかぁ。それなら仕方ない、のか。いや、でもなぁ……」
「はあ、そんな悩むことか、いや違うか。お前のことだ、責任を感じてる先生のことでも考えてたな。お前、アヤ先生のこと好きだったもんな」
「い、いいだろう別に。でももう一度だけ、もう一度だけ僕に確認させてくれ。それでダメなら何も言わない」
「まあ、あいつらも一応クラスメイトだし、しょうがないか」
「そうよね。上手くいけばアヤ先生の憂いも少しは晴れるだろうし、そうした方がいいよ」
それから少年たちはそれぞれ時間をずらしてダンジョンから出ると何事もなかったように城へと帰った。
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